悪女か女神か SIDEケイハーヴァン
沢山のブクマありがとうございます。
またも誤字を感知しない特殊能力を発揮していたようです。
宜しくお願いします。
誤字と一部言い回しを修正しております。
「ワーゼシュオンの王女殿下とんでもない美人でしたね!」
興奮した第二部隊のクバラファーに声をかけられた。
「そ…そうかな?」
「そうかな?じゃないですよっ殿下!それにめちゃめちゃ強いし!カッコイイ!」
カッコイイのか?確かに賊と対峙して怯まずに、軽やかに攻撃を入れていた。あの体術は確かに素晴らしいな。
シツラットが賊を縄で縛りながら
「変わった姫ですよね~供の1人も祖国からはついて来ていませんし…物腰は優雅で柔らかなのに、実は治療魔法が使えて、戦闘訓練も受けている。そしてご自分の意見を持っていらして柔軟な対応だ。理想的ですね」
と私を見てきた。そう…本当だ。とんでもない逸材だった。物事に対して動じない胆力といい、私の…皇太子妃としての資質としては最高じゃないか。
問題はあの報告書にある通りの下半身の緩さだが…そこは監視して羽目を外さない程度にしてもらえばいい。
第二部隊の隊員達は、あの美しい戦女神に一目惚れをおこしている者が多数いるようだ。
もしかするとあの醜悪な愛人達も彼女のあの女神姿に惚れこんでしまって、所謂熱烈な信者のような存在だったのではないか?そうなっても仕方のないほどの強さと美しさだった。
転移魔法を使う時に引き寄せたあのしなやかな体…。ただ柔らかいだけではない、均整の取れた肢体。私の体に直接触れた胸の柔らかさ…大きかった。ふっくらと艶やかな唇…舐め回したい…はっ!
「殿下…殿下?賊が気絶してますよ?」
興奮し過ぎて縄を絞め過ぎたか…殺さなくて良かった。
ダラン…と白目を剥いて拘束されている男を見る。
「殿下こちらで賊の取り調べはしておきますから…それと黒幕に誰がついているかも早急に調べておきます」
シツラットは話の後半部分を小声で伝えると、一つ頷いて見せた。私も頷き返した。
その場の処理を部下達に任せて、廃工場を後にした。
そう、毒を…リシュリアンテ王女殿下を害そうとしてきた。王女殿下のお陰で未然に防げたが…。本当に馬鹿だよな、もしリシュリアンテ王女殿下がこの毒が原因で亡くなられたとして…次の皇太子妃の有力候補が毒殺犯として一番怪しいじゃないか。私だったら嫁ぎ先の夫に毒殺疑惑を疑われて、心から愛してもらえない妻の立場なんて絶対嫌だがな。
それでも欲しいのか…未来の皇后陛下の地位が…。
「馬鹿らしい」
私は皇太子妃の部屋で待つ、未来の妻の所へ急いで移動した。
部屋に入ると女神は泣いていた。
ソファに座って泣いていたリシュリアンテ王女殿下は、私の姿を見ると慌てて指で流れ落ちた涙を拭っている。
美しい…。そう泣き顔を見た瞬間真っ先にそう思ってしまった。
事実、今日初めてお会いしたリシュリアンテ王女殿下は…私の想像を遥かに超える美しく強く…そして希少な力を有する、まさに女神だった。女神は今、涙を拭きながら少し微笑んでいる。
「申し訳御座いません、恥ずかしい所を見られてしまいまして…」
恥ずかしいものかっ!とても神々しく儚く美しく侵し難き気品に溢れ…それは見る者を虜にする…。
ん?…んん?…ああっ!あのテーブルにある報告書はぁ?!
しまったっ!出したままにしていたかの?まさか女神に見られた訳ではないよな?
こそこそと横歩きをしてソファに座ると、さり気なさを装いつつ、急いでリシュリアンテ王女殿下の身辺調査報告書を私の体の後ろに隠した。
リシュリアンテ王女殿下は少し俯き加減で
「先ほどの賊の件は大丈夫ですか?お忙しいのでは?」
と、聞いてきた。少し元気がないように見受けられるが…はっ!
私はテーブルを飛んで乗り越えるとリシュリアンテ王女殿下の横に座り、王女の手を取った。
「もう王女を怯えさせるものはありません。私が全て排除してみせましょう。ご心配には及びません」
一瞬キョトンとした王女殿下は、やはりすぐに表情を曇らせると元気無く、少しだけ笑った後に頷かれた。そして握り締めた手も軽く振り払われた…。
「殿下、こんな所で手なんて握られては誤解されてしまいますよ?」
いやいやっ?どうしてだ?誤解されたって構わないではないか…だって私達もうすぐ…婚…い…ん。
ああっそうだ!
「あなたとの婚姻は国同士の政略のものだ。まずはそれを理解して欲しい」
とか
「私の婚姻相手としてリシュリアンテ王女殿下、あなたが一番釣り合いが取れて反対されにくい」
とか言ってしまったじゃないかっ。女神は政略婚だと信じてしまって…いや自分が余計な事を言ってしまったからなのだが…。
女神に手を伸ばしかけて止めて…また伸ばしかけて…を繰り返している間に夕食の時間になったらしく、メイドが呼びに来た。
リシュリアンテ王女殿下は自身のドレスに洗浄魔法かけてから、静かに立ち上がった。私は手を差し出した。
困ったような顔で私を見上げるリシュリアンテ王女殿下…。私は彼女の手を引き寄せた。
「王女殿下あなたを何とお呼びすれば?私はケイでお願いします」
王女殿下の手が震えている。今しかない!私は指先に口付けを落とした。
「リシュリーとお呼びください。ケイ殿下」
名前を呼ばれて気絶するかと思った。若干踏み出した足がよろめいたのは致し方ないことだ。
そして顔合わせを兼ねて皇帝陛下と皇后…そして従兄弟達と夕食を共にした。笑顔で食事を楽しんでいたのに歓迎の晩餐会の話になった途端、リシュリーの様子がおかしい…。具合でも悪いのだろうか…。
「父上、旅の疲れが出ているようなのだ、リシュリーを下がらせても宜しいか?」
と言うと、陛下や皇后や従兄弟達は大丈夫か?!早く寝かせてやれと大騒ぎをした。はっきり言うと皆、リシュリーの美しさに一目惚れなのだ。流石私の女神…。
しかし冗談抜きで顔色が悪い。部屋に戻ってメイドにお茶の準備を頼んでリシュリーとソファに座った。先程から自然な流れでリシュリーの体に触れることが出来ている。
いや…ふざけている場合じゃないな、どうしたんだろうか?お茶の準備の後、人払いをして理由を尋ねた。
「ケイ殿下…私、晩餐会に出られませんわ」
どうしてそうなるんだ…やはり私とは婚姻をしたくないのか?眩暈がする…。リシュリーは事情を話してくれた。
「私の母は他国から嫁いで参りました。しかし母は私を産んでから床に伏してしまい…亡くなったのです。その後に後妻に入られたのが今の国王妃でその後、ファシアリンテが生まれました。私は王宮の端の方に居住を移し、母の祖国からついて来てくれていた、複数人のメイドと侍従に育てられました。そこで、行儀作法や勉学、そして元軍人の侍従からは護身術なども学びました」
なるほど、その護身術があれか!
「ですが、そのメイド達も年を取り身罷られたりして…最近では私一人で何もかも身の回りの準備をしていました。ですからマーシュガイトラ帝国に嫁ぐに際して、何も持って出ることが出来ませんでしたの。ドレスも普段使うものしか所持していま…せん…ですから、私…無理なのです」
リシュリーの瞳に涙がせりあがってきた。私は堪らずリシュリーを抱き締めた。リシュリーはすみません、ごめんなさい…を繰り返している。
「大丈夫だ、安心しろ。私が全部準備してやろう。これからは何も遠慮をしなくていい。全部私に任せなさい」
リシュリーは益々泣き出してしまった。
「でも…わた、し…あれのような女だとおもわ…れて…いるんじゃ…」
あれ?
あれと言って震える指でリシュリーが指差しているのは慌てて隠そうとした、リシュリーの調査報告書がぁソファの上に綺麗に鎮座しているぅ?!
「み…見たのか…」
リシュリーは何度も頷いている。泣きながら項垂れてしまった。このリシュリーが報告書に記載のある、あばずれな悪女のはずが無い。もう確信に変わっている。
「あれは嘘なんだろう?どうしてあんな虚偽の愚行がまるで本当にあったが如く吹聴されているんだ」
リシュリーは悲しそうに微笑んで私を見上げた。
「あれは嘘です…と私一人が言った所で誰が信じますか?私は…貴族の令嬢の友人もおりません。お茶会などにも参加したことがありません。夜会や、デビュタントさえ出たことがありません」
驚愕だった…そんな扱いの第一王女殿下が許されるのか?誰もそれに否を唱えないのか?
「私にはあれを嘘だと言える公の場に参加することすら出来ないままでした。現にあんな噂が出ていて顔も知らない男性との恋愛を書き連ねられていたことさえ…今まで知らなかったのです」
誰がこの噂をばら撒いたのだろうか?そしてリシュリーから婚約者を奪ったのだろうか…まあ火を見るよりも明らかだが…。
「その侯爵家の婚約者は…リシュリーはどうだったのか?」
リシュリーは首を捻っている。
「子供の時に何度かはお会いしたことはあるのですが、婚約者だとは知りませんでした」
くっ…何て卑劣なやり方だ。
「ケ…ケイ殿下?魔力抑えて下さいませ…」
リシュリーが私の手を取ってくれる。ああ、温かい…指先から温もりが。
「リシュリーの魔力かな?気持ちいいな…」
私がそう言うとリシュリーは、慌てて胸元から魔石のネックレスを取り出した。
「そうだわ、魔力の放出を…今しても構いませんか?」
「おお、そうだったな。今日はどんな術にするんだ?」
「皆様今日は賊の捕縛でお疲れでしょうから、回復魔法で」
リシュリーは笑顔になった。うん、元気が出たみたいだな。ゆっくりとリシュリーの巨大な魔法陣が部屋に展開されて行く。そうか大規模な癒し術と言っていたしな…部屋一杯に魔法陣なんて大きさ初めて見たぞ。
巨大魔法陣が光り輝いた。
私の目にも魔力の粒子が見える!凄いっ…その粒子は光りながら降り注ぎ、体に当たった途端、強力な回復魔法が体を駆け巡った。
すごい…。一瞬で全ての疲労が吹き飛んだ。廊下や庭先でメイドの悲鳴や近衛の歓声などが聞こえる。
「うっかりしていました。事前に魔法を使うこと言うべきでしたね?」
「まあ……我が国にも『神の祝福』がやって来た…ということで」
私がニヤリと笑って見せると、リシュリーも笑いかけて咳払いで誤魔化すと、もうっ!と言って私の二の腕を小突いた。
いちいち可愛すぎる。
明日からリシュリーのドレスや装飾品を選ぶのに時間をかけないとな。私の妃を私好みの最高の淑女にするのだ!
その次の日
城下町の住人から昨夜、謎の回復魔法をかけられたとの通報が相次いだのは仕方のないことだった。