幕間『それは少し前の事』
ここでお話することは、私にとってはただ起きた出来事なのですが、他人にとっては少し重い話になってしまうかもしれません。
元々、私が"あの人"と呼ぶ彼が私と出会ったのは、私が一人で目の見えない空間にただ座していた時期があったからでした。
端的に言えば、我慢をしていた、と言えるかもしれません。
昔、私が世界を失った……事故で両親を亡くし、同時に元々見えにくかった目は何も映さなくなってしまいました。
頼れる方が少なかった私は親戚の方の家にお世話になることになりました。
当時は――今もそうなのですが、引き取っていただいた親戚の方を含め、なにか起きるたびに「なにかしようか?」と言いにくそうに、恐る恐る聞かれるのが心苦しく、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたのです。
その度に私は「いいえ、大丈夫です」と断るのですが、誰もが安心したように胸をなでおろされ、断るたびに私の胸には罪悪感が刻まれていました。
元々、他人に隠し事をするのが苦手な人たちだったのでしょう、隠しているつもりではあったのかもしれませんが、目が見えなくなったことでより一層過敏に感じてしまうのです。
正直に口にすれば、皆さんの反応は仕方がない反応だと思います。
元々見えていたからこそ、純粋な厚意というものが、どれだけ貴重な物かを知っていた、と言った方が正しいかもしれません。
それがどれほど貴重で、どれほどすごいことなのかを知っているからこそ、余計に申し訳なさを強く感じてしまっていました。
目も見えず、何もできない私なんか、そこまでしてもらう価値は無い。
それが私が私に思っている自己評価でした。
……いいえ、もしかしたら今も思っているかもしれません。
目が見えず、誰かに頼らざるを得ないということを負い目に感じているのは確かですから。
そんな生活の最中、彼は私を見つけ出してくださいました。
他人から見てしまえば、とても強引な手段でしたけれど、私を"やさしさという名の牢獄"から連れ出してくださったのは今も暖かく心の中に残っています。
今思えば、彼の行動はとてもお金持ちの家系で、他人の反応に敏感な性格で、何かをするときに大胆な行動と先を見据えているからこその行動だったのかもしれません。
その行動は少々大きな事件になってしまいましたが、私は彼を「あの人」と呼ぶきっかけでもあり、私があの人と一緒に居る理由でもあります。
まあ、私も私で最後まで彼の強引な手段に加担してしまったので同罪ではありますが。
ですが、これが私にとって大事な過去のお話……私と"あの人"が出会って変わったお話なのです。