182/193
前の話 憧れと幻滅
●前の話
「なあ」
「ん?」
「前の話、どう思う?」
「前の話って?」
「『深まる家族の絆』だよ」
「深まる……?」
「いいよ、そんな常識的な対応は。わかってんだろ?」
「うん。実はわかってた」
「この話、何なんだ?」
「多分、面白いことについてずっと考えると訳がわからなくなるやつが出たんだよ」
●憧れと幻滅
「秀幸は将来、学者になって、ノーベル賞だな」
「いや、それよりも外交官とか実業家とかの方面が向いてるんじゃないか?」
僕は勉強ができるために、そんなふうに言われることが多い。
でも、僕は建設現場の作業員に憧れているのだ。
今、近所でマンションを建てていて、その姿を毎日見ている。あー、かっこいいな。
休憩時間だろう、一人で休んでいた、たくましいおじさんに、僕は近寄った。
「あの、お仕事、楽しいですか?」
「ん? ああ。なんたって、シンナーのにおいが気持ちよくてたまらねえよ。ガハハハハ」
「秀幸、何だ? 話って」
「僕、学者になります」