表札 地獄にて
●表札
友人の床嶋を待って家の前にいるときに、別の友人の秋山が言った。
「こいつん家、表札三つもあるじゃん。なんでか知ってる?」
「え? 三世帯住宅だからだろ?」
「俺もそう思ってたけど、表札コレクターだかららしいぜ」
「何だ、それ。くだらねえ冗談言うなよ。面白くねえ」
その後、みんなで俺の家に移動した。
すると、床嶋の表札を見る目がやけにギラギラしていた。
「母さん。うちの表札、頑丈に固定しておいたほうがいいよ」
「え? なんでよ?」
「狙われるかもしれないから」
●地獄にて
その男は悪さばかりしていたので、死ぬと地獄におちました。
そこである日、遥か上空から垂れている一本の糸を見つけました。
これで上へ行けば天国に着くに違いないと、男は糸をつたっていきました。
が、なんと頂上はふさがっていて、「折り返し地点」と書いてあったのでした。
仕方なく男は下りていきました。しかし、後から上がってくる人たちがいます。
「頂上、ふさがってるぜ」
「ああ? 嘘つけよ」
こんな会話が続いて、らちが明かないので、男は自分だけ下りていくことにしました。
細い糸だけのなかを何度も器用によけていった男は、思わずつぶやきました。
「すげえな、俺。もし生まれ変わったら、サーカス団に入ろっと」




