第11話 誰がヤリチンだよッ!
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モチベになります!!!
俺は躊躇うことなく、その腹に拳をぶち込んだ。
「ガハッ……」
「お前、それってただの浮気じゃねぇかァァァ!!!」
「ま、待ってくれ……僕も反省してる、それに関しては反省してる――グフゥッ!?」
必死に俺の拳を止めようとするフェルトの顔面も殴っておいた。
なんだか、顔面を見ていたら無性に殴りたくなったのだ。
八つ当たり?
フェルトを地面に放り投げると、彼はゴロゴロと少し転がる。
「て、手加減って……ないの……?」
フェルト唇を切ったのか、少し血で顔を赤く染めていた。
彼はよろよろと立ち上がる。
「手加減? あるわけねえだろ! 浮気者に容赦する奴がどこにいんだよ」
「うっ……クロエには本当に申し訳なく思ってる……転生直後はミラに会えるという事実に気づいて、調子に乗ってしまったんだ……その結果、クロエを放置しちゃったというか……」
「お前の言い訳なんて求めてねえよ……クロエにはすでに、直接謝罪したのか?」
「勿論だよ……婚約破棄をクロエから突きつけられた後にね」
婚約破棄を突きつけたのはクロエの方からだったのか……。
あのクロエをそこまで怒らせるって、どんだけのことをしたんだか……。
「まあいいか……クロエの怒りの分まで殴ったし」
今まで散々、顔色伺わされた鬱憤も晴らせたしな!
え? ただの八つ当たり?
はて……なんのことやら。
「そ、それで……どうか、ミラには手を出さないでもらえないか?!」
フェルトは鼻血を出し、唇から血を出しながら懇願する。
なんだろう……ここまでくると、怒りも呆れも通り越して尊敬の域だ。
これがオタク……?!
「勿論、手なんて出さないよ……確かに、この世界の女の子は驚くほど可愛いけど、俺は別に好色家ってわけじゃないからな」
「ち、違うのか!? てっきり、ヤリチンなのかと……」
「ちげえよ! 誰がヤリチンだよッ!」
そういえば、まだ俺が貴族であった頃、一時期そんな噂も流れていたような……?
本当に、誰が流したんだ……? そんな噂……。
「でも、良かった……ミラには手を出さないんだね?」
「当たり前だろ」
「良かった……悪役貴族であるのに、あそこまでクロエを懐柔する色男にミラが狙われたら大変だからね……」
「懐柔って……俺は特に何かしたわけじゃないんだけどな……」
「そんなわけないだろ……別に隠さなくたっていいさ、拳を交えた男同士の仲だろ?」
俺が一方的に腹パンしただけどな?
「でも……そうだな、一つ約束がある」
「ん……なんだい?」
ハンカチで顔についた血を拭き、立ち上がるフェルトに俺は――
「勇者として――世界を救ってくれ」
そう言い放った。
邪神は……この世界のラスボスは勇者であるフェルトの持つ力でなくては倒せないからだ。
「――嫌だね」
「……は?」
「なんで、この世界の人間でもない僕が命をかけて戦わなければいけないんだい?」
「お、おまっ……この世界が滅んだら、お前の大好きなミラだって死ぬんだぞ?! 勿論、お前もな」
「だから何さ……邪神が倒されなくたって人間が全滅するまでには100年はかかるんだろう?」
「っ……?! ど、どうしてそれを……」
それは、『黎明の竜剣』IFストーリー集に書かれていた設定だ。
邪神は徐々に徐々に勢力を拡大していく。
しかし、それは徐々にだ。
100年くらいは人類はしぶとく生き続けることができるのだという。
「だとしても……お前とミラが産んだ子供は? 寿命まで生きることができなければ、自由に遊び回ることさえできないかも知れないんだぞ?!」
「……の、……さ」
フェルトは俯くと、小さく呟いた。
「は? なんて――」
「――そんなの知っているさッ! 僕が戦わなければいけないことなんてッ! ……でも、怖いんだよ……ッ!」
悲鳴を上げるように、苛立ちを露わにするようにフェルトは言った。
「突然、昔やったゲームの世界に転生させられて……世界を救う『勇者』だなんていうヘンテコな役割を与えられて……その上、世界を救え?! できるわけがないだろ!」
「っ……」
「なあ、君なら僕の気持ちがわかるだろ? 『悪役貴族』とかいう意味のわからない役割を与えられて、世界に振り回されてきた君なら」
ああ、わかるよ。
突然、転生させられた怒り。戦うことへの恐怖。意味のわからない役割を与えられたことへの困惑。
フェルトなら世界を救うという役割を――俺ならば、主人公のために死ぬという役割を。
多分、抱えているものは俺よりもフェルトの方が重い。
世界を託されているのだ。
でも、でも、でもでもでもでもでも……ッ!
「でも、やらないといけないんだろ……ッ! 俺はこのゲームが好きだ、この世界が好きだ……だから、この世界を守りたい」
「ッ……」
「お前は? 世界はどうでも良くても、ミラが好きなんだろ? 鼻血垂れ流してお願いするほど大事なんだろ? ……だったら、世界救っていいとこ見せてこいよッ! 生まれてくる子供に、父ちゃんは昔、世界を救った勇者なんだぜって自慢できるようなってこいよッ! それが――漢だろ」
「そんなの……言葉ではわかってる……痛っ!」
俺はごちゃごちゃ言うフェルトの額にデコピンをした。
フェルトは痛みで、額を抑え、地面に座り込む。
「なあ、知ってるか……? お前が今日使った魔法……あれは、上級魔法だ。本来ならば、あと1年経たないと使えないんだぜ?」
「へ?」
「お前は口では色々言ってるけど……十分努力してんだよ、このツンデレ野郎が」
「十分……努力してる……?」
「だから、お前はもっと自信を持っていい……お前は絶対に世界を救える。邪神を倒せる。」
「もっと自信を……邪神を倒せる……」
フェルトは呆然と、俺の言葉を復唱する。
まるで、今までの自分に言い聞かせるように……。
「勿論、ここまで言ったからには、俺もできる限りのサポートはするぜ? だから、安心してくれ」
俺は、呆然としているフェルトに右手を差し伸べる。
さあ、この手を取れ。
臆病な勇者なんて要らない。卑屈な勇者なんて要らない。
お前はそのイケメンフェイスで苛つくほどイキってればいいんだ。
「ぁ……」
フェルトは今まで俯いていた顔を上げる。
彼の顔は何かを決意をしたような表情だった。
フェルトは恐る恐る俺の右手に手を伸ばしていく。
その手は徐々に俺の右手に近づいていき――
『――運命崩壊を感知。直ちに修正してください』
刹那、そんな機械音が鼓膜を揺らした。
背後だ。振り向いていないが、わかる。
背後に恐ろしい何かがいる。
その時、俺の危機察知センサーが今までにないほど警鐘を鳴らし始めた。
「危ないッ!」
「ぐふぅっ!」
俺は思いっきり、フェルトを蹴り飛ばす。
俺が後ろを振り返ると、すぐ近くまで灼熱の光線が迫ってきていた。




