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ミスター うまいこと言う少年と、うまいこと返せないおじさん
●ミスター
「どうしたんだよ? 落ち込んだ顔して」
「通い始めた空手道場の師範の愛称が、『ミスター油断』だってわかったもんだから」
「それくらい、なんだ」
「え?」
「俺の親父なんて、『ミスターわかりやすく調子に乗る男』だぞ」
「え? ミスターって言ってんのに、最後に男が付くのかよ」
「そこかい。何にしろ、少しは気が晴れただろ?」
「いいや。その話、信じないね」
「は? なんでだよ?」
「俺は『ミスターぬか喜び』だから」
●うまいこと言う少年と、うまいこと返せないおじさん
「えーん、えーん」
「坊主、どうした?」
「嘘をつかれたんだ」
「そうか、かわいそうに。誰に嘘をつかれたんだ?」
「努力に」
「努力ぅ?」
「うん。『努力は嘘つかない』って言うから一生懸命したのに、本番で失敗したんだ」
「……うまいこと言うもんだな、坊主」
「それを言ったのはパパだから、パパにも噓をつかれて、余計に悲しいんだ」
「……うまいこと言うもんだな、坊主」