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紳士も腹を立てる 母と花
●紳士も腹を立てる
「俺、カネが厳しいから、野球をやめるよ」
「え?」
「サッカーみたいに、ボール一つあればやれるスポーツじゃないからさ」
「そんなことはないぞ」
俺たちが目を向けると、見知らぬ紳士が立っていた。
「野球が盛んな国は必ずしも経済的に豊かではないのだから」
「では、もしかして……」
「何だね?」
「僕に援助してくださるのですか?」
「え? なんでそうなるわけ? 今、出会ったばっかりなのに。ふざけんなよ」
●母と花
うちの母親は、人をよく花にたとえる。
「あなたはバラね」
「あのコはヒマワリ」
それで、友達などにこう訊かれるときがある。
「おばさんは花でいうと何なんですか?」
「私? 私はね……」
すると母は、狼の「それはお前を食べるためだよ!」の感じの言い方で、こう答えるのだ。
「ハイビスカスだよ!」
「ああ……そ、そうなんですね……」
何なんだろう? これ。やめてほしいんだけど。