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タクシーにて 見合いにて
●タクシーにて
「あ、細かいのないや。一万円でお願いします」
「ちょっと! タクシーの支払いで一万円はないでしょう」
「え? そうなんですか?」
「常識でしょ。どこかでくずしてくるなりしてくださいよ。ったく」
「わかりました。今、取り立ててきますので、ちょっと待っていただけますか?」
「はあ? 取り立てる?」
「はい。私、借金取りをしているものですから」
そして運転手は、客の男が鬼のようになって借金を取り立てる姿を目にした。
「ちょうどの額を用意できました。どうもすみませんでした、運転手さん」
「あ、あ、あ、ありがとうございまーす」
●見合いにて
しばらくのやりとりの後で、仲人の冬美が言った。
「じゃあ、そろそろ若い方たちにお任せしようかしら」
「ちょっと、冬美さん」
「何よ?」
「注意したじゃないですか。今、お見合いする人、若者は少ないからって」
「私も反省したけど、見て」
「あれ?」
「ね? まったく違和感を覚えた顔してないでしょ」
「今日なんて、二人とも、八十歳を超えているのに」
「今どきの高齢者は、自分が年寄りって感覚がないのよ」