私は元フィギュアスケーター まどろっこしい
●私は元フィギュアスケーター
私は五輪のメダリストであるなどの実績により、引退すると解説の仕事の誘いを受けた。
「広岡さん、お願いしますよ」
「でも私、口下手なので」
「大丈夫です。ジャンプの回転が何だったのかを言っていただくだけでいいですから」
「え、はあ……」
「『ダブルトーループ』とか、『トリプルアクセル』とか、教えていただくだけでOKです」
「しかし、それでは視聴者の方々に失礼ではないでしょうか?」
「平気ですよ。『四回転サルコウ』とか言っていただくだけでね」
「いいわけあるか! フィギュア、なめとんのかい!」
誘いを断る本当の理由は、口下手だからよりも、カッとして暴言を吐きやすいからなのだ。
●まどろっこしい
「なあ。お前、高校時代の仲間に、『エロ』って呼ばれてるのか?」
「ああ。でも、それには訳があるんだ」
「どんな?」
俺が所属していたサッカー部は大所帯で——。
俺も含めて、鈴木姓が三人もいた。
そんで背が高い順に、エル、エム、エスってあだ名がついた。
ところが、新入生で、また一人鈴木が入ってきた。
「そういうことで、仕方なく俺はそういうふうに呼ばれるようになったんだ」
「……で、結局その呼び方は、お前がスケベだからじゃないのか?」
「まあ、そうなんだけど」