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駆け出し冒険者は今日も寝不足  作者: 昆布莱餡酢
2/10

2 花祭り1

「お兄ちゃん、今日は(みんな)帰ってきてるよ」

「ああ、楽しみだな」


 花祭りは生命神を祭るお祭りだ。

 花が咲き始める季節のお祭りなので、花祭りと呼ばれている。

 冒険者は、春の生命神のお祭りと秋の運命神のお祭りには必ず神殿に詣でる習慣がある。

 どちらも、命を賭けた綱渡りを演じる冒険者にとって、重要な神様なのだ。

 皆町に戻り、三日間の祭りを楽しむことによって、神様の加護を得ようとする。


 兄さんと姉さんに会うのは一月ぶり、母さんと父さんに会うのは一週間ぶりだ。

 皆昼には戻っている筈なので、今日はマリーの下の双子の妹、ミラとミロの夕飯の心配をしなくて良い。

 仲間と宴会を楽しめる数少ない機会だ。

 皆事情は同じで、下に五人の弟妹を抱えるミーナや下に四人の弟を抱えるカーラは、”人の作る飯は旨い”と言って食い捲っていた。


「お兄ちゃん、帰ったら一緒に風呂入ろう、ミラとミロも待ってるよ」

「今日は、母さんや姉ちゃんと一緒に入ったらどうだ」

「母ちゃんは父ちゃんとイチャイチャするし、姉ちゃんはカブト兄ちゃんとイチャイチャするから嫌だ」


 ・・・・うちの家族は、幼い子供の前で何をしてるんだろうか。

 翌朝、夜明けと同時に三人の妹に叩き起こされた。


「兄ちゃん、お祭り行こうよ」

「今年は、兄ちゃん金持ちだって姉ちゃんが言ってたよ」

「ねえお兄ちゃん、わたしカラメ焼き食べたい」

『ミラとミロもー』


 仕方が無いのでベットから抜け出す。

 今日はもう少し寝かせて欲しかった。

 三人の妹を引き連れて、井戸で顔と歯を洗う。

 飯を食わせようと台所へ行くと、母さんが食事の準備をしてくれていた。


「おはよう母さん」

『おはよう母ちゃん』

「あらあらあら、おはよう。ハヤトもマリーもミラもミロも皆早起きね」

「兄さんと姉さんも起こしてこようか」


 母さんが変な笑みを浮かべて僕の耳元で囁く。


”二人は裸で抱き合って寝てるかもよ”


 一瞬理解出来ずに母さんの顔を見直す、ニヤニヤしている母さんを見て意味を悟り、顔が真っ赤になる。


「あらあら、ハヤトはまだまだ子供ね」


 兄さんと姉さんに顔を会わせるのが何だか気不味くなったので、朝食を終えると三人を着替えさせ、早々に家を出た。

 確かに昔から姉さんは兄さんにベッタリで、兄さんは逃げ回っていた。

 僕から見ても兄さんは精悍で恰好が良く、冒険者ギルドの食堂で見かけた時は、必ず女性に囲まれていた。

 昨年、姉さんが兄さんと同じパーティーに無理矢理入ってからは、兄さんに近づく女性を威嚇し捲っていると噂話で聞いた事がある。

 多分兄さんが根負けして諦めたのだろう。

 でも兄さんは二十歳で姉さんは十八歳、早い奴は僕と同い年、十四歳で伴侶を決めるので、少し遅いくらいだ。

 もう少し喜んでも良いのかも知れない。


・・・・・

 僕の周りの連中も、そろそろ伴侶選びを意識し始めている。

 マハムもトマスも、ミーナとカーラを食事に誘ったりとか、髪飾りを送ったりとか、積極的にアプローチしているらしい。

 たぶん今日も、四人で祭りを楽しんでいるのだろう。

 僕は、色っぽい姐さんを振り向く程度には女性に対する興味はあるのだが、伴侶が欲しいという気持ちには全然なれない。

 事ある毎に、人生で一番大事な事だとミーナとカーラから説教されるのだが、こればっかりは性分だから仕方がない。


 それよりも僕には、もっと興味のあることがある。

 変人だと良く言われるのだが、古代文字に興味があるのだ。

 父さんのパーティーの荷物持ちで入った遺跡で、壁面一杯に彫刻された古代文字見て以来魅了された。

 一つ一つの文字を丹念になぞり、文字や文の謎を解いて行く。

 ずっと判らなかった文の意味が浮かび上がった時の感動は、何物にも代え難い。


・・・・・

 マリーとミラとミロを連れて生命神の神殿へ向かう。

 僕達の住む地区が町の北端にあるので、東端の神殿へ向かうには、宿屋街や花街などの歓楽街を横切ることになる。

 近隣の村々から参拝客が押し寄せて来ており、殆ど裸に近い女性の看板が建ち並ぶ花街も、嬉しそうに看板を見回す客で賑わっている。

 エルフ族なんてほとんど居ないのに、何故かエルフの女性を描いた看板が圧倒的に多い。

 詐欺じゃないかと、僕は常々疑問に思っている。


 花街の隣には住区があり、間には町の南の河港から水を引いた水路が流れており、物や人を運ぶ重要な流通路で、参拝客を乗せた定期舟や木箱を積んだ運搬舟が行き交っている。

 行き交う舟を眺めながら、水路に架かる橋を渡る。

 住区は役人や商人などの豊かな住民が住む地区で、道が広く緑豊かな屋敷が並んでいる。

 僕らの住む、狭い路地に四階建ての連棟が並ぶ街並みとは大違いだ。


 住区を抜けると、若草色の木々に囲まれた、朱色に染められた生命神殿が見えて来る。

 太い丸太を組み上げた大きな建物で、緑青に覆われた緑色の銅瓦が美しい。

 生命神殿には住区の船着き場から延びる西参道、東門から延びる東参道、商区から延びる南参道の三本の参詣道があり、それぞれの参道沿いには間口の小さい店が軒を連ねている。

 それに加えて祭りの日になると、神殿を囲む様に設けられた火除け地でも、行商人達が絨毯や幕営を広げて商いを行っている。

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