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裏切り

『もしもし、聞こえる?』

『聞こえるで。』

現在は午後10時だ。

『ごめんな、遅くなって。新しい小説考えよったらもうこんな時間やってん。』

『ええんよ。気にせんといて。』

アンズの言葉に安堵した。

『えっと、それでここなんやけどな。』

小説の1部を指さし、アンズに見せる。

『あぁ、そこはこうした方がええんやない?』

2人で意見を出し合いながら小説をパソコンに打ち込んでいく。

そうしているうちに時計の針は深夜の1時を過ぎていた。

『もうこないな時間やん。』

『ほんまや。全然気付かへんかったわ。』

私もアンズも集中していたので、時計など見向きもしなかったのだ。

『そろそろ切ろうか。明日も早いし。』

『なぁ、オトギ。』

急なアンズの真剣な声にビクッとした。

『えっ、なによ。どないしたん…?』

『あっ…ごめん、なんでもない。ほな切るな。また明日。』

そうして私が話す隙もなく通話は終了した。

「今日のアンズ、変やったなぁ。どないしたんやろうか。」

この時からだった。アンズが少しずつ変になっていったのは。


「おはよう。」

教室の扉を開けると、いつもと変わらぬ様子のアンズが席に座っており、私の方を見て微笑んだ。

「おはよう。」そう言いつつ、アンズの様子を伺いながら自分の席の方へ向かった。

その後は特に何事もなく普通に授業を受け、気づけばあっという間に放課後になっていた。

だが、どことなくアンズの様子は少しおかしかった。

いつもは、クラスメイトに話しかけられてもノリが良く、みんなを笑わせ、楽しく過ごしているはずが、今日はというと、話しかけられる度におどおどとした様子で話しかけた相手が困っていたくらいだ。

心配でこっちがドキドキする。

そんなことを考えていると

「オトギ。」

急にアンズの冷たい声が私を呼んだ。

「うわっ!びっくりした。急に後ろ立たんといてよ。」

ふぅと息を整える。

「帰ろう。」

「え…あ、うん。」

どうしたというのだろうか。今日はやけにアンズが静かだ。言葉数が少ない。

学校の校門を抜け、少し歩くとアンズが立ち止まった。

「オトギ。実は話したいことが…。」

アンズの表情は焦りと不安。そして、なにかを決心したかのような表情だった。

なに。怖い。何を言われるのか分からない。

私の頭は、アンズが今何を話そうとしているかなんかよりも、この状況をどうするかの考えと、困惑、不安、そんな暗い思考に押しつぶされていた。

「あのな、私…」

嫌だ。怖い。聞きたくない。言わないで。お願い。それ以上は

「やめて!!」気づけばアンズの口元を両手で塞いでいた。

そう、頭より体が先に動いてしまったのだ。

正直私は、アンズの言いたいことが分かっていたのだと思う。

アンズの気持ちに気づいていながらもずっと気づかないふりをしていたのだ。

だが、私の夢を叶えるにはアンズが絶対に必要。

「今更裏切るつもり!?一緒に叶えようって言うたくせに!!」

あたり一面に響くような、そんな声だったと思う。

「落ち着いて、オトギ。」

アンズが普段出さないような大人びた声になにか熱いものが込み上げてくるようなそんな感覚に襲われ、気づけば視界は涙でいっぱいだった。

「離れんといてよ…アンズ。」

涙で視界がぼやける中、アンズの表情だけがただくっきりと、鮮明に見えていた。

「ごめん…ごめんな。オトギ。絶対裏切ったりせえへんから。泣かんといてよ、な?」

アンズの暖かい腕が私を包み込んだ。

その手のぬくもりがとても心地よく、涙が蒸発するように消え去っていた。

「ずっと一緒におってくれる?」

「おるよ。裏切ったら殺してええから。」

木々のざわめきがやけにうるさく、美しく聞こえた気がした。

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