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初志貫徹 たかられる
●初志貫徹
うちは、街の小さなケーキ店だ。
明奈ちゃんというコを一人、アルバイトで雇っている。
初めは真面目に働いていたのだけれど……。
「明奈ちゃん。あなた、売り物のケーキを食べたでしょ?」
「順子さん。私、物心がついて最初になりたいと思ったのがケーキ屋なんです」
「そう」
「まだアルバイトの身ではありますが、他に心変わりすることなく、こうして働いています」
「立派ね」
「その動機は、ケーキ屋になれば、自分がいっぱいケーキを食べられるからだったんです」
「それで許すわけないでしょう」
●たかられる
会社で、中年の男性が別の中年の男性に話しかけた。
「どうかされましたか? お暗い顔をされて」
「ええ、実は昨日、たかられてしまいまして」
「え? 恐喝被害に遭われたんですか?」
「いえ」
「ならば、失礼ですが、お子さんにお金をせがまれたということですか?」
「そうではなくてですね」
「はい」
「ハエに、です」
二人はその後しばらくの間、むなしさで口を開かなかった。




