三日月王子と勇者の称号
三日月勇者の身代わりクエスト
(三日月のアザを持つ王子、ロイル視点)
『三日月を持つ者、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼす』
その神託を聞いた父上が、僕の額のアザを指差して言った。
「おぉ、その神託の勇者は、我が息子、第五王子のロイルに違いない!」
その日、僕は勇者になった。
力の無い僕の為に騎士団が護衛に就いて、強い冒険者に依頼して雪山に聖剣を取りに行かせた。
僕は名ばかりの勇者だった。
それから5年間、勇者の身代わりをしてくれた冒険者達が、魔王討伐の邪魔になる手下の魔獣や魔族を排除してくれた。
その間、僕は勇者の名に恥じないように、必死に剣の指導を受けた。
勇者になれば、父上が僕を見てくれると信じて……。
そして今、騎士団を引き連れて僕は魔王城に入る。
「ロイル殿下、お待ちしておりました。魔王の部屋までご案内します」
先行して魔王城に潜入していた冒険者が出迎えてくれた。
彼は髪と目の色が僕と同じで、だから勇者の身代わりに選んだと、以前騎士団長が言っていたのを思い出した。
本物の勇者の身代わりにされた冒険者。
正直僕なんかより、よほど勇者らしいと思う。
魔王城の最上階で待ち受けていたのは、黒く大きな魔王だった。
不気味な唸り声を上げながら宙に浮かんでいる。
思ったよりも恐怖心が湧かないのは、僕が勇者だからなのか……。
聖剣を魔王に向けて構えると、突然突風が巻き起こり聖剣が後方に弾き飛ばされた。
騎士団が前に立ち並び、僕を守ってくれる。
振り返ると、飛ばされたはずの聖剣を手にしたカイがいた。
その立ち姿は、まさに勇者そのものだった。
「ロイル殿下は三日月の勇者です。ですから、神託の通りこの聖剣を突き刺すだけで魔王を討ち滅ぼす事が出来るはず。行きましょう、ワタシが側でお守りします」
そう言って、彼は僕に聖剣を手渡した。
5年前、僕は聖剣を持ち上げる事すら出来なかった。
けれど厳しい修練の末、上手く扱える様になった。
剣を持っ手に力を込めて、僕は魔王に立ち向かう。
聖剣で黒い塊を貫いた瞬間、剣が光り輝いて辺り一面眩い光に包まれた。
あまりに眩しくて目を瞑ると、大きな音と共に激しく床が揺れ動いた。
振動が収まり目を開けると、魔王は床に伏し動かなくなっていた。
「三日月を持つ者が、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼした!」
騎士団長の言葉に、ワッと騎士達の歓声が上がる。
「皆んな、今まで、ありがとう!」
未熟な僕を守り支えてくれた人達に、感謝の言葉を伝えた。
こうして、僕は勇者の称号を得る事ができた。
第五王子ロイル設定〜
国王と王妃の第一子にして第五王子。
上の兄弟は皆側妃の子。
王妃の子ゆえに、長子に次ぐ王位継承権を持ち、兄弟達から冷遇されている。
国王、長子以外に関心がない。
使用人や騎士達を家族だと思って接しているが、本当は父である国王に認められたい。