悪女、いびり倒される
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ケイ殿下に好きな意匠を選びなさい…と言われて所謂色見本を見ているのだけど、色は決まっているのよね。
「色はこちらで、体はコルセットは苦手なのですが…この腰の少し上から切り返しの布地をあてる意匠が…」
ドレスの色はケイ殿下の瞳と髪色のエメラルド色かアッシュグリーン色に決定だ。ぶっちゃけ私に似合う色だと思われる。良かった…ケイ殿下がオレンジ色とかピンク色の髪色じゃなくて。デザイナーのおじ様に意匠をいくつか見せてもらって、好みのデザイン画を選んだ。
「リシュリー、宝石はこのホワイトローエンなんかどうだ?」
殿下が嬉しそうに宝石ケースを見せてくれる。
どんな宝石だろうと覗いて見ると…ダッダイヤモンドじゃないの、コレ?!ひえぇ何カラット?!殿下が何の衒いも無く次から次に私の首元にネックレスをつけてくる。
こ、怖い!これ首だけで何億円くらいなの?緊張と興奮で首がもげそうよ…。
実は私の衣裳選びに参加されている方々がもう2人居る。皇后様とケイ殿下の従兄弟の15才、エキシューレン君?と言っていいのかな。その御二方だ。
一応お姑さんのご意見も聞いておこうかと、どうですか?とお聞きしたらどうやら私が普段着る予定のワンピースドレスの方のデザインをご自分で選びたいみたい。
先程から私をそっちのけでエキ君と2人で「この色かわいいー」とか「お洒落ー」とか女子?トークに花を咲かせている。
それにね
ケイ殿下が私の特殊な治癒能力をかって、軍属として働かないか?と提案をされたと聞きつけて…皇后様が
「リシュリーちゃんの女子用軍服は私が考えます!」
とか盛り上がっちゃったのよね。有難いけど、皇后様って〇カファンなのかな?さっきから〇ルばらみたいな金の派手なボタンとか飾りみたいなを肩に乗せまくるデザインを描いているんだけど、誰か止めてよ。野放しになってるよ?
でも有難いわね…こんな風に歓迎してもらえるなんて…。
「リシュリーの花嫁衣裳は母上の時のドレスだが細かな直しは間に合うのか?」
デザイナーのおじ様と助手の男性に確認してくれているケイ殿下。優しいわね…これはケイ殿下の為にもこの国で治療しまくるわよ!目指せ怪我人ゼロ!
まるで建築現場のスローガンみたいになっているわ…
さて午前中のドレス選びを終えるとお昼からは皇太子妃教育を受ける。この国の歴史、文化、貴族の歴史…大変だけど、ここに置いて頂けるのだから自分に出来る精一杯で答えなければ、ね。
夕方は軍の施設にお邪魔した。そこでは丸顔の治療術師のバント=ラガッフェンサさんが待ち構えていた。
「私も昨日『神の祝福』を受けましたよ!あれがワーゼシュオンの祝福ですよね!」
テンション高いな~
「こんにちは、ラガッフェンサさん。あれはただの回復魔法ですけど?」
「何を仰いますやら!あの回復魔法…深層魔力に影響を与えたようで、魔力量が増えたと報告する魔術師が沢山いるのですよ!素晴らしい!実に素晴らしい!」
「はぁ…」
疲れるわね、これが絡み辛いっていうことなのね。異世界で体感するなんて貴重だわ。取り敢えず当初の目的の重篤患者の治療を行いたいと話し、公示して頂いて予約を取り、緊急性の高い患者から早めに診察したいと申し出てみた。
「それなら、公示の手続きまで少し時間がかかりますので、城の診療外来で治療を始めてみませんか?人伝で腕のいい術師が城に居ると伝わるのも活用出来るかもしれませんしね」
ラガッフェンサさん商売っ気ありますね!もしや企画営業課にお勤めじゃ?あら魔術師?失礼しました。
フフ…私が働くのか。感慨深いものがあるわね…つい異世界での記憶をなぞっていると、赤毛のソバカスさんこと、レイズ=シツラット少尉が挨拶しながら室内に入って来られた。
「リシュリー殿下御1人ですか?ケイ殿下は?」
「皇帝陛下とリシュリー殿下関係の公示に関する会議ですよ」
ラガッフェンサさんがそう答えると、シツラット少尉は少し怖い顔をしたけれど、溜め息をつきながら、奥の執務室に入って行った。
「リシュリー殿下、明日からでも診察を始めてみますか?城に治療に来られる方は町の医術医院で診療出来ないような患者か、町医者からの紹介でやって来る方が大半ですので。」
なるほど~城の外来って大学病院とか国立病院的な立ち位置なのね、了解しましたよ!
ラガッフェンサさんと明日の打ち合わせをした後、帰ろうとしたらシツラット少尉が執務室から出て来て
「お部屋まで送ります」
と、言われた。私の側付けで昨日騒動のあったメイド達、カロンとハレニアが付いて来ている。部屋に戻るのに護衛?とかいるかしら。
「念の為です」
「はあ…」
しかもシツラット少尉ともう1人クラバファーという若い隊員の方もついて来てくれた。
大袈裟よね…
そして大人数で部屋へ向かう途中の中庭で、ドレス姿の令嬢が5〜6人屯っているのが見えた。するとその令嬢達は優雅にそして素早く近づいて来ると、私達の前に立った。
ちょっと待って?これって……。
「ご機嫌よう、リシュリアンテ王女殿下」
「まあ、素敵な銀糸のような髪ですわね〜それで男性を虜にされていらっしゃるのかしらぁ?」
「まああ、直接言ったらいけませんわぁ!」
やっぱり!初めて生で見たわ!これが職場の給湯室や階段の踊り場とかで
「あんたさぁ新人の癖に営業のケイ君に馴れ馴れしいんじゃない?」
「ちょっと若いからってケイ様に色目使ってるんじゃないわよ!」
とかの、先輩の女性社員からのイビリやイジメってこういうシチュエーションのことを言うのよね?
うわーっ感動!私、ちゃんとしたお勤めしたことないから、会社の先輩っていう人種?の方に初めて会うのよね。こういう感じな魔質になるのか~
「自国で随分艶やかなお付き合いをされていたみたいですが、殿下もどういうおつもりでしょうか」
ふんふん、それで?
「あばずれなんて……あら?はっきり言ってしまいましたわ!ごめんあそばせ」
おお!生でごめんあそばせ、頂きました!生で聞くと迫力?が断然違うわね。それはそうと……前列の令嬢ばかり吠えているわね。
「ちょっと後ろの方々」
「!」
私が黙っていた後列の令嬢に声をかけると、何故だか令嬢達は悲鳴を上げた。私は化け物かっての……
「後ろのあなた達は先程から黙っていらっしゃるけど、何かありませんの?」
「何かって?」
どうして、シツラット少尉が聞いてきますの?
「シツラット少尉は黙っていて下さい」
「……はい」
私は、再び令嬢方に向き合った。また悲鳴をあげる令嬢達。
「初めまして、リシュリアンテ=ワーゼシュオンと申します。さあ、素行調査以外で何か私に関することでありませんの?」
すると、一番前にいた令嬢が
「そ、そうやってっシツラット様やクラバファー様にも迫ったりしているんでしょう!この淫乱が!」
と叫んだ。メイドのカロンやハレニアが悲鳴をあげた。
淫乱…強烈ね。流石本場の先輩様は一味違うわね。言葉のチョイスが絶妙だわ。でもね…
「何を言っているの?シツラット少尉やクラバファーさんにも好みがありますでしょう?お二人に失礼でしょ?」
そうよ、私みたいなタイプに迫られるより、可愛らしい感じの女性が好きな男性って多いと思うわよ?
「ブッ…アハハハッ!」
突然、シツラット少尉が笑いだした。クラバファーさんも笑いだした。何なの急に?
「…私、何かおかしなこと言いましたか?」
「いえいえい〜え!リシュリアンテ殿下は是非そのままで!」
「はい、もう是非そのままで!」
シツラット少尉もクラバファーさんもまだ笑っている。すると…
「あら?ケイ殿下がいらっしゃるわね」
と、近づいて来るケイ殿下の魔質を視てそう言うと、令嬢達は凄い勢いで………逃げ出した。何だったのだろうか?
でも、凄かったわ。異世界で初めての生後輩イビリを見たわ、貴重な体験よね。
私、前の世界じゃあんなことすら体験できなかったものね。それにしても何だかあの子達、キャッキャしていたわね。若いからかなぁ。
「リシュリー!ラガッフェンサと診療の打ち合わせは終わったのか?」
私は一礼をしてケイ殿下をお迎えしてから、横に並んで歩きだした。
「何か問題はなかったか?」
と歩きながらケイハーヴァン殿下に聞かれたのだが、私が口を開く前にシツラット少尉とクラバファーさんが吹き出した。もう…また笑ってらっしゃる…。
「それが先程、フォリマセ公爵令嬢達に取り囲まれたんですよ~ところが、リシュリー殿下が一撃で蹴散らしてしまわれて~」
ちょっとシツラット少尉!蹴散らし…って私そんなことしていないけどぉ?
「殿下にも見てもらいたかったですよ!カッコ良かった!」
…え?どこを見ればカッコいい要素がありましたっけ、クラバファーさん?只の職業体験IN嫌味先輩と遭遇…という感じでしたが?
何だかお兄様方は私の先輩様にした対応がお気に召したようで、これまたキャッキャしている。
よく分からないけれど、まあいいか。貴重な体験をさせて頂けたわ。それに明日は念願の診療のお仕事が出来るものね。
こんな私でも役に立てる…自分の手を見た。
前世では何も残すことなく、ただ死んでしまって抜け殻みたいな最後だったけれど、ここでは生き甲斐を与えて貰えた。
よーし!明日から頑張るぞー!
しかし次の日
私は朝一から皇帝陛下や大臣…要はおじ様達が集まる朝議の場に連れて行かれて、『神の祝福』について説明をしろと言われてしまったのだ。
ええ~っ?説明と言っても…隣に座ったケイ殿下を見ると小声で囁かれた。
「私の説明だけでは納得いかなくて、本人の口から聞きたいと重鎮の方々が仰ったので…すまん」
どこの世界でもおじ様って、疑り深い人種なのかしらねぇ~。どうして若者の言う事を一々否定して、自分の意見を絡めながら会話に入っていくスタイルで物事を進めようとするんだろう?
私は、ギャーギャー言い出したおじ様達の足元に超巨大魔法陣を出して、朝議場にいる方全員に回復魔法をかけてあげた。
おじ様達は突然の回復魔法を体に受けて、呆けている。
「もう分かりましたでしょう?こういう魔法を私が撒きました!はい、終わり!」
私は朝議の間を出ると、そのまま診療外来に行った。
私が帰った後…朝議の間では腰痛が治ったとか、体が軽いとか、おじ様達が大騒ぎしていたらしいのだけど、私は忙しいのだ!知るもんか。