悪女、突撃される
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初診察の次の日、医術医院の事務所の隅で長手袋を制作していると、シツラット少尉が医院に飛び込んで来た。
「あの…リシュリー殿下にファシアリンテ第二王女殿下からお手紙が来ています…あの、それで…」
シツラット少尉が言い淀んでいる。いつもハキハキと喋る方なのにどうされたのだろう?
「どうしましたか?」
「え~と、それにケイ殿下にも宛てて、ファシアリンテ第二王女殿下からお手紙を頂いているのですが…」
「はぁ?」
つい声を荒らげそうになった。何故またケイ殿下にあの子が手紙を送ってくる必要があるの?
もしかして…わざわざ、あばずれに気を付けろ~お前の嫁はあばずれだよ~淫乱だよ~性悪だよ~とか、罵詈雑言満載の手紙でも書いてきたのだろうか?
「兎に角、ケイ殿下がお呼びですので執務室までご一緒して頂いても宜しいでしょうか?」
何でしょうね?はいはい、参りますよ~。
という訳で、私は普段ケイ殿下がお仕事をされている、軍の執務室へお邪魔した。
「リシュリーすまんな」
そう声をかけて私を出迎えてくれたケイ殿下の魔質は…怒り?と戸惑いみたいな攻撃的な魔質に視える。
執務室内のソファに座り、ケイ殿下はすぐに手紙を差し出してきた。
「あまり気分の良いものではないが、リシュリーの妹姫のファシアリンテ王女殿下からの文だ」
「読んでみても?」
ケイ殿下は眉間に皺を寄せたまま、無言で頷いた。宛名はケイハーヴァン殿下宛てだ。
中を開いて手紙を読んだ。
『初めまして、ファシアリンテ=ワーゼシュオンと申します。実は私の姉、第一王女を名乗っているリシュリアンテがワーゼシュオンの神の祝福に関する重要な秘宝を持ち出して、そちらに滞在しているとの情報を得ました。ケイハーヴァン皇太子殿下におきましては、リシュリアンテから我が国の神の祝福を奪回する為にお力添えをお願い致します』
ん?
何だって?
私が読み終えて、顔を上げるとケイ殿下はもう一通手紙を私に差し出してきた。
「これがあなた宛ての手紙だ」
受け取って手紙の中を読む。
『あなたが、ワーゼシュオンの神の祝福に関する魔法か魔術か…兎に角、何かを持ち出しているのは分かっているのよ?!さっさとそれを返しなさいよ!いい事?今度私がマーシュガイトラ帝国に行った時に必ず返しなさいよ!隠したりしたらただじゃおかないのだから!』
時候の挨拶もなければ、自分の名前も書いていない。ただのメモ書き…みたいな文章だ。これさ日記かな?
「何が書いてあった?」
「どうぞご覧下さい」
私はそう言ってケイ殿下に私の手紙を渡した。ケイ殿下は手紙を読み終わるとグワッと魔力を上げてきた。
「この物言いは何だ!」
何だと言われても…こういう子なんですよ、昔っから。
「この私宛の手紙でも大概不敬だとは思ったが、実の姉に対する手紙でも何だこれは!」
「はぁ…申し訳御座いません…」
ケイ殿下はシツラット少尉に手紙を渡したので、シツラット少尉が私を見たので頷いてみせた。シツラット少尉も手紙を見て目を丸くして私の方を見た。
「この…神の祝福って秘宝だったんですか?」
「私が使っている回復魔法とは別物だということは分かります」
私はシツラット少尉に真顔でそう返した。ケイ殿下は何度も舌打ちをしている。
「リシュリーは秘宝どころかまともなドレスすら所持していなかったのだぞ?!」
そう…私は自分の不名誉なあばずれ疑惑を晴らそうと思い、カロンとハレニアとシツラット少尉立ち合いの元、ケイ殿下と共に私がワーゼシュオンからマーシュガイトラ帝国に持って来た、お嫁入り道具…には程遠い、着替え類などをお見せしたのだ。
カロンやハレニアも大層怒っていた。
「私達の普段着よりも質素なドレスしか持っておられないじゃないですか!」
「装飾品も無いし、お化粧品はどうされたのですか?まさか嫌がらせをされて、それすらもご準備されなかったとか?!」
若い女性激おこだった…。実際カロンに見せてもらったメイド棟にあるカロンの部屋の衣裳棚の方が華やかで豪華だったくらいだ。
まあそれは兎も角
「神の祝福って…勝手に誰かが呼んでいるだけで、ただの私の回復魔法とかですけどね~。盗むもなにも形あるものでもないし…どうしたのでしょうか?」
私がケイ殿下に聞くと、ケイ殿下は途端にニヤッと笑った。悪い顔ですがどうされました?
「ワーゼシュオン神聖国には9日間『神の祝福』がおこっていないそうだ。王家はそれを第二王女殿下であるファシアリンテ王女殿下のおこした女神の癒しだと公表しているよな。リシュリーが盗んだと?ハッ…!では王家の秘宝がそれをおこしているのなら、10年前に急に始まった『神の祝福』はどう説明するというのだ。建国5000年だぞ?その秘宝とやらはそれまで『神の祝福』をおこしたことがなかったと言うのか?全く話にならん!」
ケイ殿下はすっぱりと切って捨てた。
なるほど、例の夜の魔力ばら撒きが無くなって慌てているのか…。秘宝ね~そんなもの見たこともないし、私のはただの回復魔法なのに、自分達が大袈裟に『神の祝福』とか言っちゃうからこうなっちゃうじゃないの…自業自得だ。
「相手にする必要はない。馬鹿馬鹿しい」
更にバッサリと切り捨てるケイ殿下。まあ持っていない物を出せ出せ言われても、出せないものね。
その日の午後
私とケイ殿下は注文していた私の普段着用のワンピースドレスが納品されたと聞いて受け取りに行った。そして晩餐会用のドレスは明日届くということで一安心だった。
「リシュリーの母君のドレスはその白銀の髪色に映える素晴らしい刺繍細工の意匠だな、婚姻式も楽しみだな」
政略結婚なのにお世辞まで…流石、スパダリ殿下よね。
そうして次の日になり、やっと届いた晩餐会用のドレスをケイ殿下とメイド達と見てキャッキャしていたら……。侍従のお兄様がとんでもない知らせを持って慌てて皇太子殿下の部屋に駆け込んで来た。
「ワーゼシュオン神聖国のファシアリンテ第二王女殿下が…ゆ、夕刻にもこちらに到着されるそうで!」
「ええっ!」
思わずケイ殿下と見詰め合ってしまう。ファシアリンテ…何故急に?
「何故そんな急に……そうか!神の祝福だな、おいっここ最近のワーゼシュオンはどうだったんだ?」
ケイ殿下が侍従のお兄様に聞くとお兄様から、リシュリー殿下が国を離れられてから祝福はありませんでした!とのお返事があった。
「神の祝福を返せと言うことはリシュリーを国に戻せと言うことか?ファシアリンテ王女殿下は何をされに来るのだろうか、全くっ」
私にも予測不能だ…。取り敢えず来るというのだから仕方ない、と言うことでケイ殿下共々ファシアリンテの出迎えの準備を急いで整えた。
そして夕刻…
ワーゼシュオン神聖国の紋章の入った馬車が数十台、マーシュガイトラ帝国に入国した。
私は届いたばかりのワンピースドレスに着替えてケイ殿下と出迎えるべく謁見の間で待つことにした。今日、たまたまだが皇帝陛下は辺境の方に視察で留守中だ…。
という訳で皇后とケイ殿下の従兄弟のエキシューレン…エキ君と従姉妹のマルヴェリガさん14才が鼻息荒くファシアリンテの到着を待っている。
エキ君はちょっと乙女が入っている、優し気な男の子だけど妹のマルヴェリガさんは乙女男子な兄とは兄妹仲は良いみたいだ。そして2人共私には非常に好意的に接してくれる。
「どーんな根性悪な姫君なのかしら、ねぇ?兄さま」
「あんまり不敬な発言はしちゃダメだよ?ヴェリー」
マルヴェリガさんは見た目もキリリとした美少女だけど、中身もキリリとした性格みたいなのよね。
「ファシアリンテ=ワーゼシュオン第二王女殿下ご到着されました」
侍従のお兄様の声に私達は談笑を止めて、入口に注視した。
扉が開けられて私と同じ銀色の髪に大きな瞳のそれはそれは可愛らしい…ファシアリンテ第二王女殿下、私の腹違いの妹が入って来た。
見た目は本当に可愛いのよね。これに男性は騙されるというか…可愛いは正義だ!と思ってしまうみたいなのよね。チラリと横に立つケイハーヴァン殿下を見た。
これは…ケイ殿下もやられるかな…。
「ファシアリンテ=ワーゼシュオンと申します。ケイハーヴァン=マーシュガイトラ皇太子殿下本日は急にお訪ね致しまして申し訳御座いません。火急にお伝えせねばならないことがございまして取り急ぎお伺い致しました」
「確かに…でどの様なお話でしょうか?」
ケイ殿下がそう問いかけるとファシアリンテは顔を上げ、私をチラリと見た後に悠然と微笑んで見せた。
「そちらにおりますリシュリアンテで御座いますわ。ワーゼシュオン神聖国の『神の祝福』を無断で持ち出したこと、お手紙にてお知らせ致しましたでしょう?」
さあ……ケイ殿下はどうなさるかしら。この愛らしいファシアリンテを見れば誰もが息を飲み…あの子の意のままに動く傀儡になる。
別に私はそれが悔しいとか憎らしいとか思うことは無い。私とは関係ないところでならいくらでも持てはやされてチヤホヤされてくれていい。
ただ…こんな風に平穏に過ごそうとしている所に踏み込んで来られるのは困る。私はあなたに構わないから、あなたから絡んでこようとしないで…と思う。
ケイハーヴァン皇太子殿下は、はぁ…と大きく息を吐き出した。私は閉じていた目を開けてケイ殿下を見た。
ケイ殿下はファシアリンテに……威圧の魔力を投げかけていた。
ケイ殿下怒っている、この方は見た目に惑わされない御方だった。ケイ殿下は私をチラッと見た。その目は一瞬柔らかく微笑んだ。
「さて…私は『神の祝福』とやらがどんな形をしているか見当がつきません。ファシアリンテ王女殿下はご存じで?」
ファシアリンテは一瞬戸惑いを見せてから私を見た。
「そこの…そこのリシュリアンテなら知っているでしょう?!」
ケイ殿下はワザとなのかキョトンとした顔で私の方を見た。
「リシュリーは知っている?」
これは…何て答えるのが正解なのだろうか?先程から美少女の仮面の剝がれた、怖い形相で私を睨んでいるファシアリンテの顔を見て、正直な感想を言ってみた。
「私はワーゼシュオン神聖国の歴史書を全巻読みましたが『神の祝福』と書かれた一文は見たことはありません。そもそもそれが形あるものかどうか、それすらも存じません」
「んなぁ?!」
ファシアリンテは素っ頓狂な声をあげた。そしてケイ殿下は私の腰を抱き寄せるとニヤリと笑った。
「そうだよね、私が見た『神の祝福』はリシュリアンテのただの回復魔法だったものね」
ワザとだろう、ただのにアクセントを置いてニヤリと笑うスパダリ殿下。ファシアリンテはポカンとした顔をしている。ケイ殿下は更に笑顔でファシアリンテにこう言い放った。
「回復魔法や治療魔法が『神の祝福』だとリシュリアンテから聞かされたよ?それぐらいならファシアリンテ王女殿下も出来ますよね?ワーゼシュオン神聖国の国民が『神の祝福』がおこるのを待っているみたいだから早くお国に帰られて、『神の祝福』をおこなっては?」
ファシアリンテは一瞬唇を噛み締めていたが、すぐに笑顔を作ると
「あら?そうですの…オホホ。私は形あるものだと聞かされていたので、私の知っている神の祝福はリシュリアンテの言う魔法とは質の違う尊きもののようですから…兎に角リシュリアンテが所持しているのは間違いないのですから、今すぐワーゼシュオン神聖国に返却すれば罪に問いません。さあどうです?」
そう来たか。あくまで私の魔法と神の祝福は別のものだと主張しますか…さあどうしようか。
またも誤字脱字祭りを開催しております
浦の代わりに誤字脱字感知レーダーをお持ちの皆様に頼りっきりですみません




