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第九節「とても重要な事です。」


「…………以上が、今期の業務報告です。次はこちらを――」


 都内某所の高層ビルの中、"あの人"や明日華さん――天皇院グループが経営を務めている本社の会議室。

 そこでつらつらと。先日起きた"初心者狩り"の裏で行われていた事が重々しい雰囲気の中、慣れた態度で"あの人"は報告されていました。

 知らぬままここに連れてこられてしまった私としては非常に重苦しい雰囲気の充満する場所、と言わざるを得ません。膝を揺する音やプラスチック製のペンでテーブルを叩く音に耐えかね、補助で隣に座ってくださっている明日華さんにこっそり耳打ちをしました。


「あの……明日華さん」

「はいはい、なんすか、義姉さん。あ、もしかしてお花摘み? それならうちが言って――」

「い、いえ……なんだか、場違い、ではありませんか?」

「そうですかね?」


 不思議そうに聞き返され、ああ、この人も間違いなく天皇院の人間なのだなと思わされてしまいました。

 そわそわしてしまいそうになっていると横でふふふと笑われてしまいました。


「大丈夫っすよ、会社としては部外者でも今ここに居るのは理由があるって分かるっすから。じゃなきゃらここに居る重役さんたちはここにこれませんって」

「そう、ですか?」

「そうそう、うちの親父……ああいや、社長も居ますし、うちの親父実は家族に甘いんで、重役でも下手なことは言えませんから。もし何か言われたらブチギレて出て行っちゃいましょ? その方がスカッとしますよ」


 それはさすがに社会人としては駄目な対応ではないでしょうか。

 本当に大丈夫だろうかと不安に思っていると壇上で喋っている"あの人"が「さて」と話を切り替えられ、周りの方の雰囲気が緩和しました。

 変化のある話題に食いついた、といった雰囲気でしょうか。


「親父……いえ、社長。ひとつ、ご報告したいことがあります」

「報告?」

「さきほどの報告の中で情報漏えいしていた人間について少々触れましたが、今回の漏洩の件、間接的ですが、犯人の思惑を感じ取り、自らの腕と人脈だけで解決をしたのは僕の許嫁……と社内で広まっている彼女――花菱在世です」

「はい?」


 突然名前を上げられ、驚きとざわつきが室内に響き渡りました。

 室内の方々は口々に「あの噂は本当だったのか」やら「あの冷血漢がやるね」や「あの女性が解決だと!」など"あの人"と私についての話題で持ちきりになられていました。

 話題について行けず、隣にはクスクスと笑いをこらえきれていない明日華さんが居る。

 完全に当事者であったはずの私を置いてけぼりにして事件を解決に導いた英雄として称されていました。

 何事ですか。


「先日、社内情報が漏洩した頃合いにもう一つ、事件が起きてました。わが社の傘下にある企業で運営されているゲーム『スピリティズム』というオンラインゲームで起きた小さな事件を調査してほしいと、花菱在世に接触を図った人物が居ました」

「その話と情報漏えいの件になんの関係が?」

「実はその調査の結果、彼女に接触をした犯人は今回の情報漏えいの犯人に依頼され、オンラインゲームの事件を起こした、と密告をもらいました。調査した結果当該人物のログやその他から言った通りの痕跡も見つかりました。ただ、その件を問い詰めたところ、もう逃げられないと察し、やけになった彼女を襲ったそうです」

「出来過ぎた偶然だな」

「はい、偶然にしては出来過ぎている。これはつまり、"花菱在世が僕の許嫁という噂を知っている社員"が"彼女の素性を調べ、なんらかの妨害行動を起こそうとしていた"ということではないでしょうか」


 再びざわつき始めた会議室が誰かが動いた気配が子、さあっと静かになる。

 すると、響くような低音の声質の方が声を上げられました。


「お前の悪い癖だ、昔から周りを責めてから言葉にする。何が言いたいのか、簡潔に言いなさい」

「申し訳ありません、社長」

「情報漏洩の件は分かった。だが、今回お前が彼女を引き合いに出したのには他の理由があるのだろう? 察するに彼女は何も知らないようだ、可哀そうだから教えてあげなさい」

「ありがとうございます。では、遠慮なく。おいで、在世」

「は……?」

「はいはい、出番だから行きますよ、義姉さん」

「え、あの……いったい、どういう……」


 訳も分からないまま立たされ、ゆっくりとテーブルが並べられた会議室の中を歩かされる。

 視線を感じながら前に進んで行くと、目の前に"あの人"の気配を感じ、どういうことか聞こうと手を伸ばすと「足元、気を付けて」と忠告だけされ、手を取られてしまいました。

 言われるまま足元の段差を上ると、"あの人"に抱き寄せられてしまい頭の中は疑問符でいっぱいになってしまいました。

 私は今どういう状態になっているんですか。

 壇上の上で、"あの人"に抱きしめられ、たくさんの人に見られている。

 おや……?


「この子は僕の物だ。曲がりなりに僕も天皇院の人間。その僕の許嫁である彼女を傷つけるのは許せません。社長、調査をお願いします」


 シンと、静まり返った会議室の中で、私はただバクバクと鳴りやまない心臓の音だけが頭の中で響いていました。

 ――なんで、このような場所でそんな話を。いいえ、そだだけではなく恥ずかしい。それも違います、あれ、なんでそのような話に?

 疑問符でいっぱいだったのにさらに膨れ上がった疑問の山で押しつぶされて意味が分かりませんでした。

 今の言葉はつまり、そういうこと、でしょうか。

 私の預かり知らぬところで話が進んで、私が知らぬ間にそういうことになっていたのでしょうか。

 いえ、別に彼が嫌いという訳でも、自分のと言われてのぼせ上っているという訳ではないのですが、とにかく訳が分かりませんでした。

 混乱していると社長と呼ばれていた低音の響くような声質の方が重苦しくため息をつきました。


「……お前、最初からそのつもりで私も会議に呼んでいたな?」

「あはは、嫌だな親父。こんな時ぐらい、親父っぽい事をしてくれてもいいじゃないですか?」

「どの口が……。分かった、その子の両親には?」

「彼女の親戚に保護者が二人。ずいぶん前に挨拶は済ませました」

「なら、私もご挨拶に伺おう。後で教えなさい」

「ありがとうございます」

「え? あの……あの……?」


 あれよあれよという間に何か重大なことが決まっていく気がしています。

 おろおろと周りを見渡しても何も見えません、当たり前です。しかし、周りは当然のように承諾していくので混乱が収まることを知りませんでした。

 すると、


「安心して、在世。君のことは僕が守るからね」


 なんて、優しい声で言われてしまい私は――。


「は、はい……?」


 としか答えられなくさせられてしまいました。


      *     *     *      


「ごめん、本当に反省してるからさ、機嫌直してくれないかな」

「……私は別に怒っているわけではありませんよ」


 私と彼は以前お約束した"デートのやり直し"として、家に籠り二人でお家デートと言う行為にいそしんでいました。

 彼と私が出会ったあの時のようにゆったりとした時間を過ごし、彼が作ってくださった食事をとりながら、私はただそう返事をしました。

 身動ぎからして、彼も本気で謝ろうという態度ではありませんし、私もそんな彼に怒っているわけでもありません。

 ですが、少々恥ずかしい思いとムードのかけらもないことをされたのでムっとしているだけです。

 もう一口、彼の作った料理を口に運びます。


「ただ、もう少し雰囲気というものもありましたし、事前に教えていただいても良かったと思っていますが、怒ってはいません」

「怒ってるやつだよ、それ……」

「……本当に怒っていませんよ?」

「そっか。……ねえ、在世。僕も焦ってたと思う。君の気持ちを聞かないで先走ったからね、怒られても仕方ないなって反省してる」

「個人的には、出会ったときからですし特に問題はないかと。それよりも機嫌を損ねてないと分かっているのにごねているのは少々、その、意地悪、と言いますか」

「あはは、ごめんごめん。君が我がままに振り回されてムッとしてるの初めてだから、ちょっと調子に乗った」

「分かればよろしい、かと。ですが、ここまで一方的に謝られるというのはあまりいい立場とは思えませんでしたね」

「貴重な経験だね」

「はい。貴重な経験でした。それと今日のお料理も美味しいですよ」

「あはは、ありがとう、在世。食べさせてあげよっか?」

「あなたが食べやすい料理を選んでくれているので必要はありませんよ?」

「ううん、手痛い反撃」

「優しいあなたは私の食べにくい物は用意しないと知っているので安心します」

「おっと、今後もやれない予防線まで張られちゃった」

「ふふっ、覚えておいてくださいね」

「御心のままに、お姫様――っと、ごめん、電話。席をはずすよ」


 嬉しそうに笑われた彼の方からバイブレーションの振動が響き、そのまま席を立つと寝室の方に歩いて行ってしまいました。

 音を立ててはいけないかと気を付けて食事をしていたのですが、部屋から戻って来た彼の足取りが重いことに気が付いて食事の手を止めました。


「お仕事ですね」

「っ、驚いた。見える?」

「ふふっ、聞こえてました」

「そっか。ごめんね、また仕事だって。今日はやり直しのつもりだったんだけど……」

「いえ、構いませんよ。そうやって気にかけてくださるだけで十分です」

「あはは、謙虚に見えて強欲なこと。おっけ、絶対また誘うから」


 いそいそと準備をしている彼の音を聞きながら、そういえばと彼に聞きたいことがあったのを思い出しました。

 これだけは聞いておかないときっと後悔することです。


「あ、あの、聞いておかなければいけないことが!」

「ん、聞きたいこと? なに?」

「ずっとずっと、調査をしている時から気になっていたのですが……園崎さんは美人さんでしたか」


 思い切り立ち上がってしまったので、料理の皿がガシャンと鳴ってしまいました。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

実はこの話意外にもこの子のお話はあるのですが、いつ書くかは分かりませんがご期待していただけると嬉しいです。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ、感想等々、ついでに↓にあるはずの☆を増やしていただけると今後の活動の励みになりますのでどうかよろしくお願いします。



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