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豹変 意地っ張りなあいつ
●豹変
「準一兄さん。俺、兄さんと同じ会社を目指すよ」
「ああ? お前、ガキじゃあるまいし、学校くらいならまだしも、同じとこなんてやめろよ」
「いいじゃないか。兄さんの会社、素晴らしいだろう?」
「ケッ、勝手にしろ。ただし、俺は一切手助けしないからな」
それから十年の歳月が流れた。
彼ら兄弟には姉がいて、ずっと海外暮らしだったが、久々に家に帰ってきた。
「啓二ちゃん。お肩を揉みましょうか?」
「ど、どうしたの? 準一のあの態度は」
彼らの母親が姉に答えた。
「啓二が、人事部に配属になったものだから」
●意地っ張りなあいつ
「え? 井岡が辞めた? どういうことだよ?」
「あいつ、キャプテンと練習のやり方とかチーム作りで揉めてたろ。それでキレて」
井岡は俺たち野球部のエースピッチャーだ。
あと一歩だった甲子園という忘れ物を今年こそつかみ取ると誓い合ったのに……。
「井岡!」
井岡が、今俺たちがいる部室に現れた。
「忘れ物を取りにきた」
「よかった。冷静になったんだな」
井岡は自分のスパイクを手にして、出ていった。
本当に忘れ物を取りにきただけだった。