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小次郎と白蛇姫  作者: ギッシュ
2/7

神様の事情

「し、白蛇!?」

「そうじゃ」


 確かに何となく白蛇みたいな気がするが、はいそうですかと頷ける話ではない。


「信じられぬのも無理はない」


 そう言って、光ったと思ったら白蛇に成っていた。


「え、えぇ~~~!?」


 更に光ると女性の姿に成る。


「見ての通り、妾は白蛇じゃ」


 信じがたいが、目の前で見せられたら信じるしかない。


「しかし、何で突然俺の前に現れたんだ?」


 わざわざ正体を見せる必要は無かったんじゃないかと、小次郎は言った。


「小次郎。御主に話が有っての」

「俺に?」

「そうじゃ。御主は妾に卵を寄越したろう?」


 確かに卵を与えた。だが、それが何の話しに繋がるのか?


「御主は霊力が強いのじゃ。その御主が妾に卵を献上した。献上と言う行為は、主君や貴人に品物を差し上げる事じゃ。妾は神の一柱故に、それは供物を捧げる事となる。力の強い御主が供物を捧げた。それによって妾の神力が上がったのじゃ」


 小次郎にそんな意図は無かったが、結果的に供物を捧げた形に成ったらしい。


「確かに幽霊を見たり奇妙な気配をを感じたりするけど、そんなに霊力が強いのか···。で、何で俺の前に現れたんだ?」

「ふむ。実はの、母様の分霊を祀る社が敷地内に有ろう?」


 確かに有る。彦瀧大明神は女性特有の病気の治癒や、安産の信仰を集める神様だ。

 嘗て、この辺りでは女性特有の病が頻発した。乳癌、子宮癌等だ。更に流産も多くて、それを憂いた小次郎の祖父母が、彦瀧大明神の分霊を祀ったのだ。

 御利益のおかげかどうかは兎も角、それ以来、病に苦しむ女性が減ったそうな。


「御主の祖父母も力の強い人間じゃった。故に、祈願が母様の御許まで届いての。信心深い人間じゃったから、母様は聞き届けたのじゃ」

「それと俺の前に来た事と関係あるのか?」


 イマイチ要領を得ない。そんな小次郎に急くなと白蛇姫は言う。


「御主、祖父母が存命の折りに、敷地内の社に何度も参拝していたろ?」

「ああ。爺さん婆さんと一緒にな。信心は兎も角、自然を司る神に対する敬意を忘れてはいけないと教えられた」


 神道、仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教。有名なのはこれ等だろうが、他にも数多の宗教が存在する。だが、小次郎は信仰している訳ではない。ただ、自然が好きだから、万物に神が宿るとされる神道の考えに共感する部分が有るため、神社を参拝するのは好きだった。

 そして、敷地内に社が在るとなれば、祖父母の家に来ると必ず参拝していたのだ。


「母様も御主の事を気に掛けておってな。両親が身罷られてからは、この家に来なくなったろ?」

「ああ。車の運転が出来ないからな。時間や交通費を考えると難しかったんだ」

「うむ。責めておる訳ではない。致し方ない事じゃ。気には成っていたが、御主の住まいの近くに母様を祀る神社は無くての。他の神々から様子を聞く事しか出来なんだ」


 近所の神社には参拝していたからか、他の神様から様子を聞いていたらしい。

 神が実在する事も驚きだが、個人を気に掛ける事は更なる驚きだった。ましてや、その対象が自分とは。


「そんな折り、久方ぶりに御主はこの家に来た。そして、社を綺麗にして供物を捧げた」


 初日の掃除で真っ先に手を付けたのが、社の掃除だった。

 綺麗にして御神酒と饅頭等の供物を捧げ、榊は無かったから、庭に咲いていた花を生けた。

 習慣としてやった事であり、特に意識していた訳ではない。


「それによって、閉ざされていた天界との道が再び開かれたのじゃ。そこで、母様は妾に御主の様子を見て来るようにと仰せになられた」


 密かに様子を見るつもりだったが、見付かってしまったらしい。


「意外と抜けてんな」


 ボコッ!と、またしてもハードカバーがめり込む。


「うるさいわ!」

「い、いちいち殴るなよ!」


 痛みに踠いて抗議したが、白蛇姫は気にしない。


「コホン。卵を捧げられて、神力が上がったと言ったろ?元々、妾は近い内に人界にて見聞を深める事に成っていたのじゃ。力を付けて、様々な御業を使える様にするためにな。御主の捧げ物で神力が上がったと母様に報告したら、いっそのこと御主の元に身を寄せよと仰られた訳じゃ」


 そんな訳で、一緒に住むと言い出した。


「···いやいや!何でそうなる!?同棲じゃん!···手を出しても良いなら大歓迎だが···」


 またしてもボコッ!っと殴打音が響く。


「御主の頭にはエロスしか詰まっていないのか?」

「け、健全な男なら普通だろうが···。女の子に興味が無いよりは良いじゃんか」

「御主は発想が飛躍し過ぎじゃ!···寝込みを襲って来たら、蹴り上げて潰すからな」


 想像して思わず股間を押さえる小次郎だった。


 ※


 取り敢えず真面目に話をしようとリビングに移った。

 小次郎はお茶を淹れると、白蛇姫の前に菓子と一緒に置く。


「ほう?なかなか良い茶葉を使うのう。良い味だ」


 両親の影響で、小次郎は茶道楽だった。緑茶だけでなく、ハーブティーや紅茶に烏龍茶を初めとした中国茶だけでなく、ごぼう茶等の変わり種も好んで飲んでいた。もちろんコーヒーも好きだ。


「普段から飲むモノだからな。妥協はしたくないのさ」

「ふむ。良い事だぞ。食や嗜好品は気力やモチベーションの維持に役立つ。美味いと思える物を口にしていると、仕事や勉強の能率も上がるのじゃ」


 と、良いながら茶を飲み、お茶請けの饅頭を頬張る。


「うむ。御主が手ずから淹れたお茶だけあり、神力が上がるのう」

「こんなんでか?」

「それよ」

「それ?」


 話が見えない小次郎はおうむ返しした。少々マヌケに見えるのは仕方ない。


「御主は強い霊力が有るだけでなく、神との親和性が高い。そのお陰で、妾は神力を上げやすいのじゃ。そもそも神の力の強さとは、信仰心も大きく関わっているのじゃ。神が人を助けるのは、より多くの信仰を集める為でもあると言う訳よ」


 何も見返り無しに人に手を貸している訳ではないと白蛇姫は言った。


「意外と俗だな」

「ほっとけ。神とて完全ではないわ。欲も有れば、神同士での争いも有る。人より力は強いが、本質は人とたいして変わらんよ」


 何処の神話でも、神とは存外人間臭い部分が描かれている。嫉妬に狂ってぶっ殺す。言うこと聞かないからぶっ殺す等は序の口だ。時には町ごと国ごと人間を滅ぼしたり、天変地異で大量殺戮だってするのだ。

 神とて感情が有り、利害によって動いたりするし、打算で行動することが有る。


「妾は彦瀧大明神の娘ではあるが、彦瀧大明神ではない。言わば眷属神の様なものじゃ。彦瀧大明神への信仰はあまり妾の力に成らぬ。未だ正式な神として一人立ちしていない身であるが故に、力の上げ方は限られておる」

「ん?娘なんだから、彦瀧大明神の跡を継ぐんじゃないのか?」


 娘と言うからには跡継ぎではないかと思った様だ。


「母様の子は妾だけではないのでな。誰が母様の跡を継ぐかは分からん。そもそも、神の代替わりはそうそう起こらぬしの」


 神とて不滅の存在ではない。基本的に神に寿命は無いが、神去る事も有るし、何らかの理由で神の座を後進に託す場合も有る。だが、それは希な事だ。


「じゃあ、他の子が跡を継いだら、あんたはどうなるんだ?」

「そのまま眷属神として在るか、蓄えた力をもって新たな神として立つかかの?もしくは、何処ぞの地の自然物に宿り、土着の神と成る選択肢も有る」

「何だか人間の貴族や資産家の跡継ぎ問題みたいだな」

「うむ。近いぞ。昔の人間の貴族は、家督を継ぐ者以外は、何らかの方法で新たな貴族家の当主に成るか、平民に落ちたりしたであろう?信仰を力に出来る神の座に無い妾達は、力の研鑽を怠れば神としての権能を失い、神でいられなくなってしまう。故に妾達は、常に研鑽を積んでおる訳だ。御主の近くに居れば、効率良く神力を高める事が出来る。御主の淹れる茶や拵える食物は供物扱いとなり、謂わば信仰を集めるに等しい行為となる訳じゃ。故に、近くに置けと言うわけじゃ!」

「要するに、楽に神力を上げたいから俺を利用すると?」


 またまたボコッ!っと殴打音が響いた。


「身も蓋もない言い方をするでない!」

「じ、事実だろうが!」


 度重なるハードカバーの一撃に、小次郎の額にはタンコブが製造されていた。避けようにも避けられないのだ。

 見た目は華奢な美少女なのだが、やはり相手は眷属神と言えども神な訳で、小次郎の反応速度を越えて攻撃を繰り出す。結果、尽くハードカバーの鈍器で殴られる事と成っていた。


「と言うか、俺の大事な本を鈍器にするなよ!」

「む?殴るのに手頃でな」


 流石に悪いと本から手を離した。が、また余計な一言を言った小次郎の額を。今度はテーブルに置いて有ったオボンで殴ったのだ。


「イチイチ余計な一言を言いおって!」

「だ、だからって今度はオボンで殴らなくても良いじゃんか!」

「天罰じゃ!」


 天罰にしてはショボイが、地味に痛いのは確かだ。


「この家は御主の住まいじゃ。如何に神と言えども、御主の了承を得ずに住まう訳にはいかぬ。故に話を通したのじゃ」

「俺が断るとは考えなかったのか?」

「御主が?有り得んよ」


 と、白蛇姫は笑う。


「分かんねえぜ?一人気儘な暮らしを邪魔されたくないって思うかもしれねえじゃん」


 小次郎はそんな言い方をするが、白蛇姫はクスクス笑う。まるで花が咲いたかのような、華やかな笑顔だ。


「捻くれ者よのう。心にもない事を言うでないわ。妾が神の一柱と理解した今、自然を敬い、社を大事にする御主が、妾を邪険に扱う筈がなかろう?」


 図星だ。確かに小次郎は捻くれ者だが、根は悪い人間ではないのだ。


「···…くそ。分が悪いな」


 見抜かれてしまい、小次郎は苦笑した。

 何より、この神様と話すのは楽しい。両親が死んでからと言うものの、腫れ物の様な扱いが続いたから、事情を知っていながら、遠慮なく話す相手に飢えていたのだ。

 神様と同居するのも楽しそうだと、小次郎はアッサリと住む事を了承した。

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