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第10話 俺の最推しッ!



「――お前ッ! ふざけんな」


 そんな怒号と共に俺の肩が掴まれた。


 振り向くとそこにいたのは、グレンだった。


「今まで普通の中級魔法しか使えなかったお前があんな威力の上級魔法を使えるわけねえだろ! ……さてはお前、イカサマしてんだろッ!」


「イカサマ……?」


 何を言い出すかと思ったら、ただのいいかがりじゃねえか……。

 元々、負けず嫌いな性格をしているグレンは、大っ嫌いな俺に魔法で負けたことを認められないらしい。


「イカサマなんて使ってないに決まってるだろ……なんなら、もう一度やってみせようか? お前の目の前で」


 そう言いながら、俺はグレンの目の前に、右手を突き出す。


「ッ……! お、お前……覚えてろよ!」


 グレンは唾を地面に吐くと、俺の前から去っていった。


「ふう……」


 俺はふと、フェルトに視線を向ける。


 彼は、呆然とこちらを見ていた。

 まるで、僕が悪役のお前なんかに負けるはずがない……といった様子で。


 今まで、お前のために苦渋を舐めさせられてきたんだから、これくらい、許してくれよ。


 俺が思うに、俺が破滅エンドを回避できなかった原因は二つある。

 一つ目は、シナリオの崩壊を恐れすぎたこと。

 二つ目は――


 誰かが()()()()()()()()を取って、俺が処刑されるように仕向けたこと。


 フェルトが転生者なのであれば、そうしてきた可能性が最も高いのはフェルトだ。

 フェルトは俺が転生者であることに、早期に察知。

 その後、俺が破滅エンドを避けるために動くことを予想して、様々な手を打って俺を斬首刑へと導いた。


 俺はそんなことを考えながら、元の位置へ戻るために歩いていくと――


「――今日の放課後、体育館裏で待ってるよ」


 フェルトの横を通った時……彼はそう呟いた。


 受けて立とうじゃないか。


 こちらだって、話したいことはその他にも()()ある。


 例えば……シナリオを無視して、浮気してクロエを悲しませたこととか……ね。













「――ヴェインさん! 一緒に帰りませんか?」


 帰りのHRが終わるや否や、クロエは俺に駆け寄ってきてそう言った。


「ごめん……! 今日は用事があってさ……」


「用事ですか? ……それなら、仕方がないですね」


 クロエは悲しさで頭をうなだれる。

 すまないな……普通の時なら一緒に帰りたかったんだけどな……。


「そうだ、代わりに週末、街にでも出かけるか?」


「え……!? 行きたいです行きたいです! でも……まさか、ヴェインさんから誘ってくれるなんて……! もしかして、私の事、好きになってくれました?」


「す、好きになったというか……どっちかって言うと恩返ししたいって感じかな……?」


 正直、俺が今、クロエに抱いているものが恋愛感情なのかどうか……俺でもわからなかった。


 しかし、恩返ししたいのは本当だ。


「むぅ……まだまだ道のりは長いという事ですね……でも、いいです! 絶対に落として見せますから!」


 クロエは口を尖らせると、俺の目を見つめてそう宣言してきた。


「あはは……お手柔らかに……じゃあ、俺は用事があるから先に行くな?」


「わかりました!」


 俺はクロエに別れを告げると、教室の外へと出る。


 クロエと話している最中に急かすような目線を送ってくるとか……どんだけせっかちな奴なんだよ……。


 俺は階段を降りると、体育館裏へと向かう。

 体育館裏は原作でも秘密の話などに使われるほど、人通りが少ない場所だ。


 フェルトがここを選んでくる辺り、『黎明の竜剣』をやったことがあることが窺える。


「来たか」


 灰色の髪に、正義感溢れる顔立ち……間違いない、フェルトだ。


「呼び出しに応じてくれて、ありがとう……()()()()()()


「どういたしまして……()()()()()


 俺たちは互いに黙り込んで、睨み合う。


 その沈黙を破ったのは――フェルトの高らかな笑い声だった。


「――あっはっは! なんてね、冗談だよ……僕は君と敵対したいわけじゃない」


「は?」


 今まで散々俺を陥れておいて、敵対したいわけじゃない?

 ……一回ぐらいなら、殴っておいてもいいかな?


「って、ちょっと待ってよ……なんで拳を握りながら僕に近づいてくるんだい?」


「いや……仲良くなるためには、今までのことを精算しないとだろ?」


「ま、待て待て待て……絶対に何か勘違いしてるよね?! 僕は君に変なことをしたことは一度もないよ?!」


「嘘をつけ! 俺が転生者であることに気づいて、叩き潰そうとしてきただろ……!」


「た、叩き潰す!? いやいやいや! ないない! ……だって、シナリオ通りにすら動いてないんだから」


「は?」


 シナリオ通りにすら……動いてない?


 いやいや、ありえない。

 フェルトがちゃんとシナリオ通りに動いているからこそ、俺は彼が転生者であることに今の今まで気づかなかったのだから。


「流石にその嘘は無理があると思うぞ?」


「嘘じゃない……僕が『黎明の竜剣』をプレイしたのはこの世界に転生する3年前のこと……だから、シナリオなんて殆ど覚えてないのさ!」


「3年前……『黎明の竜剣1』が発売された半年後くらいか?」


『黎明の竜剣』は学園編である1と、学園卒業後の冒険篇の2の前後半で構成されている。

 フェルトは『黎明の竜剣1』を少しかじったくらいってことか……?!


「じゃあ、なんでお前はそんなにシナリオ通りに動いてるんだよ……流石に偶然にしては出来すぎてるだろ」


「シナリオ通り……なのか? 僕はただ、自分の好き勝手生きてるだけなんだけど」


 ……つまり、俺達が知らない何らかの力によってフェルトの行動は操られているということ……?

 しかし、原作の知識を漁ってみても、そんな力を持つ存在に心当たりはなかった。


 そうなれば、容疑者は――


「神……様?」


 ま、まさかね。

 他にも転生者が居た、とか、フェルトが嘘をついているとか、可能性は他にも色々ある。


「おっ……? 誤解は溶けたようだね」


「まあ、まだまだ信じちゃいないけどな……で、本題は何だ? ここに呼び出したってことは何か用があるんだろ?」


「――ああっ! そうだった! 超大事な話があったんだった」


 フェルトはコホンと、咳払いすると――


「頼むっ! クロエのことは勝手に攻略してもいいから、ミラにだけは手を出さないでくれッ!!!」


 手を合わせながら、そうお願いして来たのであった


 み、ミラ……?


「ミラ……? ――ああ! ミラ・ラミーレスか?!」


 ミラ・ラミーレス。俺はその名前を知っていた。


 なぜなら、彼女は『黎明の竜剣』の――()()()()()()だから。


「そうだっ! 子爵家次女で黒髪で少し背が低くて無口で、その割に少し大食いで世界一可愛いミラだ」


「は、はぁ……?」


 なんだなんだ?

 ミラの話になった途端、急にフェルトの空気が変わったぞ?


 今までは残念なイケメンくらいだったのが、残念なオタクに大変身だ。


「えっと……つまり、フェルトはミラのことが好きなのか?」


「ああ! 世界一愛しているさ! ミラは前世からの俺の最推しッ! 『黎明の竜剣』はミラに一目惚れしたからやっていた言っても過言じゃないね!」


「ふぅん……」


 その時、クロエが昔に言っていた言葉が脳裏をよぎった。


『フェルトが浮気をした』という言葉が。


 ……もしかして、こいつ、ミラを溺愛するあまり、クロエを放置してたんじゃ……。


「なあ、フェルト……お前って、元々クロエと婚約していたよな?」


 ゲーム開始時には、主人公はクロエと婚約していたはず……。

 勇者と聖女が結婚する……というのは昔からのならわしだからな。


「ああ、そうだけど……? どうかしたのかい?」


「どうかしたって……もしかして、お前、ミラを溺愛するあまりにクロエを放置したな?」


「ギクッ?! ど、どどどうしてそれを……?!」


「クロエから聞いたぞ。……フェルトが浮気をしたことによって婚約は無くなったって」


「スゥゥゥ……」


 フェルトはあからさまに目をそらす。


 俺は躊躇うことなく、その腹に拳をぶち込んだ。

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