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悪女の嫁入り


私の婚姻前のお披露目会は無事終った。要は高位貴族の方々とケイ殿下側のご親戚一同との飲み会だものね。顔見知りの方もいらっしゃるし、問題無しだった。


そして和やかな雰囲気で終えられたのは、私が悪役令嬢の妹姫に目の敵にされている悲劇の姉姫…という噂が功を奏していると思われる。皆様から向けられる魔質は非常に同情的で労りが現れていたからだ。


噂ってすごいわね。貴族のマダム達やご令嬢方って、悲恋ものとか悲劇ものとか、純愛を引き裂かれ系が案外好きなのよね、ゴシップ的に。勝手に噂して盛り上げてくれるから助かるわ。


それにしても


いつの間にか私とケイ殿下が引き裂かれて巡り合う系の恋人同士になってるのかは、謎だけど…。いやあのね?私達、完全なる政略結婚よ?そこに1ミリも恋愛は絡んでこないけど?寧ろ、ケイ殿下から最初から政略婚だからって釘刺されてるけど?


まあ最近は……もしかするとケイ殿下に好かれているのかな~という気はしている。魔質がそんな感じなんだものね。そう思うと私も嬉しいというか、ね。


夜の営みにも力が入ります、はい。


…。


……。


晩餐会から数日過ぎた日の夜中に目が覚めた。つい、さっきまで起きていて少し眠りが浅くなっていたせいでもある。


おかしい……。いつもの夜番の近衛達も最近はほとんどの近衛の魔質の違いが分かるようになった。今日はミーレ君か~とか、ヨストワルデさん2日連勤だけど大丈夫なの~?とか、個人情報バレバレな感じで近衛の勤務状態を把握している。


なのに……今日は初めての魔質の持ち主が、数名居る。


私は横で眠るケイ殿下と私の周りに魔物理防御障壁を張った。するとケイ殿下がすぐに気が付いて体を起こしてきた。


「どうした?」


「庭内に知らない魔質の者が数名おります。今日入城した方はおりますか?今7,8人で固まって動いています」


ケイ殿下の表情が一変した。


「夜番に新入りは使わない。その者達の方向は?」


私は中庭の方を指差した。ケイ殿下は


「ハクラ」


と呼びかけた。


「御意」


声が室内に小さく響いた。ケイ殿下の護衛、暗部のハクラさんだ。私はこの国に来た時から彼の存在に気が付いていた。その彼に正式に会えたのは…以前、私がちょっと庭でストレッチでもしようか…と移動している時に、隠れてハクラさんが付いて来ていたことがあった時だった。


「私は1人でも居ても近付いて来る者は分かりますから、大丈夫ですよ?侵入者や暗殺者でも生きている限り魔質を出してますし、魔質ゼロの人なんていないでしょ?」


そう思い切って空中に向かって言ったのがきっかけだった。ハクラさんは、姿を隠す魔法かな?を解術して地面に膝を突いていた。


「隠れていて初めて気付かれました」


「そう?知っている?隠れる時に使う魔法もあなたの魔力が滲み出るの、微量だけどね?これに気付けるのは多分この世界じゃ私だけ…かもだけど、ご参考までに」


「精進致します」


私は頭を下げたハクラさんに思わず笑ってしまった。


「でも私、感じるだけでそれほど早く動けないもの。頼りにしてます」


「有難き幸せに御座います」


そんな忍び?なハクラさんは今は声だけで受け答え中だ。ケイ殿下は不審者の場所を知らせた。


「捕縛して参ります」


ケイ殿下に答えて一瞬で気配が消えた。もう大丈夫だろう…しかし、帝国の庭に不用心にも大人数で現れるなんて、忍び?の基本がなってない。ハクラさん達を見習え、動く時ちょっぴりしか魔質が動かないんだよ?


翌朝


捕まえた賊は……ワーゼシュオン神聖国の密偵だった。彼らは忍び込んだ理由を隠さなかった。


「無駄だと進言したのですが、聞き入れてもらえなかったのですよ。『神の祝福』を取り返してこいと言われました!」


このワーゼシュオン神聖国の侵入者は暴れもしないで拘束された。そして、怒っていた…ワーゼシュオン神聖国に対してだ。


「あなた達は神の祝福が何か知っているのですか?」


「勿論宰相から聞いていますし、詳細も知っています。ですが、ファシアリンテ王女殿下と国王妃は説明しても信じない。取り返してこいの一点張りです。行くしかないでしょう?馬鹿馬鹿しい…」


「それは……お疲れさま」


もうそう言うしかない。取り敢えず、侵入して見つかって拘束されたという実績が欲しかったらしい。どんな実績だ!ご丁寧にも、彼らが侵入して忍び込む所まで監視が付いていたそうだ…。


「もういいですよっ!あんな国に帰れなくてもっ!」


ワーゼシュオン神聖国の暗部?のお兄様達は牢屋の中でノビノビしていた。おかしい…牢屋だよ?


そしてケイ殿下と軍の皆様で話し合った結果


元?ワーゼシュオン神聖国の暗部のお兄様達は、私付きの護衛部隊として採用することになった。ワーゼシュオン神聖国の暗部のお兄様達は大喜びしていた。


「やったー!リシュリアンテ殿下の護衛だなんて、最高です!」


「俺達ツイてるなー!」


「……はぁ、宜しくお願いしますね」


という訳で、私にも専用のお付きが誕生したわけである。


そんな暗部の彼らは、ワーゼシュオン神聖国内で王族は窮地に立たされていると教えてくれた。


当たり前だけど、悪役令嬢のファシアリンテが王宮に閉じこもり、神の祝福をおこそうとしないので毎日癒しが降り注いでいたのにどうしてだ…と民衆の不満が上がっているらしい。貴族にも嫌われ、更に民衆にも嫌われ始めた。


「それに今、民衆の間でもファシアリンテ王女殿下が姉のリシュリアンテ殿下とケイハーヴァン殿下のお2人の間に割り込もうとしている…という噂が急速に広まってまして…」


私付きになった元ワーゼシュオン神聖国のビューザー=レガスは、チラリとお茶を飲んでいるケイ殿下を見てから


「どこから出て来た噂なのか…」


と笑ったので、成程…と私もケイ殿下を見た。スパダリ殿下+腹黒が暗躍してますね…。


そうこうしている間に時間は過ぎる。


もうすぐ私とケイ殿下の婚姻の式典が行われる。ワーゼシュオン神聖国の親族も一応招待している。果たして来るのだろうか?


さて、婚姻の式典までは本格始動を始めた『治療術師』と『軍属』という私も二足の草鞋を履く生活が始まった。


今日は軍属のお仕事である。山間に猿に似た魔獣が出るとのことで、ケイ殿下達と討伐に来ていた。


その魔獣は猿に似ていた…本当に似ていた。その頭数も含めてだ。


「そっちに行ったぞ!」


「きぃーー!」


「ぎゃあ!頭かじられたぁ!シヌ…」


「大丈夫よっはぁ!」


敢えて猿と呼ぼう、サル達は大群で襲って来た。体長も丁度サルと同じくらいだった。飛び掛かってくるサルを手刀で叩き落し、途中で段々面倒臭くなって魔法で防御し、更に面倒になって救護テントの周りに大きな防御障壁を張り、そこでサルにかじられた怪我人の治療にあたった。兎に角死ななきゃ治してやる!と断言すると、軍人の皆様は青い顔をして敬礼していた。


ケイ殿下はと言うと、大きな火炎魔法でサルの一団を焼き払っていた。動物愛護もあったもんじゃない。実際かじられたら強靭な力で体を引き千切られるらしく…今日は私のお陰でこの救護テントが最高の避難場所になっていた。


「危なくなったら逃げ込めよ!」


とケイ殿下は言うけれど、そんなへなちょこで軍人としてはそれはどうなの?と思うね。その日の討伐は怪我人ゼロ!で済んだ。最終的には…だが。治療して無理矢理元気にしているような気がしないでもない。詐称だ、詐称。


さて…そうこうして私なりにお仕事をしている間に


婚姻の式典が後三日に迫った。うちの実家、ワーゼシュオン神聖国の家族は来るかな~と思ったら、本当に来やがりましたよ?良く来れたなぁ、おい!…と、私付きの護衛になった元ワーゼシュオン神聖国の暗部の護衛達は皆、陰で嫌味を連発していた。


そして


あれほど悪役令嬢だと皆から、非難を浴びているファシアリンテだが…生地の膨らみが通常のドレスの倍ありそうな派手な色のドレスを着て、主賓の私より目立ちながら登場して来た。


花嫁より目立つって、あんた…異世界でもこの世界でもタブーだと思われるよ?あ、因みにまだ本番の式典じゃありません。今日は式典前のパーティみたいなものです。


ワーゼシュオン神聖国の国王陛下と国王妃、そしてファシアリンテ…が参加している。一番来て欲しかったカルント叔父様が不参加なのが悔しい…。


私がしょんぼりしているとケイ殿下が


「ちょっと今忙しいそうだよ?」


と言ってくれた。あれ?どういうこと?いつの間にカルント宰相と連絡取り合ってるの?


そうしてパーティが始まったのだけれど…誰か注意しないのかな~。ファシアリンテがね…乙女男子のエキ君、エキシューレン公爵子息にへばりついているんだよ。


私は動けないし、一応、私付きの護衛とケイ殿下の護衛の方々が影から見守ってくれている。頼むからどこかに連れ込まれる前に阻止してくれ!


今は表立って牽制してくれているのはマルヴェリガ=クラッセンダ公爵令嬢、エキ君の妹とエキ君のお友達の令嬢と子息方だ。高校生くらいの年頃の男女が騒いでいるのは微笑まし~とは今は思えない。


エキ君とマルヴェリガさんとお友達は可愛い~となるのだけど、ファシアリンテの魔質は淀んでいて暗い…。エキ君に向けて顔は微笑んでいるのに、心はドス黒い。


エキ君に興味が無いのに笑って見せている…。そこが一番腹の立つ所だ。まだ好きだと思っているのなら構わない。心にその欠片も無いのに…。ケイ殿下にも好きどころか憎しみの魔質をぶつけてくるのだもの…本当にファシアリンテに注意して下さいな…お父様。


先程、ワーゼシュオン神聖国の国王夫妻から型通りの挨拶は受けたが、国王陛下(あのひと)、魂が抜けたみたいな顔しているんだよなぁ。魔質にも起伏が無い…本当に抜け殻みたい。国王妃も顔は元気そうに見せているけど、魔質は淀んでいる。


そんなどんよりしたワーゼシュオン神聖国の国王陛下夫妻とファシアリンテは何とか帰って行った。


勿論、連れ込まれそうになって尚且つその夜に夜這いをかけられそうになっていたエキ君も、暗部のお兄様達の活躍で全て未然に防がれてエキ君の貞操は無事だった。しかし乙女心はズタズタじゃないかと…思う。


あのオ〇メインコいい加減にしろ!とケイ殿下に八つ当たりをしていたらケイ殿下が


「もう少しだけ我慢してくれ」


と言ったが、どういう意味だろう?その意味はすぐに分かった。


私達の婚姻式から3日後…ワーゼシュオン神聖国でクーデターが起こったとの知らせが届いた。首謀者はクレミルート=カルント…私の叔父だった。


迅速な作戦だったらしい。軍部はすでに叔父様と結託していて主要貴族も叔父様に賛同していた。そしてカルント宰相陣営の支援にマーシュガイトラ帝国がついたと正式発表がなされた。


発表前にケイ殿下に私は言われた。


「ちょっと身辺が騒がしくなるかもしれんが、構わないか?」


勿論ですよ!ドーンとこい!


クーデターの起こったワーゼシュオン神聖国は帰国しようとした国王陛下夫妻とファシアリンテの入国を拒否した。そして帰れなくなってファシアリンテ達はマーシュガイトラ帝国に助けを求めたが、勿論うちも拒否をした。


他の周辺諸国からも内乱に巻き込まれたくないと拒否されて困り果てている所へ…やっと国王妃のご実家の公爵家が何とか国内に入れてくれたらしい。しかし国王陛下の家族は王城にも帰れずに今は隠れ潜んでいるらしい。


ざまぁみろ!



オ〇メインコに罪はありません、念のため。

次が最終話になります。

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