おじさんの過去
おじさんの過去
陽は帰りの電車でもニコニコ顔でずーっと刀を抱きしめ
今度さゆりさんに見せるんだとか、3人でダンジョンに行きたいとか、
それはもうずーっと上機嫌で
(でも、3人って、さゆりさんとゆうと・・・俺が入ってないよ?)
「陽、俺もいいぞ」
「えっ 兄さんは高校のパーティーで忙しいんじゃないの?」
「いや、大丈夫だ、陽が行くなら付き合うよ」
「ありがとう」
家に帰っても大変だったけど、刀はとても危険だから、めったやたらに鞘から抜いたりしない、
必要な時以外は部屋から出さない、なるべく目立たないところにしまっておく等注意事項を言うと、さっそくどこにしまっておくか考えると言って自分の部屋に。
俺とゆうは俺の部屋で
「明日、もう1度あの店に行こうと思うんだ」
「うん」
「知らない素材もあったし、うまくいったら 今よりは良い装備が整う気がするんだよね」
「そうだよね、素材集めするにも、それなりの装備があった方が安心だよね」
「ああ 須藤さんからもらった装備品じゃあ足りないし」
「うん、私もついて行っていい?」
「来てくれるの?」
「うん」
「ありがとう」
ゲーム世界とこの世界はやはり違うところがあり、今後の装備の素材も色々調べる必要があることがわかった。
ゲーム世界では強力な武具の素材(鉱物)はアダマンタイトとミスリルがありレア素材にオリハルコンがあったが、この世界ではヒヒイロカネ、さらにアバンタイトという素材があった。
さっそく次の日 ゆうと2人で上野のおじさんのお店に、
「おじさん」
「おお、本当に来たのか」
「はい、今日は武器のオーダーについて教えてもらいたくて来ました」
「オーダー?」
「はい」
「俺の処はそんなのは扱ってないぞ」
「でも、昨日買った刀は、普通は売っていない物ですよね」
「ああ」
「そういう物を作る鍛冶職人さんを知ってるってことじゃないですか」
「まあな」
「その鍛冶職人さんに聞いてもらえませんか?」
「そいつは偏屈者だから、気に入らなきゃ いくら頼んでも作らないぞ」
「はい、聞くだけ聞いてもらいたいんです」
俺は俺専用の胡蝶双刀について紙に書きながら説明をすると
「サーベルにしては刃が短いしまっすぐだな、八斬刀に近いか…」
「はい」
「ほう、随分変わった形にするんだな」
「はい」
「ぼうず お前のジョブはなんだ?」
「アサシンです」
「そうか」
「はい、モンスターの攻撃をそのまま受け止めることができないので、受け流すんです」
「そうか、それで指を守るための護拳があるのか?」
「はい、逆手で使うんで」
「なるほどな、細いのは?」
「突き刺して電撃を流すためです」
「なるほどな、それでこの長さも必要という事か」
「はい、受け流すので腕と肘を守るためと なるべく深くまで刺したいので」
おじさん、本当に詳しいですね、ただの冒険者だったとは思えないんです」
「ぼうずにくらべりゃ大したことないよ」
「でも、豊洲も知ってますよね」
「まあな」
俺達はおじさんの顔を覗き込むように見ると
おじさんがゆっくりと話し出した。
「こんな俺でも、レべル42だったんだ」
「すごいですね」
「お前に言われたくねえよ」
「でも42なら素材 狩り放題だったんじゃないですか」
「ああ、ずーっと5人一緒だった、42になってからは豊洲の10階層までを狩場として 稼ぎ放題だった」
「そうですよね」
「ああ、家も建てたし、車も買えた、全部一括で買えるくらいな、そこらへんのサラリーマンよりずーっと稼いでたんだ」
「はい」
「ある日、21階層で すごいお宝が出た って話を聞いて、 皆で行こう って事に
なってな、今思うと馬鹿な話だ。
10階層までで十分稼いでいたから、老後の資金が貯まるまで、そのままでよかったんだ
その頃42と言えば一流と言われてたから、なんでもできる気になって、お宝に目がくらんで下の階層に行ったんだよ、
今までよりは手ごわかったけど、それでも5人で戦えば、皆軽い傷程度でボスを倒せた。
勢いついて どんどん下にもぐって行ったんだ、
本当はギリギリだったんだよ、それでも5人でボスを倒せたからそのまま20階層まで行って、そこで出会ったんだよ、侍の恰好したスケルトンに・・・・・・
すごい妖艶な雰囲気が漂って、背中がゾクときて、そこで引き返せばよかったんだ。
でも5人なら何とかなるって、思い上がりも良いとこだよな。
あっという間に1人、また1人、それからはもう地獄だよ
冷静さなんかなくなってな、仲間が目の前で殺されたんだ、
逃げる選択はなかった」
ゴクッ つばを飲み込む
沈黙のあと おじさんが 話を続ける
「あっという間だった、気づけば4人とも血まみれで倒れてた。手足がない奴、首がないやつ、腹から内臓が飛び出してるやつ、立っているのは俺1人だけ。
逃げ出したんだ、もうかたき討ちとかそんなもんじゃない、殺される、逃げなきゃ そう思って出口の方に向かって走ったよ、出口だ、これで助かる。そう思ったら
そこでこけたんだ、
起き上がろうとしても起き上がれなくて、はいつくばって入口からなんとか出る
ことができた。
そこで初めて気づいたんだ、左足がないって事に、
そりゃあ起き上がれないはずだよ、でもその時は必至で
逃げてるときはもうそれどころじゃなかった
脚がなくなっていたことなんて気づかなかったんだ。
それからはショックと激痛でのたうち回った。
死にそうなくらい痛かったけど、なんとかポーションを飲んで、脚の根本を縛って、傷口にもポーションを振りかけて、必死で1つ上の階層の移転魔法陣まで戻って帰ってきたんだ。
この怪我とショックで半年くらいは何もできなかった。
ようやく動けるようになって、それから4人の家族の家に行ったんだ、自分1人だけ逃げ帰ってきて本当に申し訳なくて頭を下げたんだけど誰も俺を悪く言わなかったんだ、逆に 生きて帰れただけでも良かった ってな」
俺とゆうは顔を見合わせた




