誰?
小説は繊細だ。
私が作り出したこの子たちは、生かすも、殺すも私の自由。
主導権は全て私。
初めてこの子たちを生み出したのは、小学4年生の夏休みの時だった。
その日は特に暑く、アスファルトに陽炎ができるくらい、外に出るだけで息苦しくなるほどの真夏日だった。
「コンコンッ」
暑さでも何もしたくないと思い、ソファに寝そべっていた時、玄関から聞こえるノックの音に勢いよく体を起こした。
「アンちゃん!ユーくん!」玄関の扉を開けるといつもと変わらない2人の姿が現れた。
「オトギ!今日は山ん中走るで!」
「めっちゃでかいカブトムシおってん!早よ行こ!」
2人は、早く早くと私の方へ手を伸ばした。
「うん!」
今思えばこの時が私の人生で1番幸せだったと思う。
あんなことさえあらへんかったらまた3人で遊べたかもしれへんのに…
せやけど大丈夫やで、ユーくん。私がちゃんと最後までやり遂げるから。
「よし、小説書き直したらアンズに送って寝よか。」
そう思い作業に戻ろうとした。
『お前が殺したんだろう?』え?誰?
『お前のせいであの子は』は?あの子って誰のこと…。
『とぼけるなよ。お前があの子を殺したんだ。』誰なんよ。やかましい。
『お前さえいなければ。』なんなん。やめて。やかましい。
『お前が小説なんか書かなければ』違う。私は小説家になるんや。そうやないとだめなんや。
『でもそれは"あの子"の願いでしょう?』違う…違う、違う、違う違う違う違う違う
「違う!!」
バッと頭を上げると小説のタイトルだけが打ち込まれたパソコンの画面が目の前に現れた。
「は…、え?明るい…」
気がつけばもう朝になっていた。
いつ寝たのかも、なぜ寝たのかも分からない。
「最悪や…何も進んでへん。」
はぁ…とため息をつく。
何の夢…見てたっけ。
「もおぉ…なんも分からへん…こんなことあるんか?」
うう…と顔を伏せる。
「今何時…っては!?」
スマホの画面を見ると既に1時間目が始まっている時間だった。
「はあぁ…!もう最悪や!昨日のこと何も覚えてへんし…おまけに寝坊とか…!」
昨日のこと…、覚えとるわ。
あの後アンズは「帰って小説見直しとくわ。」と微笑んで私の目の前から去っていた。
アンズには申し訳ないけど、私の夢を叶えるにはアンズが必要。絶対条件。
「今離す訳にはいかんのよ。」
「アンズ。」
学校が終わり、みんなが帰る準備をしていた頃だった。
「オトギ、どないしたん?」
と微笑むアンズに胸がきゅっとなるような、そんな感覚に襲われた。
「次書く小説なんやけど、コンテストに出そう思ってん。」
アンズは一瞬驚いた表情になった後、すぐに
「あぁ…頑張ってな。私も頑張るから。」
と下を俯きながらそう言った。
私が小説を出そうとしているコンテストは年に1回の大きなコンテストだ。
これに受賞すれば90%、いや100%小説家になれると言っていいだろう。
「これから小説の見直し頻度増やしたいねんけど…ええよな?」
アンズは下を俯いたまま
「あぁ、ええよ。」
そう言った。
「ありがとう。」そう一言だけ言い放ち、教室を出た。