悪女の過去
リシュリーの過去(両親)の話です
短めの内容になります
私の母はワーゼシュオン神聖国に隣接する小さな小国の内の一つ、ベコルイーダという本当に小さな国の第4王女だった。
ベコルイーダ国には魔術系の高度勉学を学ぶ学校が無かったので、母はワーゼシュオン神聖国の学校に留学してきた。
というのは建前で所謂、ワーゼシュオン(都会)に近隣諸国(地方)から留学するのは当時の流行りでお洒落なことだったようだ。母も流行に乗り、都会にやって来ただけの小国の姫だったのだ。
その学校の新入生歓迎会で、ワーゼシュオンの第一王子、父は母に一目惚れをしたらしい。お互いに恋に落ちた訳では決してないことを強く言っておきたい。
母は父からのお付き合いと結婚…全てを断っていた。母はすでに好きな人がいたからだ。
それでも父は諦めなかったらしい。
このやり取りは母側の侍従やメイド、カルント宰相から聞いたことなので、誇張や推察などが混じっていると思われる。
母の実家、ベコルイーダは本当に小さな国だ。そこにワーゼシュオン神聖国の第一王子からの求婚…はっきり言うと政治的な圧力があったと思う。母は半分、拉致されるようにワーゼシュオン神聖国に嫁入りしたと聞く。
そして、母はすぐに私を妊娠した。そんなワーゼシュオン神聖国には第一王子の元婚約者がいた。現国王妃、ファシアリンテの母だ。
この元婚約者は突然現れた小国の姫を目の敵にした。まあ、当然と言えば当然だ。既に婚約者だったのにそこを押し退けて小国の姫が第一王子妃に収まったのだ。
元婚約者はそれは凄まじい嫌がらせをしたらしい。そしてそれに飽きたらず、父に母はすでに自国に恋人がいて、お腹の子はその男との子供だ…と吹き込んだそうだ。
この話はファシアリンテの方から自慢気に話して聞かされたので、多分間違いないと思う。
普通、親の愛憎劇を自慢気に言うかな?ファシアリンテは心底お馬鹿なのかな?
父はその元婚約者の甘言と言うか、囁き?に耳を傾けてしまったらしい。これも推察で、実際は父と元婚約者の間にどういうやり取りがあったのかは、誰にも分からない。
このファシアリンテのお馬鹿発言を繋ぎ合わせて推察すると、この時既に父は母から興味を無くしていたらしいということが分かる。
それでも父は身重の母を軟禁状態にして王宮の端の部屋に住まわせ続けた。
そして僅か数人の自国から連れて来ていた侍従とメイドとワーゼシュオンの当時、第二王子だったクレミルート殿下、現宰相のクレミルート=カルント様だけが親身になってくれたそうだ。
結局、母は私を産んで体調を崩しそのまま亡くなってしまった。父は生まれた私を見て、驚愕したそうだ。銀髪に水色の瞳…父にそっくりだったからだ。
しかしその後、父はすぐに元婚約者と再婚した。今思えばここにも政治的な何かがあったのかもしれない。
父は私に最低限の生活は出来るようにはしてくれていた。時々、差し入れもくれた。多分国王妃には内緒だろうが…。
私から見ても父は私に負い目を感じ、後妻の国王妃にも負い目を感じている。そして、娘のファシアリンテには強く出れない。家族が上手く噛み合わない。国王妃とファシアリンテの全ての苛立ちは私に向けられた。
でも嫌がらせや刺客などは侍従やカルント宰相が防いでくれたし困ったことは無いね。
私は中身が老成したおばさんなこともあり、メイドや侍従も居てくれて尚且つ、カルント宰相が話し相手になって相談にもよく乗ってくれたし、寂しさは全然無かったと言える。寧ろ、気楽だった。
叔父のカルント宰相は随分と私を可愛いがってくれた。お誕生日やお祝い事ではプレゼントを必ずくれた。しかもプレゼントの中身は私が喜びそうな生活必需品を中心にした渋いチョイスだ…分かってるね、叔父様。
正直、刺客や地味な嫌がらせを上手くかわしていれば王宮の端ッコ暮らしも快適だった。
その端ッコ暮らしも私の婚姻で終わりを迎えたのだが……。
次から本編に戻ります