悪女、覗きたい
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私の腰を抱き寄せているケイ殿下の手に力が入った。
すると突然、コロコロと鈴の転がるような笑い声が謁見の間に響いた。笑い声の主はマルヴェリガさん14才だ。
「初めましてマルヴェリガ=クラッセンダ公爵令嬢で御座います」
マルヴェリガさんは優雅に一礼をされると、扇子を広げるとまたホホホと笑った。
「ファシアリンテ王女殿下も当然っ凄い回復魔法を扱えるのでございましょう?リシュリーお姉様もとても素晴らしい回復魔法を使えますし、私…今ここで是非っワーゼシュオンの王族の方の回復魔法を見てみたいわ!」
マルヴェリガさんはコロコロと笑いながら、華麗な回し蹴りをファシアリンテに入れた!ファシアリンテはこの攻撃に耐えられるか?!
「い…今は、ちょ…調子が悪いので無理ですわ」
ぷはーっ!ファシアリンテ、なんて返しなのよっもっと頭を使いなさいよ。
「調子が悪いのなら仕方ありませんね。では盗まれたと仰るなら、我が国の皇城内を隅々まで探されるが宜しい。我らが盗人だと声高に訴えるのならばな」
ケイ殿下が魔質は若干弾んで楽しそうだが…声は静かにそう伝えた。それを聞いたファシアリンテは小さく悲鳴をあげた。
「そ…そんな?!私、ケイハーヴァン殿下を盗人扱いになど致しませんわっ!」
「今、王女は私の婚約者を盗人扱いしたではないか。リシュリアンテはもう我が国の国民、私の妃だ。私の妃を盗人扱いにすることはつまり、我が国が盗人だと申していることに他ならないではないかな?」
「…っ!」
ファシアリンテは顔色を変えた。これは…面白い展開になってきたわね。ファシアリンテはどう切り抜けるかしら?
「ほ…本日はもう日が暮れて…参りましたので、探すのはむ…難しいことかと、思われます」
ふわ~っ本題を話さずに微妙な言い回しで逃げたわね。ケイ殿下は大きなお声で言った。
「そうですね、もう日が暮れ始めている。本日はこの皇城に是非お泊り下さい」
なんとか切り抜けた?のか…ファシアリンテはあからさまに体の力を抜いて大きく息を吐き出している。
侍従がファシアリンテを促して部屋を出ようとしたが去り際に、まあ何とも言えないじっとりとした目で私を睨んでいた。
「嫌味な感じっ!」
マルヴェリガさんはそう言って閉じた扉を扇子で差しているが、昔からあんな感じなんですよ、彼女。
「確かに庇護欲をそそる外見の持ち主ですが、僕は怖いや」
エキ君がボソボソとそう言っている。確かに乙女男子のエキ君じゃ、中身おっさんみたいなファシアリンテは怖いよね、私も怖いな~とは思うけど。
他国の皇太子殿下や皇后の前であの不遜な態度…もの知らずにも程がある。狙ってやっているなら、大したものだと思うけれど、無意識なら恐ろしい。
今までそれでは駄目だよ…と誰も注意してくれなかったのだろうな…。明日からどうするんだろうね。実はね、私の横に黙って立っている、ケイ殿下とお姑さんの皇后ラジェンシエガ様からとんでもない怒りの魔圧が放たれてるのよ。
この親子は激高しないかわりに静かに怒るタイプなのね。
「全く…誰かあの姫が立っていた辺りに浄化洗浄魔法をかけておきなさい!」
「そうですね、母上。場が穢されているかもしれませんね。おいっ浄化だ!」
親子2人がそう叫んだので、本当にファシアリンテが立っていた辺りと廊下に向けて魔術師の方々が魔法を使っている。
二度と来るんじゃねーぞ!おいっ!塩を撒いておけ!
と、同じ意味合いだろうか?
そうして、夜…大急ぎで準備された歓迎の晩餐会が催された。まあ、会という程大袈裟じゃないのでいつもより少し豪華な夕食という感じでしょうかね?
ファシアリンテは一人、ゴージャスなドレスを着て参加していた。普段着に毛の生えたような服装の私以下ケイ殿下やマルヴェリガさん、エキ君…何だか居心地が悪いですけど、どうしましょうか?
ケイ殿下なんて軍服のままだけど、ある意味正装なので正解かもしれない。
しかしマルヴェリガさんは、目を吊り上げていた。とてつもなく怒っていた。怒ってても可愛いけれど…。
それにしても、ファシアリンテは瞬きの回数多いね。そんなに目をシパシパさせなきゃいけないかな?花粉症じゃない?そして常に小首を傾げているけど、むち打ち症?寝違えたのかな?
もう誰がどう見てもケイ殿下を意識しているのが丸分かりなのだけど、まあ魔質の視えない人から見れば、どなたに対しても可愛く小首を傾げている王女殿下なのだけれど…。
もしケイ殿下をどうにかして自分のモノにしたいと思っているのなら、ケイ殿下を侮っているんじゃないかしら?今ケイ殿下の魔質は冷静だ。微笑まれても可愛く見つめられても、一切魔質に変化は見られない。
という訳で夕食会は何とか終了した。
食事の後、部屋に戻る時もケイ殿下の魔質は変わらない。少し変化があるとするならば、私に対して好意っていうかそういう魔質が視える。それにね、先程から一度もファシアリンテに会いに行けば?と聞いてこない。まあ私とは仲悪いの知っているからだろうけれど…。それにしても嫌だね~チラリと後ろを見る。
「気にするな。ファシアリンテ王女の護衛兼侍従だろう」
ケイ殿下も気付いていらっしゃいましたか…。
「どうして私達の後をつけていらっしゃるのでしょう?」
「う~ん、それは…夜中になれば分かるかも?」
何でしょう?ケイ殿下は分かっておられるのね。モヤッとするけど、夜中まで待てばいいのよね?
そうして、何故だか帰らずに私の部屋の中に一緒に入って来られた、ケイ殿下。そして…ニヤッと笑いながら室内の扉を指差している。
ん?そう言えばその扉、気になっていたのだけど、納戸?
ケイ殿下はニヤニヤと笑いながらその扉を開けた。あら?簡単に開くのね?んん?中は……え?私の部屋に似たような感じの部屋で…滞留する魔質は…ニヤニヤとまだ笑っているケイ殿下の顔を見た。
「もしかしてお隣はケイ殿下のお部屋で?」
「そう…当たり前だとは思うけど、皇太子妃のリシュリーは私の部屋と続き部屋で扉で自由に行き来できるようになっているからね。」
コネクティングルームっていうんだったっけ?成程…。これは、これからはケイ殿下がずっと行き来してくるよ~というアピールなんだろうか?まだ正式に皇太子妃じゃないんだけどなぁ。
まあ政略婚とはいえそういうことで、もしかすると手を出される(この表現は変か?)可能性もある訳で…無駄に長生き(この表現もおかしいか)している私だけど、その手の経験値はゼロだ。悲しいほどゼロだ。
所謂、マグロ状態になりかねない状況に今更ながら緊張している。
「ふふ…」
ケイ殿下が音も無く私に近付いて来ると、私の腰を引き寄せてきた。立っていてもマグロ状態の私はビヨヨ~ンとバネのような動きでケイ殿下の胸の中に飛び込んでしまった。
女子としてはどうなのだろう?きゃあ♡とかあれぇ~♡とか可愛く、しな垂れかかりたかった…。
「リシュリー…また後で」
ケイ殿下の端正なお顔が目の前にきて、おでこにチュッ…とキスをされた!
そしてケイ殿下は颯爽とその部屋の中の扉から、隣の皇太子殿下の部屋に帰って行ってしまった。私は暫く閉められた扉の前で放心状態だったが、ハッと我に返り急いで湯殿の準備をした。
そりゃ私だってね、人並みに興味はありますよ?でも、最初にケイ殿下の政略婚の話をされてそっち方面の事は諦めていたんだよね…こういう普通の営みとか…。
義務とはいえケイ殿下の性格でそれほどは無体なことはされないはずだし、マグロだけどドーンと……ドーンとはまずいか…豊富ではない知識だが、知恵を振り絞ってケイ殿下をお出迎えしなくては!
先ずは入浴剤を入れた湯舟で体を温めることにした。
お湯に浸かっているとカロンとハレニアが部屋に入って寝台を整えておいてくれたみたいだ。
「リシュリー殿下、御着替えおいておきますね」
「ありがとう~」
脱衣所からハレニアがそう言って声をかけて下がった後、のんびり湯から出て着替えを見て、私は絶句した。
なっ何だ?!このスケスケエロエロしい夜着はぁぁ?!〇首が透けて見えてないこれ?思わず手を布の裏側に差し入れて透け具合を確認してしまった。
ギリギリ…見えるか見えないかの透け透け具合だった。おまけに胸元のリボンを解けば夜着が全部脱げてしまう仕様は何なのこれっ?!
おまけに下着だよ、下着!これも紐にしか見えないのだけど?これ隠れている部分あるの?丸見えじゃない?!
一応着てはみたものの…心もとないのでバスタオルっぽい拭き布を被って急いで湯殿を出た。
……何故か、ケイハーヴァン殿下がお酒?の入ったグラスを傾けてソファで寛いでいた。
「……」
「リシュリー待っていたよ」
一応バスタオルで防御力アップを図っておいて良かった。いや、手を差し出されても…困る。ジリジリとケイ殿下との間合いを計っていると廊下にファシアリンテの気配がした。
あの子の泊っている来賓室はこの辺りじゃないわよね?何となく廊下の魔質を確認していると、ケイ殿下も気が付いたのか、廊下の方を見た。
「やっぱり来たな…」
「やっぱり…と仰るということはファシアリンテが来ることを予測していたと?」
ケイ殿下は油断して防御を忘れていた私の体を引き寄せると、ソファに座らせた。防御力アップを図ったバスタオルが滑り落ちて………ひえええっ透け透け夜着がぁ白日の下に晒される?!
「ギャ…んんぁ…ググッ」
ケイ殿下に叫びかけた口を手で塞がれた。
「しーっ…ファシアリンテ王女殿下は恐らく私の部屋を訪ねてきているはずだ」
「…!」
「私は秋波を送ってくる令嬢方の気配や仕草も人よりは敏感に感じている方だと思うよ」
敏感に…なるほど、スパダリ殿下はモテそうだものね。
「今日、ファシアリンテ王女付きの男が私達の後をつけていただろう?恐らくあれは私の部屋を調べてファシアリンテ王女に知らせる為だと思ったんだ。あの秋波であの尾行…正直に言うと何度か経験があるのだ」
さ、流石スパダリ殿下!え~とこれって夜這いだよね?
夜這いも生で見るのは初めてだわ…ちょっと見学させてもらってもいいかしら?
「……こら、リシュリー。何故扉を開けて、廊下を見ようとするの?」
扉の前に行こうと扉に意識を向けただけでケイ殿下にバレたみたいだ。剣士の勘…でしょうか?
「いえあの、夜這いを仕掛けている女性を初めて見るので……見学してみたいと」
「駄目」
「はい」
やがてケイ殿下の部屋の前で小声でケイ殿下を呼ぶ、ファシアリンテの声が聞こえてきた。
次回は皆がハァハァ言っている回になります




