イラつく 家
●イラつく
「磯村さんは普段、怒ったり、イライラすることってあるんですか?」
仕事で知り合った彼女はいつもニコニコしていて、ちょっとした合間に私は尋ねた。
「そうですね……あまりないかもしれません」
その日の夜だった。彼女から電話があり、仕事の件かと思った。
「どうかされたんですか?」
「いえ、昼間の話なんですけど、夏の夜に耳もとで蚊の飛ぶ音がすると、イライラします」
「え? はあ」
「それから、パソコンで、ここをクリックしなさいと画面が点滅すると、イライラします」
「そうですか……」
どうやら彼女は、自分がイライラするよりも、人をイライラさせるほうが多そうだ。
●家
遊びにいっていた、まだ幼い私の息子が、泣きながら帰ってきた。
「どうした?」
「大翔くん家が、悪い人の家みたいになってた」
見にいってみると、リフォームか何かするのであろう、足場が組まれていた。
その後——。
「うえーん」
「どうした?」
「大翔くん家が、悪い人の家みたいになってた」
「いや、それは前に説明しただろ。工事をするので——」
見にいってみると、完成したその家屋は要塞のようになっていた。