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悪女、先生と呼ばれる

引き続き誤字を感知しない能力を発揮しています。

誤字ご連絡ありがとうございます。

今日は城の医院で初診療の日だ。そして今、患者さんとの問診に挑んでいる。


「町の医院ではこんなに爛れてしまっては、もう元通りには治らないと言われたのです」


「まあ…それはお辛かったわね。でももう大丈夫ですからね。完治までは少し時間はかかりますが治りますからね」


と、顔に大きな火傷を負ってしまった…男性患者のスルトさんの問診をしているのだが…。


やりにくい。ひたすらにやりにくい。いい加減にしてほしい。


「あのですね…」


「……」


私の後ろから診察の様子を見守る治療術師のラガッフェンサさんと城の医術医院の医師達、そして内務省のお兄様達……。


何度か注意をしたけれど、また前のめりに治療を覗き込んでくる。私は諦めて、患者のスルトさんを見た。スルトさん戸惑っている…おじ様達に覗き込まれて居心地悪いよね、すみません。


「治療魔法を使うと、スルトさんご自身の魔力と私の魔力を使います。一気に治すことも可能なのですが、スルトさんの魔力が枯渇し、急激な魔力切れの状態になる危険性があります。それを避ける為に時間をかけて治療していきます。時間はかかりますが、必ず治りますのでご安心下さい」


「は、はい」


私は横でカルテを書いていた助手の男性に、魔力補助剤の処方を指示した。


「治療期間中は体力も魔力も消耗しています。魔力を補える薬をお出ししておきますね。それと滋養の良いものを積極的に食べて下さい」


「あ、先生。魔力を補充するなら魔力の籠った食べ物を食べてもいいんですか?」


スルトさんに先生と呼ばれて胸が熱くなる。先生だって!


「はい、是非積極的に食べてみて下さい。では今日は…まずは一回目の治療をしますね。ベッドに横になって下さいね」


助手の男性2人がスルトさんを診察台に促している。その後をゾロゾロとついて来る見学者?達。狭い…診察室がごった返している。


「スルトさんの魔力を動かして治療魔法に変換していきます。気分が悪くなったりした場合はすぐ治療を止めますので、仰って下さいね」


怪我や治療はワーゼシュオンにいる時にメイドや侍従達で何度か試しているので大丈夫だと思うのだが、やはりここまで重篤な火傷治療は初めてだ。


正直、最初から手探り状態での治療になってしまうので不安が大きい。横に寝転んだスルトさんの顔の上に手をかざす。


スルトさんの魔力を引き寄せて、私の魔力を混ぜて治療魔法を詠唱する。そしてそこに私、独自の治療後のスルトさんの肌のイメージを乗せる。火傷の消えた男性の肌。


「おおっ!」


「凄い!」


見学者?達が……煩い。


「…っ!」


魔力を強引に放出しているせいか、スルトさんの体から体力と魔力が急激に失われていくのが視えた。やり過ぎは危険だ。私は魔力の放出を止めた。


「お疲れ様でした。今日はここまでにしましょう」


「おおっ!凄い!」


「術式までの起動が早い!」


「熱傷の痕に術が入る速度が早い!」


おじ様、お兄様達は大興奮だ。スルトさんはすぐ起き上がろうとしたが、助手の男性が制した。


「目眩はどうですか?」


スルトさんは助手の人にそう聞かれて体をゆっくり起こしつつ、頭を少し振ってみている。


「はい、寝起きのような気だるさはありますが…特にふらつきはありません」


私はスルトさんの火傷の傷を診た。うん、かなり痕が薄くなっている。スルトさんの周りにははしゃぐ大人達…。スルトさんはそんな大人達の反応にオロオロしながら私を見た。


「あの…私の火傷痕…どうなってますか?か…鏡を見てもいいですか?」


あら、鏡?と、キョロキョロ鏡を探しているとメイドのカロンが


「手鏡なら持っていますが…」


エプロンドレスのポケットから小ぶりな手鏡を差し出してきた。私はそれを預かりスルトさんに渡した。


受け取ったスルトさんの手は震えていた。そして鏡をうつ伏せたまま、何度も深呼吸をしている。そしてゆっくりと鏡を顔に向けた。皆がそのスルトさんの様子を、固唾を飲んで見守った。


「ああっ?!」


スルトさんは鏡を見て叫んだ後、ご自身の顔の火傷痕を指で触った。スルトさんはクシャと顔を歪めて涙を目に溜めながら私を見た。


「に…20年も顔半分が焼け爛れていて…子供の時から…ば、化け物って虐められて…もう…何度も死のうと思ったり…うぅ…ありがとうございま…っありがとうございますっ!」


スルトさんの背中を擦る助手の方もスルトさんの涙につられて泣いている。私も目頭が熱くなった。


「うわぁぁ…!」


「良かったなぁ、おいっ!」


「感動しますねっ!」


「………」


いや、あんた達のせいで感動ぶち壊しだよ?


何故だか、スルトさん本人より泣きながら騒ぐおじさん達。スルトさんもそんなおじさん達の不細工な泣き顔を見て逆に冷静になったのか、涙を引っ込めて2回目の診療予約日を助手の方と決めている。


スルトさんは来た時とは別人のような、明るい顔で笑っている。


「スルトさん、もし帰られてから具合が悪くなった時はすぐにご連絡下さいね」


「はい!ありがとうございます、先生!」


先生だって……感動。私の治療魔法が役に立っているのね。


「あの先生…僕の知り合いに同じように顔に傷がある人がいるんですが…治りますか?」


「スルトさんのお友達ですか?はい、診察は順番制にはなりますが、診察しますのでお越し下さいとお伝えしてみて下さい」


スルトさんはそれを聞いて嬉しそうに微笑まれて帰って行った。


その後も傷口から化膿して肩が壊死しかけているおじさんや、視力を失ってしまった女性など色々な患者さんが来られた。


夕方になり、見学者?達も皆さん、通常の仕事に戻られたようだ。そして私の本日、最後の患者さんの女の子は左片腕の欠損だった。馬車に撥ねられたらしい。可哀相に…。


私は暫く思案したが、手の再生治療中は魔法をかけた長い手袋を左手に着用してもらうことにした。


「欠損部分の再生魔法は今からでも施術可能なのですが、魔法で皮膚が生まれている時に、外気に触れると再生箇所に激しい痛みがありますので…え~と例えば転んだりしたら怪我した所が擦り剝けて、すごく痛いでしょ?」


私がそう説明すると女の子は小さく頷いた。女の子のご両親も頷いている。


「人は皮膚の皮で骨と体の中を守っているとも言えます。だからまず皮膚が出来るまでは骨とか血管の再生中は術そのものの発動中に痛みを感じてしまうので…まずはそれを保護する為に手に被せる手袋を作らせてもらえないでしょうか?そこに痛みを感じないように複数の魔法を施すので、その保護手袋を付けてから治療をしましょう。あなたの手は必ず元に戻るから。少し時間はかかるけど、安心してね」


女の子は段々頬を染めてきてお母さんを見たり、お父さんを見たりしている。ご両親は大号泣だ。


私は女の子の手の長さを測り、手袋の絵を描いてご両親に説明して手袋が出来たらご連絡しますから、少し日にちを下さい…とお伝えした。


「おねーちゃん先生、本当に私の手…皆と同じようになるの?」


帰り際に女の子に聞かれて、複雑な心境になる。もしかして彼女も顔に火傷の痕があったスルトさんのように、友達から酷い言われようをしていたのかも…。


「うん、大丈夫だよ。皆と同じようになるからね」


女の子は笑顔になると両親と一緒に手を振りながら帰って行った。切ないな…この世界でも生き辛い人はいるんだな…。


私だけじゃないのよね…。


「リシュリー殿下お疲れ様です」


メイドのハレニアがお茶を入れてくれたのを頂きながら、カロンがシフォンケーキっぽいお菓子を出してくれたのも同時に口に入れつつ、今日診察した患者さんのカルテを見る。


やはり町医者で断られたり、城の医院の紹介をされてこちらを受診に来ているだけあって、皆さん重篤な患者さんばかりだった。


あちらの世界のように現代医学が進歩していないこちらの世界では、魔力による治療が主流だ。だが治療術師の絶対数が少ないのが原因で重篤な病例の患者は実質的に捨て置かれている。


どうして治療術師が生まれないんだろう。この世界の人は皆、魔力を持っているはずだし攻撃系や補助系は大体の人が問題なく使えていると思う。


魔力って資質というか遺伝の問題だと思うんだけどな。例えばワーゼシュオンの王族…この人達の血筋なら治療術師の素質があるよね?どうして王族に…ファシアリンテやお父様に僅かにしか治療術師の能力が遺伝しないのだろうか。


今、ワーゼシュオンと言えども、擦り傷程度にしか治療魔法を使えない。恐らく今、世界に現存する治療魔法術師は薬と治療魔法を組み合わせた魔法薬で治療していると言っても過言ではない。


私のように魔術のみの治療って珍しいのだろうな。


そう言えば逆に魔法が使えない人っているのかな?私の知りうる限り魔法が使えない人は存在しないはずなのだが…でも、もしかしたらこの広い異世界の中には魔力量ゼロの人はいるんだろうか?


まあ、まず魔力が無い人は生活は出来ないと思う。自分で水道の水が出せない。コンロの火も付けれない。トイレの水が流せない。魔術で鍵をかけている物に一切触れない。


そんな事を考えながら、左手欠損の女の子の手袋に使う防御魔法の魔術印(魔法陣ね)を書いていると、ケイ殿下の魔力が近付いて来た。


あ、そろそろ夕方か~迎えに来てくれたのね。ケイ殿下ってマメだよね。私の我儘で始めた治療術診療も喜んで(見える)手配してくれるし、ドレスを持っていないと言うと、上から下まで全部揃えてくれるし…これってあれだよ、異世界のスパダリだね。皇太子殿下だもの極上スパダリだ。


私には勿体ない政略婚相手だよ。お父様ありがとう、多分たまたまだろうけれど、ありがとう。


「終わったか?」


「ケイ殿下、ありがとうございます」


「?」


医院の戸口に顔を見せたケイハーヴァン殿下に、思わず条件反射でお礼を言ってから医院の先生達や助手の方々に挨拶をして医術医院を出た。スパダリ殿下は自然に私の腰に手を置いて、さり気なく寄り添ってくれる。


流石スパダリ。


「今日は『神の祝福』はばら撒くのか?」


と歩きながらケイ殿下に聞かれたのだが、今日は治療で中々の魔力を使った…というか使えた。


「今日は余剰魔力を全部治療に使うことが出来たので、それほど魔力は溜まっていないのですが…」


ケイ殿下は柔らかな笑みを浮かべた。


「溜まって処理に困った時に撒けばいいよ。無理をすることはない」


本当に素敵な未来の旦那様ですね。その未来の旦那様と夕食を2人で頂いて、部屋の前で別れ際に回復魔法をかけてあげると、物凄く喜ばれた。何でも私の魔力が体に入ると、温かい湯船に浸かっているような感じで体の芯から温かくなるそうだ。


そうだった、すっかり忘れていたけれどケイ殿下と私、魔力相性が抜群に良い同士だった…。ふぃ~っ。ケイ殿下はまだ相性云々の事は気が付いていないみたいだ。


うっかりラガッフェンサさんの前で体がポカポカの話を言い出さないように、せめて私が居る時は気を付けておこう。


「おやすみ、リシュリー…」


私が扉を閉めるまで見送ってくれるスパダリ殿下に笑顔でご挨拶をしてから、扉を閉めた。


何とか治療術師生活をスタート出来たわ。それにケイ殿下の御推挙で正式に軍属になって魔獣討伐に出陣することになっても……大丈夫でしょ!何とかなるなる!バーンと内股刈りをお見舞いしておけばいいよね!


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― 新着の感想 ―
[一言] ふーむ、顔が焼け爛れた程度でバケモノになれるなら言ってきたやつも頭から濃塩酸ぶっかけてやればお揃いだね。
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