久々に夫婦水入らずだったから 兄の気持ち
●久々に夫婦水入らずだったから
桃太郎が鬼退治を終えて、自宅に帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「おかえり桃次郎、じゃなかった、桃太郎」
「は? 今の、桃次郎とは?」
「ハハハ。お前の弟じゃよ」
「え? また桃を拾ってきたんですか?」
「いや、正真正銘わしらの子じゃ」
「はあ……?」
『桃太郎』は昔の話なので、当時は寿命が短かったし、成人も結婚も早かった。
ゆえに、おじいさんとおばあさんも今だと中年と呼ばれる歳なのだった。
●兄の気持ち
桃次郎はすくすくと順調に成長した。
そんななかで、おばあさんが言った。
「最近、桃次郎、すぐに怒って。反抗期かしら」
それを聞いた桃太郎は自分の反抗期を思いだした。
「桃から生まれたから桃太郎って、じゃあ普通は母親から生まれるから母太郎かよ!」
彼は、バカなこと言ったな、と苦笑いを浮かべた。
それから少し経ったある日、桃次郎が居間で泣いていて、おばあさんが問うた。
「どうしたの? 桃次郎」
「お兄ちゃんが、お前は桃次郎じゃなくて母太郎だって、何回も言うんだもん」
桃太郎は今さら赤ちゃん返りのような精神状態になったのだった。