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「いっけなーい!ちこくちこく~!」から始まる私の物語?!!

作者: 東林

いっけなーい!ちこくちこく~!

わたし、かさねどポカ子!30才!

地元の私立せんこう高校で、小さいころからの憧れだった先生をやってるの!

でもでも寝坊しちゃって、1限の私の授業まであと5分!朝の職員会議も遅れちゃったし、も~わたしのばかばか~!

よ~し!少し先の曲がり角を右に曲がればもう学校!スピードアップ!ラストスパート!

きゃあ!

いたた…曲がり角の逆側から走ってきた人とぶつかっちゃった!たんこぶできちゃったかな…そ、それよりもお相手の方はだいじょうぶ?!

「ご、ごめんなさい!だ、大丈夫ですか?」

あ、ウチの制服…

「あれ、かさねど先生じゃないですか。」

「に、にいと君?!」

彼はにいとユメ君!学業優秀、運動神経抜群、すれ違った女の子が10人中9人振り向くようなイケメンで、クラスの人気者なの!

「かさねど先生、始業まであと5分もないですよ。教員なのに遅刻ですか。」

「い、今から走れば間に合います!にいとくんも遅刻だよ!ほら、急ご!」

「そうですね、急ぎましょう。」


にいと君と走って、なんとか教室に滑り込みセーフ!にいと君はトイレに行ってから自分の教室に行くって…完全に遅刻だよ!

だけど今は自分の授業に集中しなきゃ!さて、まずは出席の確認を…あれ?いつも胸ポケットに入れてるペンがなくなってる。さっきぶつかったときに落としちゃったのかな?お店でひとめぼれして買ったペンだったから、ちょっと残念。帰りに曲がり角を確認しなくちゃ。


うぅ…昼休みに、教頭先生に呼び出されて怒られちゃった…。これからは遅行しないように気を付けないと!実は朝までずっとプリントを作っていて、途中で寝落ちしちゃったんだよね…それで気が付いたら…って、言い訳はダメダメ!生徒や学校にはそんなこと関係ないんだから!ナーバスになってるぞわたし!元気だけがとりえなんだから!がんばれわたし!よし!次の授業は…1年生ね!1年A組!にいと君のクラスね。


1年A組の教室に入ると…うん、あいかわらず独特の雰囲気よね!なんというか、THE・優秀!みたいな!私たち、できます!みたいな感じ!みんなまじめで勉強熱心で、学年で一番テストの平均点が高いクラス!わたしの社会のテストも100点がゴロゴロと…ひええぇ~。そのなかでもとびぬけて優秀なのがにいと君なの!でもほかの先生が言うには、優秀だけど遅刻が多かったり、授業中ずっと寝てたりと、不真面目だっていうの。う~ん、わたしが授業している限りは、真剣にノートも取ってくれているし、頻繁に目も合うし、そんな風には見えないけど…まぁ生徒への評価基準は人それぞれだしね!わたしは生徒一人一人としっかり向き合って評価してあげたい!


よし!今日もすべての授業終わり!でも小テストの採点と、来週の授業のプリントを印刷しなきゃだから、帰れるのはもう少し後かな?別の先生から仕事を振られたりするともっと遅くなっちゃうけど。

「失礼します。」

あれ、にいと君だ。誰かに用事かな?わたしのほうに向かってくる。わたしに何か用かな??

「すいません。かさねど先生。少しよろしいでしょうか。」

「うん!なんでしょうか!」

「すこしお話したいことがあります。今日、この後時間ありますか?」

「うん。大丈夫ですよ!」

「ありがとうございます。でも、ちょっとここじゃ…」

「あ、じゃあ、隣の部屋に行きましょう。」

「はい。」

なんだろう?にいと君が相談なんて珍しいなぁ。


「俺、先生のこと好きです。女性として。」

え?!!

「先生に釣り合う男になれるよう、ずっと頑張ってきました。」

えぇ??!!

「俺じゃ、ダメですか?」

部屋を移すなり、にいと君がそんなことを言ってきたの!きゅ、急すぎるよ!!!こういうのはお友達から初めて、少しずつ距離を縮めていって、その先で…ってやつだよ!というかわたしとあなたは教師と生徒で…

「みんなは先生のことを誤解してる。ミスが多くドジで間抜けだって…。だけど、俺は分かってる。先生がめちゃくちゃ努力家で優秀で優しい人だってこと。」

「…え?」

「みんな嘘だって思ってるけど、弁護士免許持ってるの、あれ本当ですよね?」

「そうだけど…」

公民の授業の掴みで言ったこと、クラスのみんなは嘘だって笑ったけど、にいと君は信じてくれてたんだ…。

「なのに、学校の教員なんて過酷な労働環境の割に給料の見合わない仕事をしてる。」

「それは、先生になるのは子供のころからの夢だったから…」

「そこだよ。」

にいと君はわたしの目を見ながら、およそ普段の彼とは思えない断じるような口調でそう言った。

「そんな先生だから好きになったんだ。その愚直さが好きなんだ。」

「にいと君…」

「だから先生、卒業まで待っていてくれ。必ず俺も先生と同格の男になって」

「ごめんなさい!無理です!」

ごめんなさい!にいと君!確かに君は頭もよくて運動神経もよくてすれ違った女の子が10人中9人振り返るようなイケメンだけど…わたしとあなたは教師と生徒なの!それは禁断の恋…きっと行き着く先は破滅…幸せはやってこないのよ!

「え、いや、でも」

「でももなにもないの!君の気持はうれしい。でも、わたしとあなたが結ばれない決定的な理由があるの。ごめんね。」

「そう…ですか。」

そういうと、にいと君は失礼しましたと一言つぶやいて、部屋から出て行ったの…。

ごめんねにいと君…でも許してね…その内きっといい相手が見つかるよ。


「問題は解決しました?」

職員室に戻った時に、ほかの先生が聞いてきたの。

「うーん…そうであってほしい、という感じですかね…。」

「そうですか。なにかあったら、相談してくださいね。」

「ありがとうございます!」

さて!お仕事やらなくちゃ!



俺はレストランに予約キャンセルの電話を入れるため、スマホを取り出して電話帳アプリを立ち上げる。

「まさか振られるとはな。勝算はあると思ったんだが。」

やはりあと2年待つべきだったか、などと思いながらリストからレストランの番号を探す。

昨日、夜通し部屋の電気はついていた。おそらく寝ずに授業資料の準備でもしていたのだろう。おおよそ途中で寝落ちして遅刻寸前…あいつらしい。そしてあの性格だ。おそらく資料作りに夢中になり碌に食事を摂っていないはず。それで高級レストランを予約してあげたのに。

「ま、いいか。まだ時間はある。」

ポケットの中のペンを指先でゆっくりと撫でながら、未だ明りの消えることのない職員室の窓を見上げる。電話はレストランへのコールを始めようとしていた。

少し湿気を含んだ風が静かに前へ抜ける。

運命が俺の背中を押してくれているように感じた。

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