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過ち

『アンズ、起きとる?』

現在は深夜の一時、私は相変わらず小説を書き続けている。

今書いている小説はコンテストに出すものだ。

受賞する為に、私の全力を尽くす。

『起きとるよ。』LEINの画面にアンズからのメッセージが映る。

『よかった。これ確認しといてほしいねんけど。』

アンズにリンクを送る。

『分かった。確認したらまた連絡入れる。』

『ありがとう。』

スマホの画面を閉じると、机の上に置いてある写真に目をやる。

写真には昔の私と、アンズ、それから…

「……ユーくん。」

ニカッと笑い、写真に写るユーくんの顔をしばらく見つめた。

この頃のユーくんは奇抜で、元気いっぱいで…それで…

ハッと我に返り、作業に戻ろうとしてまたスマホに目をやると、アンズからのメッセージが届いていた。

「小説の修正箇所…。」

『ありがとう。今日中に書き直すから読んで。』

そうメッセージを送り作業に戻った。


その日から私たちは狂ったように小説を書き続けた。

以前より小説を見直す頻度を増やし、寝る時間も惜しんでただずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと小説に時間を捧げた。

しばらくした頃だっただろうか。

「アンズ、ここ読んでほしい。」そう言い、小説がプリントされた紙の一部を指さす。

何気ない普通の日だった。

「あぁ、分かった。読んだらまた言うわ。」

自分の席の方へ体を向け、歩き出そうとした。

その時だった。

アンズの席の方からガタッと何かが倒れる音がした。

急いでアンズの方を振り返るとそこには、倒れているアンズとそれを囲んで、状況が理解できていない様子の生徒達が現れた。

「は…え?アンズ…?」

私も状況を理解できていない生徒たちの一部だった。

アンズ……、アンズ。

アンズが倒れてる?

え?なんで?

分からない。

なんで。怖い。なんで。なんで。分からないよ。助けて、助けて。誰か。

『オトギ。』

誰…?

誰なの…?

でもなんだか、この声は。

あぁ…、そっか。

この声は…


「オトギー!小説、新しいの書いてきたで!」

ユーくん…

私の目の前で嬉しそうに小説がプリントされた紙を見せている。

このユーくんというのは、私の昔の幼なじみのことだ。

「ユーくん大先生の新作…!ぜひ拝見させていただきたく申しまする…!」ユーくんの隣で楽しそうに笑う私は本当に幸せそうな顔をしていた。

その後は…なんだっけ。

思い出せない…。

「オトギ…、お前がそんなやつやと思わんかったわ。」

ユーくんの冷めた声が頭の中でキーンと鳴る。

やめて。行かないで。お願い。置いていかないでよ…!


「ユーくん…!」

目が覚めると、長方形のマス目で区切られたコンクリートの天井が現れた。

目に手をやると、指先が濡れている。

「うっ…、まぶしっ…。」

照明の光に眩しそうにしていると

「あっ、よかった!目が覚めたんやね!」

保健室の先生が心配した様子で私の方へ近づいてきた。

「は…、え。なんで私、保健室に。」

と戸惑いの様子を見せる

「突然倒れたみたいやね。クラスメイトの子が運んでくれたみたいやけど…後でお礼しときね。」

私はいつの間にか気絶してしまっていたみたいだ。だが、なにも覚えていない。

ハッと我に返り

「すいません、先生。アンズ知りませんか。」

そう聞くと

「アンズちゃん…ね。」

と深刻そうな表情で話し始めた。

私は真剣な表情で先生の次の言葉を待つ。

「実は、アンズちゃん今病院にいるみたいやね。相当深刻な病気かなにかやないんかな。」

「え…そんな。どうして。倒れただけやのに。」

「それが…倒れた後、急に過呼吸を起こして病院に緊急搬送されたんやと。」

分からない。なんで。どうして。そんな困惑の感情が私の思考を襲った。

「最近アンズちゃん、保健室よく来てたんよ。放課後とかね。」

え…?知らない。どういうこと?

「病院もずっと通ってたみたいやね。詳しくは先生も分からへんけど。」

え、は?なんで。分からない。なんなの。なんで、アンズは私に秘密にして…。

なんなの。

この感情は。

この感情の正体は。

あぁ…そうだ。

これは……

この感情は〝恨み〟だ。

私はずっとアンズを恨んでた。

あの時からずっと。


ー2年前


「私たち、付き合うことにしたんよ!」

そう笑うアンズは、まるでなにもかもを手に入れ、幸せを勝ち取ったかのような笑顔だった。

アンズの隣にはアンズと微笑む合うユーくんの姿。

「そっか…、よかったね。」

私と、アンズ。それからユーくんはいつでも三人で行動を共にしていたから、最初は付き合うと言われた時、少し困惑した。

だが、本当に幸せになってほしいと心から願った。

願ったつもりだった。


「ありがとうございます。ご迷惑おかけしてすいませんでした。」

そう言い、すぐ横に置いてあったカバンを手に取り、保健室を出た。

その後のことはよく覚えていない。

だが、私は昔のことを少し思い出した。

そうだ。私はアンズが大嫌いだった。

優しくする必要も無い人間たちに優しくし、何かを手に入れた時には今までの努力が全て報われたかのような顔をする。

本当に。

大嫌いだ。

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