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そうして彼らは道を往く

 魔物の軍勢と人の軍勢が乱れ合い、互いの死の山を築く戦場に、歌が響く。


「山の〜雲を〜♪」


 場にそぐわない気の抜けた歌声が、歌詞が。


「潜ると〜霧に〜♪」


 しかし、その周辺はおびただしい数の魔物の死骸。それは彼が人の軍の中で抜きん出た実力を持つ事を物理的に語っている証拠だ。


 彼の名は剣聖スフォルガゾス・マグナドーガ。幾多の戦場と死合、蛮勇を超えていつしかそう呼ばれるようになり、後より正式に王によりその称号が与えられた。


 一振りすれば数体の巨大な魔物が更に数を増やし空を飛ぶ。上下に分かれ増えるものもあれば、左右に、斜めにと増え方は多彩ではあるが、絶命することを前提にその部位は数を増やしていく。

 そのような作業を枯れ枝を振り回すように剣を振り、散歩をするが如く歌う片手間で行う。


そんな中、巨大な爆炎が周囲から上がる。

混戦になってもいるその戦場で、的確に魔物のみを焼き尽くしていくその炎は連鎖し、また思い出したかのように破裂して連鎖を繰り返し、蹂躙の二文字を体現していく。


「…あいかわらす下手くそな歌いおってからに」


 剣聖スフォルガゾスの横手からその爆炎の主が陽炎のように姿を表し、彼に悪態をつく。


 賢者ラザレス・ベヴェル。あらゆる魔術を体得し、失われた秘術をも復活させ、魔物に奪われた版図を数多奪還した魔術士の中の魔術士。


 その二人が戦場で肩を並べる。


「キリがねえな」


 背景を埋め尽くすような魔物の群れを眺めながら、獰猛な笑みを消さず剣聖スフォルガゾスが呟く。


 魔人戦争。後にそう呼ばれるこの戦争は、魔王と人との最終決戦であった。

 魔王メゾヴィゾが魔族の王位に付いてから、人族は生きる場所を失い、滅亡の縁に立たされた。

 それを剣聖スフォルガゾスと賢者ラザレスは競うように抗い、反攻し、まさに魔王を追い詰めていた。

 そして、人も魔王の軍も全勢力の部隊での衝突となった。


「数は良いがアレがのぅ」


 遠近感も狂い、よもや尺度も把握し難い巨大な竜の変異の魔物、魔王に賢者ラザレスは親指を突きつける。


 まるで暴風と落雷と地震を混ぜ合わせたように暴れるその異形を二人は遠い目を向けて眺める。


「ありゃ難しいな」


 この剣聖と賢者は互いに競い合っていた。


「出来ない、とは言わなんだな」


 いや、正直に言うと憎み合っていたと言ってもいい間柄だった。


「ほぼ無理って言ってんだがなぁ」


 その理由は、


「じゃろなぁ」

 

「‥‥‥」


「どうした?」


「俺はさ、剣だけしか無かったんだよ」


「お、おう?」


「‥‥お前が羨ましかったんだよ」


「!」


「俺はさ、魔術士に憧れてたんだよ。本当はさ、でも、俺はコレしかなかった」


 チャキり、と剣聖スフォルガゾスは手に持つ剣を翳す。

 すると、賢者ラザレスは剣聖から目を逸らし目を結ぶ。


「ワシも、じゃ」


「‥‥?」


「ワシも、剣士に憧れてた」


「!?」


「じゃが、体が弱くてな、早々に諦めてしまったんじゃ」


 互いへの嫉妬。この二人の長年に渡るお互いの摩擦は、単純だった。


「俺はよ、次に生まれたら絶対、魔術士になるんだよ」


「はっ!よいのう!じゃあワシは剣聖じゃな」


「ちょ!ザケンな!!じゃあ俺は賢者だわ!」


 二人は睨み合い、どちらか先にと言わず笑い出す。


 そして、


「「じゃあ、行こうか」」


 話は終わったとばかりに、大地を剥がし、天を突くような黒い煙に覆われ、雷光と炎の中に踊る魔王に二人は向かった。




。。。


。。





静かになった戦場に、剣聖と賢者の遺体が空を仰いでいた。


魔王は死に、魔物は散り散りになり消えていった。


取り巻く兵士たちが涙を流しながら二人を囲む。


そこには、拳をぶつけ合ったように握られた手がふたつ、並んでいた。

















時は過ぎて‥‥‥。




 村を飛び出し、冒険者を目指した少年、ギネマムは数日の旅を経て王都の冒険者ギルドを訪れていた。


 冒険者ギルドは人でごった返し、列を作るもルールを破る輩等で揉め事がそこかしこで起る賑わい方をしていた。


 ギネマムはそんな中、満面の笑顔で行儀よく列に並ぶ。横入りされても何のそのだ。


 そして、待ち時間も楽しいのか機嫌よく歌いだした。


「山の〜♪雲を〜♪」


 それをテーブル席でジト目で睨む若い男。年齢はギネマムと同じといったところか。彼の名はヨイク。剣士風の出で立ちをしているが、まだまだ装備が着せられている感から脱してはいないようだった。


「潜ると〜♪霧に〜♪」


「おい、そこのヘタクソ!」


 ヨイクがジト目のままギネマムを指で手招きする。


「おう、どうしたよ?」


 そんな半柄みの呼びかけにも怒るでもなく、あっさりと列から外れ、ギネマムはヨイクのテーブルに歩き寄る。


「なあ、お前、スフォルガゾスだろ」


「!?お、おま、なんで!!」


 目を見開くギネマムにヨイクは小声で耳打ちする。


「ワシじゃよ、ヘタクソな歌ですぐわかったわい」


 そしてヨイクはニヤリと少年の顔で老獪に笑った。

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