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小次郎と白蛇姫  作者: ギッシュ
3/7

浄財と名付け

「まあ何だ。確かに断る気はないよ。部屋も余ってるからな。ただ、二人分の食費を考えると、あまり贅沢は出来ないぞ?」


 遺産や保険の金は有るが、他に収入がない。バイトも考えてはいるが、今現在は無収入だ。贅沢して散財した挙げ句、就職するまでに貯金が枯渇したら目も当てられない。


「それは大丈夫じゃ。妾の分の食費はちゃんと入れるぞ。さしあたって、これくらい有れば足りるじゃろ?」


 と、百万円の札束をテーブルに乗せる。帯付きの新札だ。帯付きの札束なんぞ、実物は初めて見た小次郎は驚いた。が、次いでこの金の出所を疑った。


「ど、何処で手に入れた金だよ?···まさかお賽銭か!?」

「阿呆!お賽銭が神の物に成る訳がなかろう。お賽銭は神社の収入源じゃ。神と言えども、手出し出来ぬわ!」


 じゃあ、何処から手に入れたんだと聞く小次郎に、白蛇姫は言った。


「浄財じゃ」

「浄財?」

「うむ。霞ヶ関に集まる『先生』等と御大層な敬称で呼ばれておる偉そうな奴等がおるじゃろう?」


 議事堂でうつらうつらと船を漕いだりしている連中だ。


「繁華街で、店からなんやかんやと理由を付けては、金を徴収する輩がおるじゃろう?」


 紋々を背負ったアウトローな連中だ。


「愉快に成れる薬を販売する者がおるじゃろう?」


 副作用と依存性の高いお薬を販売する連中だ。


「そんな輩から、浄財を受け取っただけじゃ」


 もちろん彼等は自発的に浄財を捧げた訳じゃないだろう。それを聞いた小次郎は、嫌そうな顔で金を見た。


「悪どいな~。出所が怪しいなんてもんじゃないな。祟り神なんじゃないか?」


 またまたボコッ!と殴打音が響く。


「いった~!角で殴るなよ!」

「祟り神とは何じゃ!悪どいのは奴等じゃろうが!」

「一方的に浄財を徴収するのも悪どいと思うがな?」


 等と言うが、小次郎も案外良い性格をしているから、注文を付けた。


「取るなら相手を選んで取れよな」

「何故じゃ?」

「紋々背負った連中にも、庶民を食い物にしたり、悪質な売をしない組も有るんだ」

「成る程のう。『先生』や『薬屋』はどうなんじゃ?」

「真面目にやってる一部の『先生』は、そもそも大金を隠していないだろうな。取るなら悪どい事をしている利権漁りの政治屋だな。だいたい、大金を隠してる汚職政治家の金は裏金だ。裏金だから、無くなっても警察に盗難届けも出せないだろうよ」

「ほうほう。成る程のう」

「『薬屋』は問答無用で搾り取っても大丈夫だ。非合法な奴等が扱うのは危険な薬だからな。資金源を断てば続ける事が難しくなる。奴等の売は、あくまでも仕入れて売り捌く事で利益を出してるんだ。生産者じゃないから、仕入れ資金が無くなれば、廃業する可能性が高い。金策で無茶をする可能性も捨てきれないけど、奴等の数が減る事に繋がるから、資金を奪うのはプラスだろうよ」

「ふむ。御主、中々に辛辣じゃのう。しかも、妙に詳しいな?」


 中学を卒業したばかりとは思えない思考だ。


「前の住まいの近くに、大きな繁華街が有ってな。麻薬に関する事件や、筋者の事務所も在ったんだ。で、興味が有って色々と調べたのさ」

「成る程のう。身近であれば、興味も引かれるか。一番良いのは裏金かのう」

「そうだな。企業の懐が少し痛むけど、そういった用途に使う為に違法にプールした金が元だからな。良心の呵責を覚える必要はないだろうよ。何より、溜め込む金額が一番大きいんじゃないか?」

「しかし、御主は15の歳には思えない考えや知識を持つのう」


 普通、中高生はこんな話しをしない。


「···両親がジャーナリストだったのさ。両親の死因は事故死。探っていたのは政治家と企業の癒着」

「···まさか?」

「分からん。分からんが、子供が興味を持つには、充分な理由だと思わないか?」


 裏を暴いてやろう等とは思わない。出来るわけがないし、謀殺が事実なら、探りを入れている事が分かった時点で、小次郎の身も危ういだろう。

 神を前に言うセリフではないが《触らぬ神に祟り無し》なのだ。


「まあ、そんな訳で、俺としては『先生』からならドンドン浄財を集めてくれと言いたいくらいだな」


 と、笑った。


(ふむ。あまり深入りするのは神として良くないが、捨て置ける話しでもないのう。母様に相談してみるか)


 小次郎は彦瀧大明神と(えにし)深い者だ。神力を上げる手伝いをしてもらう都合に付き合わせる事も有って、白蛇姫は、この件は捨て置く事は出来ないと判断した。


(手を出して来ないとは限らぬからのう)


 小次郎に真相を暴く気はないが、後ろめたい連中は、小次郎が親から余計な事を聞かされていないか、疑心暗鬼に成っているかもしれない。

 本人に自覚はないが、小次郎は神にとって稀有な逸材だった。それ程の霊力と神との親和性を持つのだ。


「とりあえず、此れを生活費に当てると良い。足りるじゃろう?」

「充分過ぎるよ。だったら、食べたい物とか有ったら遠慮なく言ってくれ。外食でも良いし、作れる物は作るよ」

「御主、料理が出来るのか?」

「そりゃな。自炊は得意だぞ」


 両親が亡くなった当初はコンビニで買っていた。しかし、直ぐに飽きてしまったし、育ち盛りで量を食べるものだから高い。

 外食は店を変えれば飽きないが、毎食ではこれまた高く付く。

 そこで、米を炊いておかずはスーパーで買って食べたりしていたが、やはり飽きてしまった。

 そこで、自炊を始めた訳だ。


「初めは肉を塩胡椒で焼いただけとか、卵かけご飯とか簡単な物だったけどな。どうせ食うなら美味い物が食いたいから、本を買って作る様に成ったんだよ」


 そして今では和洋中何でも作る様に成ったのだ。


「ほほう!感心じゃな。作る時は妾も手伝うぞ」

「料理出来んのかよ?」

「失敬な!人界で見聞を広めると言ったじゃろう?人界で暮らす事を考慮して、料理の作り方も学んでおる」

「へ~。神様ってのは、そんな頻繁に人界に来るのか?」

「意外と多いぞ?会社員をやったりバイトをしたりと、人に混ざって見聞を広める事が有る」


 それを聞いて小次郎は目を丸くした。


「バイトならまだしも会社員?身元はどうするんだよ?」


 バイトなら、面接で身分証の要らない場所が多いから分かる。だが、大きい会社に入るのに、身元不明では難しい。身元保証人が必要だったりするのだ。


「神のする事ぞ?力を使えば造作もないわ」


 記憶をチョイと弄ったり、書類をチョイと改竄したり···。神の御業は不可能を可能にする。


「奇跡の使い方を間違ってないか?」


 と、小次郎は呆れた。


「言ったであろう?神も人と本質は変わらぬと。他人に悪影響を与える行いであれば神とて許されないが、この程度の我が儘なら誰も咎めん。神とて感情が有る。欲も有るのじゃ」


 欲を叶える為の力が人より強くて、人より無茶が出来るだけなのだ。


「まあ、確かに迷惑には成らないか」

「人の世を見るのも、神にとっては必要なんじゃよ」


 神にも色々と事情が有るらしい。それは人も神も変わらない様だ。


「ところで、俺は学校に行かなければ成らないんだが、その間はどう過ごすんだ?何かバイトでもするのか?」

「そうさな~。まだ何も考えてはおらぬ。今は人界の書物を読みたいのう」


 小次郎を殴るのに使ったハードカバーの本をポンポンと叩いて言った。

 小次郎もそこそこの量の書籍を持っているが、祖父母や両親が残した書籍も多い。それ等を読みたいと言った。


「あとは、人の街に行ってみたいのう。遊園地なる遊び場や、水族館や動物園なる生き物が見れる施設にも行ってみたいのう」


 と、まるで田舎者みたいな事を言う。


「誰が田舎者じゃ!」


 またまたオボンが炸裂した。


「いって~!心を読んだのか!?」

「阿呆!口に出しておったわ!」


 知らず知らず、口から出ていたらしい。


「成るべく御主と行動を共にした方が神力が上がるからのう。案内は頼むぞえ?」

「そりゃ、構わないけど」


 と言うか、髪や肌が白いが、見た目は美少女だ。そんな美人がデートに付き合えと言うのだから、健全なる日本男児の小次郎に断る選択肢は無かった。


(フヒヒ。あわよくばラッキースケベが有るかもしれないしな)


 ボコッ!と、オボンが炸裂する。


「いった~!何で殴るんだよ!?」

「スケベな事を考えておったろうが!」

「な、何で分かったんだ!?今度こそ心を読んだのか!?」

「阿呆!顔に出ておったわ!」


 今にも舌舐りしそうなスケベ面をしていたらしい。


「まったく。呆れた男じゃ」


 と、白蛇姫は呆れた。


「ぬ~。油断成らないな。流石は神様だ」

「御主が分かりやすいだけじゃ!」


 やいのやいのと言い合うが、二人とも楽しそうだった。白蛇姫も神としては若輩で、人間の年齢にしたら小次郎とたいして変わらない。この様に話す同年代の者はいなかったからか、とても嬉しそうだった。

 小次郎にしても、両親を亡くしてからは、友人とも疎遠になっていたから、久し振りに気兼ねなく話す相手が出来て嬉しかった。何より、美人なのは嬉しい。


「そう言えば、名前は何て言うんだ?白蛇姫だのあんただのと呼ぶのもおかしいし言いづらいぞ」

「む?妾に名は無いぞ。神としての名を受けておらぬからのう」


 何々神と言った名を得ていないから、自分は名無しだと言った。


「そいつは不便だな。人界で働く神は、名前はどうしてるんだ?」

「適当に名乗ったりしておるみたいじゃな。確かに、人界で暮らすならば名が無いと不便よのう。···小次郎。御主が考えてくれぬか?」

「俺が?」

「そうじゃ。名を御主が付ければ、御主と妾の繋がりが深まる。妾は御主の霊力の影響を受けやすく成るし、御主は妾の加護を受けられる。厄から護ったり、福を呼び込む一助と成るであろう」


 御互いに利に成る話だ。だが、名付けとは無茶な事を言うと小次郎は頭を抱えた。


「···そうだな。白い着物···白い織物···白織···白い花···カスミ草···華やか···澄み渡る···」


 白蛇姫の姿を見詰めた小次郎は、連想する言葉を口から紡いだ。


白織華澄(しらおりかすみ)。此れでどうだ?」


 白織は白い着物から。華澄は霞色ではなく、白い可憐な花を咲かせるカスミ草から取った名だ。

 華やかで澄みきった印象を持ったから、華の字と澄みの字から取って華澄だ。


「中々のセンスじゃのう。気に入った!今日から妾は『白織華澄』じゃ!」


 その笑顔は華やかで美しく、名前に相応しいものだった。

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