六月怪句
満月の深夜に道を歩く猫の影がない
サルビアの蜜を吸うアゲハ蝶の羽に人面文様
水子地蔵に浴衣を着せる女子高生の肌が青白く光り
網目模様が日に日に溶けていく呪われたキリン
栓をひねるとシャワーヘッドから生えてくる女の長い髪
足のない女の抱く赤子の首 突然ころりと地面に落ちた
紫陽花に群れる目玉はカタツムリの亡霊
目の前を通り過ぎた白い影 悲鳴を上げた君が好きだ
海に浮かぶ幽霊の行列 こっちにおいでと優しく手招く
湖の畔で迷える魂と戯れている水無月の老婆
虹の上を歩く人が見えたから 一年後に私は死ぬの
玄関にずらりと並ぶ足首 青いペディキュアが目に染みる
腐乱死体が歩く世界で恋をした六月の空は抜けるように晴れ