レベルの隠蔽
レベルの隠蔽
学校が終わり、急いで待ち合わせ場所に向かうと、さゆりさんが既に待っていた。俺を見つけると小さく手を上げ、でもゆうの時みたいなにっこりするわけでもなく、ひきつったニコとコクっと頷くだけ。思いっきりクール美人。
「こんにちは、もう来てたんですね」
「ああ、大学は、高校生みたいにびっしり授業があるわけじゃないからな」
「そうなんですね」
「ああ、私たちは同じ境遇だし、おそらくこれからもずーっと付き合いがある大切な仲間だと思ってるからな」
「そう言ってくれるとうれしいです」
「ああ」
そんな話をしていると走りながらゆうが
「遅れちゃってごめん」
「いや 大丈夫遅れてないよ、俺達が早く来ただけだから じゃあ 行こうか」
そう言って、ファミレスへ向かう。
さゆりさんに、今までの話に加え、現在の探求高校の
状況を説明した。
ゆうの学校の方は探求高校ほどではないけれど冒険者になることには協力的らしく、授業は選択でとれるらしい。また、選択していなくても部活や同好会に入れば、活動が認められるらしい。
ということはゆうも俺ほどじゃないとしても、ある程度レベルの隠蔽をしないとまずいってことだよね。
いつもと同じドリンクバーとポテト。
「確かに、今の日本のトッププレイヤーが70前後だから、それ以上はまずい。どうやら川越の上級指定されているダンジョンは、トップパーティーと国防軍と警察くらいしか入れないらしいからな」
「そうなんですね」
「ああ、探求大学でも30あれば十分合格できるし、卒業生でも40~50。私のようなふつうの大学で30もあれば超優秀と言われてるくらいだから、わたしもせいぜい30くらいに見せないとな」
「困りましたね」
「1つ思いついたのが、デバフを自分にかけたらどうなるかなんだ」
「それって?」
「ああ、強敵モンスターにかけるあれだよ、あれを自分にかけたらひょっとしてレベルが下がるんじゃないかって思ったんだ」
「なるほど」
「ただ、自分にかけたデバフを解除した時、元にもどれるかなんだ、戻れなかったら と考えると なかなか自分で試すのに躊躇してしまって」
「確かに、ゲームではモンスターにデバフをかけた時、1時間以内に倒さないとデバフ効果が切れるって設定でしたけど、自分にかけるとどうなるかなんてわからないですよね。最悪1時間で切れればいいですけど、もし戻らなかったら、せっかくここまでのレベルが引き継げたのに、レベルが下がったままだったら本当に意味ないですよね」
「ああ」
「じゃあ、私が試しにやってみます」
ゆうが言い出したので
「いや、それなら この3人で一番レベルの低い俺がやった方がいいですよ、それに俺、アサシンだから、前からデバフ使ってたし、俺がやってみます」
「・・・・・・・ 」
「大丈夫ですよ」
「かっくん・・・・・ 」
「じゃあ ゆうも手伝ってくれよ」
「・・・・・・・うん・・・」
「大丈夫ですって、それじゃあ 何かあったら助けてください、例えばレベル上げとか、それでいいでしょ?」
「いいの?」
「うん」
「悪いな、なにかあったら私たちが全力で助ける、なにせ同じ境遇者は私たち3人だけなんだからな」
「はい」
そう言って、ここで別れ、その結果をあとで報告する事に
そして、俺とゆうは2人で、近所の公園でゆうの見守る中、俺が自分にデバフをかける事になった。
「なあ、ゆう って本当は レベル90超えてるんじゃないの?」
「えっ?」
「レベルだよ、ひょっとして12神将の1人じゃないのか?」
「どうしてそんな事聞くの?」
「今まで何気なく言ってたけど、よく考えたら ゆうが88で俺が85だとしたら、3しか違わないのにアークウィザードっておかしくないか?
おまけにどうしてゆうのスキルは 『最強』とか『超』 がつくんだ? それにスキル枠も俺より2個多いし、85から88に上がっただけで枠が2個も増えたり『超』がつくとは思えないんだよな、おまけにサブスキル? ってなんだよそれ」
「ハハハ ばれちゃった、うん、そうだよ、実は12神将なんだ」
「やっぱり、でもなんで隠してたんだ?」
「私がレベル94って言ったら素直にパーティー組んだ?」
「まあ」
「自分は83だから足を引っ張るとか、12神将にはもっとふさわしい相手がいるとか言って断るでしょ?」
「ああ」
「そんな事気にしなくてもいいのに、私にそんな遠慮なんかいらないのに、昔からそういう所あったからね」
「・・・うん」
「これからは なしだよ、思っていることは素直に全部言う事」
「ああ」
「ああ じゃない!」
「はい」
「わかればいいの」
「ありがとう、・・・そっか、だからさゆりさんとも知り合いなんだ、あっ、ひょっとして12神将の『弓鬼の裕』ってゆうの事? 」
「うん、わかった? ヘヘヘ、さゆりさんとは何度もパーティーを組む事があったの」
「そうか、そうなんだ、じゃあ最高何階層まで進んでたんだ?」
「私は25階層かな」
「25?! すっげえな」
「まあね」
「それはさゆりさんと?」
「うん、あともう1人いたんだけど、違うみたいなの」
「違うって?」
「うん、もう1人ってのはさゆりさんの彼氏なんだけど、さゆりさんがそれとなく話したんだけど、同じ境遇者じゃなくて、もともとこっちの世界の人みたいなの」
「そうなんだ」
「うん」
「冒険はするけど、さゆりさんと一緒にしたことはないみたいだし、レベルも30くらいでね、なんかそれ以来さゆりさんも彼氏と距離をおくようになって・・・・」
「はあ、それってやっぱり、違う人みたない感じ?」
「うん、まったく同じ人だし、過去の思い出も全て同じなんだけど、ダンジョンの話になると話が合わないっていうか、そうなると見た目はおんなじだけど別人に思えちゃって、一緒にいるとかえって怖くなっちゃったって言ってた」
「その、本当の彼氏って、どれくらいだったんだ?」
「レベルが95で、彼にゲームを誘われて始めたんだって、それでさゆりさんって剣道やってるじゃない、だからプリーストなんだけど、剣も使えるからどんどん強くなって
彼氏を追い抜いたんだって、
最初2人ともレベルが80くらいの時に2人でプレイしていたんだけど、
13階層くらいからペースが落ちてきてね、
だから3―4人のパーティーでプレイしようって事になったんだけど、
そのうちリアルで会う事になってね、ほら さゆりさんって滅茶苦茶綺麗なクール美人じゃない、
彼氏さんっておとなしそうな人なの、
他の80くらいの男子って 思いっきり“ 上から目線の俺様 ” の人が多くってね、
わかるでしょ、彼氏いるのに無視しちゃって、2人だけで会おうとか言ってさゆりさんに迫るのよ、
だからさゆりさんがね、リアルでは絶対会わない、絶対女子としかパーティ―組まないって言ってたんだけど、
彼氏さんが私の言葉使いとか態度がそういう連中と違うからって、
それでじゃあリアルで会って確かめるって事になって、
私が本当に女ってわかってから、一緒にパーティを組むようになったの」
「そういう事か」
「そう、その彼が同じ境遇者じゃなかったの」
「さゆりさん、ちょっとかわいそうだな」
「うん、大好きだったのに、今は違う人にしか思えないって」




