7 魔力の正体
「おい、ハヤト。疲れているのか」
「そうよ、あんたらしく無いわよ」
「この間の盗賊殺しを、まだ気にしてるの」
「こいつがそんな玉かよ。また大好きな文字遊びで夜更かししてるんだろ」
「うっ、皆すまん」
・・・・・
トマスの言う通りだ。
僕はこの数日、古代文字の解析にのめり込んでいる。
流石に”気が付いたら夜明けだった”という無茶はしていないが、寝る時間を惜しんで古代文字と向き合っている。
その成果で、最初のページの解読はまだだが、二ページ目が目次で、三ページ目からが本文であることが判った。
本文の最初のページは”魔力とは”という表題で、魔力に関する説明が記述されているらしい。
完全に解読できていないので想像が混じるが、空気中には目に見えない魔力の元となる物、僕は魔素と呼ぶことにしたのだが、が流れており、それが生き物の身体の中に入ると、身体の中の物質、僕は命素と呼ぶことにしたのだが、それが魔素と結合して魔力に変わり、血液に乗って骨へと移動し、骨の中に溜まるらしい。
魔力は、貴族様や魔獣が持っている特殊能力だと思っていたが、全ての生き物に宿る普遍的な力らしい。
でもこの知識は、物凄く危険な臭いがする。
もしこの知識がばれたら、貴族様や王様の誇りを傷付けたとして、町ごと焼却処分にされそうだ。
殺される事が有ったとしても、これは絶対に喋っちゃいけない知識だ。
次のページの表題は、”魔力を感じる”だった。
クルマイ草の中には魔力と反応して光る物質が含まれており、魔力の移動が比較的容易な爪に塗って、魔力を感じさせる訓練手法が示されていたのだ。
爪と歯は、本来、人間が動物として持っている武器なので、爪での攻撃を意識すると、無意識に微量の魔力が籠り、魔獣が身体を魔力で覆うのと一緒で、多少爪や歯の強度が増すらしい。
夜採取に行った時にクルマイ草が光っていたのは、町を囲む塀に施されている結界の魔力と反応したのだろう。
次のページの表題は、”魔力を増やす”だった。
魔力の枯渇を繰り返し、徐々に骨に溜まる魔力量を増やす方法と、たぶんミスリルの武器だと思うのだが、武器を介して魔獣の魔力を吸い取る方法が書かれていた。
この知識は、冒険者にとって物凄く重要な意味を持つ。
ミスリルの武器が、魔獣の魔力を吸い取ることは広く知られている。
魔獣の毛の表面を覆っている魔力をミスリルの武器が吸い取ることによって、魔獣に刃が通るようになると言われている。
だが、何度も使用しているうちに、ミスリルの武器はだんだん魔力を吸い込まなくなってくるという性質があり、連続使用は三回まで、一晩置けば能力は回復するが、それでもだんだん能力が落ちてきて、百回程度使うと役に立たなくなる。
ミスリルの武器は、魔獣相手の必須の武器でありながら、物凄く高価な消耗品でもあり、遺跡に潜る時は、魔獣との遭遇率を考え、十数本の高価なミスリル武器を用意しておくことが、冒険者としての常識なのだ。
要するに、ミスリルの武器を揃える財力が無いと、遺跡探索で遺物を集めることが出来ないのだ。
上級冒険者が、高額の報酬を得ながら貴族並の暮らしが出来ないのは、上級冒険者になるほど、冒険の為の出費もまた多くなるためだ。
もしこの本に書かれていることが正しければ、ミスリルの武器を永遠に使い続けられる可能性がある。
そうなれば、冒険者の生活は物凄く楽になるだろう。
他の人に喋ることが出来ないので物凄く残念だが、ミスリルの武器を数本準備できる様になったら、遺跡に潜って試してみたいと思っている。
その次のページには、身体にクルマイ草の汁を塗り、爪から徐々に光らせる範囲を増やして行く訓練が示されていた。
絵と読み取れる範囲の説明文から想像すると、身体の表面に魔力を纏うと、魔獣と同じように身体の表面が固くなるらしく、身体の内部に魔力を集めれば、筋力や視力、傷の再生力が強化されるらしい。
僕はまだ指一本を光らせるのがやっとなのでなんとも言えないが、嘘か誠か、大きな岩を片手で持ち上げる絵が描かれている。
古代文字を読み解いて行く喜びは何物にも代え難いが、あくまでもそれは、生きているからこそ出来ることだ。
死んでしまったら何にもならない。
・・・・・
「うん、気を付けるよ」
何時もどおり、皆で買い取り窓口に解体した獲物を置く。
今日は街道の野犬の群れの討伐の依頼を受けていたので、討伐報酬に加えて、毛皮や肉の素材買い取り報酬が加算される。
討伐した野犬は四十六匹、討伐報酬は一人銀貨十枚だったが、素材買取がボス犬を除く四十五匹で金貨九枚と銅貨九十枚もあった。
それに、ボス犬は魔獣だったので、金貨一枚と銀貨十枚が追加された。
若い魔獣だったので、初撃で魔力を全て吸い取ってしまい、一瞬で昏倒してしまった。
多分誰も魔獣だったことに気が付いていないだろう。
合計金貨十枚と銀貨六十枚と銅貨九十枚、銅貨はマリーに渡し、残りは一人頭金貨一枚と銀貨十二枚だ。
今日は早めに討伐が終わったので、まだ外は明るい。
先日の盗賊討伐の懸賞金もあるので、懸案だったレザーアーマーとミスリル武器を探してみることにした。
上級冒険者達はまだ町に戻っていないので、店も空いている筈だから、サービスしてくれるだろう。
「マリー、俺は武器と防具を見に行くけど、どうする」
「うん、お兄ちゃんと一緒に行く」