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急な来訪者

 汽車から降りたアルは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれた。彼のこういうところが昔から変わっていなくて安心する。心の中で思わずうっとりとしていると向こうのほうで何人もの人たちが立っていた。その内の一人が私たちを見て駆け寄ってきた。

「お待ちしておりました。アルバート王子、エリーナ妃。工場長のクリスです」

「今日の日を楽しみにしていました。よろしくお願いします」

「私もこの日を楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします。さあ、どうぞ中へ」


 工場に入ると製造途中の汽車が何台も並べられ、大勢の技師たちが作業に当たっていた。

「ご覧ください。ここでは毎月六台の汽車を製造しています」

 工場長が誇らしげに言う。私にはそれがどれほどすごいのかがわからなかった。

「それって凄いことなのですか?」

 工場長に聞いてみる。するとアルが答えてくれた。

「そうだね。我が国にある他の工場では月三台が限界だから」

 なるほど。他の工場の二倍も作れるというわけか。そう聞くとそれはすごいことなのだとわかった。


 しばらく工場の中を移動していた時である。私たちを案内してくれている工場長のもとに部下らしき人がやってきた。

「大変です!」

「どうした? そんな慌てた顔をして」

「大臣が、カニエル大臣が急に来て……」

 私たちはその足で事務室へと向かった。そこにはカニエルと何人かの政治家が工場の人たちと揉めていた。

「やあやあ、これはアルバート王子とエリーナ妃ではないですか、奇遇ですね」

「カニエル、何をしに来たの?」

「エリーナ妃、私は大臣ですよ。この工場に問題があったので閉鎖命令を出そうと思いましてね」


「なんだって! どうして急に!」

 工場長がパニックを起こした。

「工場長、落ち着いて。まずは理由を聞かせてもらおう」

 この状況の中でアルは極めて冷静に理由を聞こうとした。カニエルが冷ややかな笑みを浮かべて書面を出す。私とアルと工場長で書面を読むと、そこにはこの工場が汽車の密輸販売をしていたのではないかと書かれていた。

「こんなの事実無根だ!」

「それでも、ここの工場が他国に密輸したという証拠が出ているのです。それを止めないわけにはいかない」

「その証拠は一体どこから見つかったのだ?」

 アルは再度聞いた。だが、カニエルは何も言わずに書類を二つ置いて立ち上がった。

「まあ、今日はこれで帰ります。後日改めて命令書を持ってきますので、お覚悟を」


 カニエルは帰っていった。私はカニエルのことがますます嫌いになっていた。あんなやつと結婚しないでよかった。工場長は泣き崩れてしまった。その姿を見ていると私までやるせない気持ちになってくる。何か伝えられる言葉はないのだろうか?

 そう考えていると、アルは泣き崩れている工場長を見てこう言った。

「工場長、あれ、おそらくでっち上げです」

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