素敵な話 ヒーロー
●素敵な話
真夏の時期に、建設現場の前で、幼い子どもが言った。
「お母さん。あの、扇風機みたいのが付いてる服が欲しいー」
「何言ってるの。まーくんには扇風機みたいのが付いてる服は必要ないでしょ」
「えー、欲しい、欲しい。ねえ、扇風機みたいのが付いてる服、買ってー」
「扇風機みたいのが付いてる服は多分高いから、駄目」
「坊主。扇風機みたいのが付いてる服が欲しいなら、やるよ。新品のをな」
「ほんと? やったー。扇風機みたいのが付いてる服ー、扇風機みたいのが付いてる服ー」
「おっと。いいんですよ、お母さん。私が、子どもが好きで、あげたいだけなんですから」
その場面を、偶然通りかかって目にした人々は微笑ましく思った。
そして全員がその後、扇風機みたいのが付いてる服の名称を調べたのだった。
●ヒーロー
「キャー!」
「黙れ。おとなしくしろ。グヘヘヘヘ」
若い女性が、三人の男たちに乱暴されそうになり、身を丸めた。
「グアッ」
そう声がして女性が顔を上げると、男どもはたくましい男性に倒されて気を失っていた。
女性を救った男性は、「どうかお気をつけて」と言い残して、去っていこうとした。
「待って! せめてお名前を」
「……私は、ケーキバイキング大好き人間と申します」
男性は走って遠くへ行ってしまい、女性は寂しげな表情でつぶやいた。
「名前、訊くんじゃなかった」