きっかけ
親友を殺した。物理的にでは無いが、紛れもなく私が殺したのだ。
中学校最後の年、それが私たちにとって最後の冬だった。
「ぼちぼち進路決めなあかんよな。」そう呆れた声で言うのは私〈オトギ〉の1番の親友〈アンズ〉だった。
「せやな。もう高校どこ行くか決めたん?」
「まさか。決めてへんよ。なんせまだ将来の夢も決まってへんねんから。」
と苦笑しながらそう言う。相変わらず愛想笑いは下手くそやな。と微笑してしまった。
うっさいわ!と言いながらもアンズは
「オトギは?行きたい高校とか将来の夢とかもう決まってるん?」と何気ない口調で私に問いかけた。
「決まっとるで。行きたい高校も将来の夢も。」
「えー!将来の夢何よ!めっちゃ気になるわぁ。」
アンズはキラキラとした表情で私を見つめていた。
「あぁ…、1回しか言わへんし、誰にも秘密やで?」私はしぶしぶ話すことにしたのだ。
「実は小説家になりたい思ってんねん。」
と、その場にいる誰もが聞こえないような小声で話した。運良く聞き取れなければいいと思った、だが
「小説家!ええなあ!オトギにぴったりな仕事やな!」
運良く聞き取られていた。
別に知られたくないという訳では無い。ただ小説家になるという夢を馬鹿にされたくなかったのだ。
せやけど、検討違いやったな。
アンズが私の夢を馬鹿にすることなど最初から無かったのに。
「夢が決まっとるってええなあ。私も早いとこ決めんとやわ。」
「なあ、アンズ」不意を着くような冷めた声だったと思う。
「えっ、急にそんな改まってどうしたん?」
アンズが困惑しているが、それを無視するかのように私は真面目な表情で言葉を続けた。
「あのさ、私のアシスタントになってや。」
「え?」
家に帰ると、あえて紙に書いておいた私が試行錯誤して考えた小説を取り出す。これを毎日のように顔を合わせているパソコンのキーボードに打ち込んでいく。
これが私の毎日の日課なのだ。
「今日はどの小説にしようかな。」
私の書いた小説は紙に書き終わった後、あえてすぐにはパソコンに打ち込まず、昔大好きだったお菓子が入っていたカンカンの中に溜め込んでいる。
そして、その中でも気に入った小説を選び、パソコンに打ち込むのだ。
キーボードが私の指に合わせてリズムよくカチッ、カチッと鳴る。この音がなんとも言えない心地良さなのだ。
この音を聞いていると自然と次の小説の案が浮かんでくる。そのため、私はいつも作業する時には音楽は流さず、風の音や虫の鳴き声など、自然の音を聞きつつ、キーボードが押されていく音を聞いて作業する。
「あ、もうこないな時間か。」
ふと時計を見ると午後十二時を回っていたのだ。
「あかんわ、ほんまに。」
作業をしていると、つい打ち込むことに集中してしまい時間感覚がおかしくなってしまう。
「ピコンッ」
急に手元にあったスマホの画面が明るくなり、LEINの通知が数秒前と表示されている。
「こんな時間に誰なん?」
と、スマホを持ち上げ、LEINを開くとそこには『アンズ』という文字が映っていた。
「あ…。」
トーク画面を開くと一通だけの文章が送られていた。
『私、まだ小説のこととか何にも分かれへんけど精一杯やるからなんなと言うてな!』
ー数時間前
「私のアシスタントになってや。」
「え?」
アンズの表情は徐々に堅苦しくなっていった。
「私、できるか分からんし、それに…上手くできへんかったら迷惑かけてまう。」
下を俯くアンズに私は険しい表情で声をかけた。
「アンズやないとあかんのよ。アンズにしかできへん。」
と、私の言葉を聞いたアンズは少し悩む様子を見せた後、よしっと決心したように言った。
「ええよ!やる!」
ああ、本当に。優しい人だと思う。
アンズは昔からそうなのだ。誰かが悲しい時には一緒に泣けるし、誰かが嬉しい時には一緒に笑える。
しかし、そんな性格だからこそ八方美人と言われることも多々あった。
その度にアンズは仲間内で避けられたりしていたが、なにも無かったように振る舞える。
アンズは本当に強く、優しい人間なのだ。
『ありがとう。新しい小説もうじきに書き終わりそうやからまた読んでな。』
『任せといてやー!んじゃ、また明日な!』
トークが終了すると、すぐにスマホの画面を閉じ、少しうーんと伸びをしながら立ち上がる。
そして電気を消し、ベッドの布団を冷えた体にかける。
「寒いなぁ。体が冷えてしまっとる。」
ぶるぶると身体を震わせる。今日は気温がとても低かったらしい。
少し身動きを取りながら布団を温めるとすぐに眠気が襲ってきた。
今日はええ日やったなぁ。
「じゃあ、おやすみ。」