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第六節「霧の中への招待」


 "初心者狩り"の調査を始めて数日後の十五時頃――。

 スピリティズムの中、初心者やたくさんの人が集まっている最初の街に直接ログインした私は、とある場所に向かって歩いていました。

 先日使っていた調査用のキャラ……ではありません。白系統の服を着こんでいますし、見た目も変えていますので、フレンドさんたちや見たことがある人以外、私だと分かる人は居ないでしょう。

 しばらく封印してたアカウントだったため、とある場所に向かいながら、ステータスとスキルの確認をしている最中、といったところでしょうか。


 このゲームの唯一問題点はテストサーバーがないため、テストユーザーはそのままのスキルを一般ユーザーの中に持ち込むことになってしまいます。なので、そこのチェックを忘れると宣伝と銘打たなければいけなません。


 面倒ではありますが、使ってはいけないスキルをショートカットベルトから外し、認識作動を切っていく。


「ん……スキルの認識作動を切る操作性が上がってる……とても良いお仕事ですね。今度デュークさんとの話題にしてみましょう」


 念のため、町中でアルファテスト用のアイテムやスキルを間違って使わないよう、端から端まで確認していると、視界の端にメールが届いたことによるポップアップが表示されました。


「メール、ですか。こちらにメールが届いたということは……やはり、差出人はあの人ですね」


 おそらく、お願いしていた調査の結果が出たのだと思います。下手な探偵さんに頼むより優秀なのは一企業の人間としてはどうかと思いますが。

 少しだけドキドキとしながらメールに書かれている文面を確認し、私が頼んだ調査の結果とついでに頼んでいなかった情報もたくさん書かれているようでした。

 住所に生年月日、ここ数日間の行動までびっしり……。それに、わざわざ最新の技術を使ってゲーム内アイテムとして当人の写真まで送ってくださいました。

 盗撮っぽいのはこの際見なかったことにしておきます。


「個人情報までびっしり、ですか。ここまでしろとはお願いしてないのですが……しかし、やはり思っていた通りだったようですね」


 メールの最後の方に小さく追伸、と書かれた内容があり、そこには『お礼はデートのやり直しで』と書かれ、眉をひそめてしまいました。

 やり直しも何も、毎週会う約束をしてから分かれているのでやり直す暇はないと思うのですが……。


「……それよりも、やらなければならい事を終えませんと……。次の"霧"の発生場所は……この辺ですね」


 ゲーム内マップを開き、運営さんに次ぎイベントの構想のためともらって来た"魔力を含む霧"のイベント発生予定地を確認する。

 前回とは違う場所なので、周辺を見回してみますが、前回と変わったのは木箱がなくなり、代わりにくすんだ樽や壊れた馬車が転がっているくらい、でしょうか。


「そろそろ霧が出てくるはずですが……ん、出てきましたね、情報通りです」


 前とは違い、今度は見える世界を自分で閉ざし、音だけを耳に入れていく。

 肌にまとわりつく霧特有の音が周りに漂い、遠くくぐもったたくさんの方々の足音が聞こえてきます。普段なら心地よいと感じる音ではありましたが、今聞かなければいけないのは彼らの足音ではありません。

 地下を流れていく下水の音に紛れ、コツコツというブーツらしき物が地面をたたく音が人込みの中から霧の……私の方に向かって歩いてくる。


「聞こえました。この町で自分から好きこのんで霧の中に行くのは初心者かそれを標的にしている方のみ……間違いはなさそう、ですね」


 集中をやめ目を閉じながら足音が近づく通りに移動すると、ちょうどこの場所にたどり着いたのでしょう、目の前で動揺したように二の足を踏む方がいらっしゃいました。

 少し、犯人を追い詰める探偵のようなシーンでワクワクしてしまいます。


「お待ちしていました。きっと今日もここに来ると思っていました」


 目を開き、音のした方を見ると、そこにはボロボロのマントで全身を隠したあの時の初心者狩りさんが立っていました。


「なんで、あな――お前がここに……」


 思っていた返事が返ってこず、ガクッとしてしまう。

 相手の方も格好良い事を言ってくれると期待していたのですが、やはり顔を変えているメインキャラでは伝わってくれないようです。

 現実はうまくいかない物ですね。


「……ああ、申し訳ありません。えっと、数日前、あなたに襲われた初心者もどきの者、と言えば伝わるでしょうか」

「っ! あの時の魔法使いが……。なんでお前のこと調べろって……。まさか……あの野郎……」


 なにやら察された様子の初心者狩りさんがいて、なんとなくこの方がどんな目的を持っていたか把握出来てきました。

 間違いありません、この方は別の誰かに依頼されて私のことを調べまわっていたようです。


「くそっ、あな――お前どうしてここに……それに、どうやって!」

「あなたとお話をしたいな、と思いまして。場所はただ私は運営の関係者だから、とだけお答えさせていただきます」

「話し?」

「はい。あなたの目的はおそらく何らかの理由で私の素性を調べること、なのではないかと自信過剰な考えをしているのですが、間違っていませんか?」

「は……はっ、運営の信用をがた落ちを狙ってるただのアンチテーゼ行為かもしれないぞ?」

「動揺から戻られるのが早かったですね。ですが、その答えはありえないと、個人的には思っています」

「なぜ!」

「運営の信用を落としたいのであれば、このように簡単に解決できて、噂にもならないような方法はとらないかと」

「っ……はっ、何もかもオミトオシってわけね」


 初心者狩りさん――いいえ、園崎さんは諦めたようにフードを動かし、キャラクターの素顔を見せてくださいました。

 そこには先ほど写真で見たばかりの美人さんが私を眉根を寄せて睨んでおられました。



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