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掌編小説

掌の明日

作者: タマネギ

目覚めても、Fの目に、

動く天井が見えていた。

まるでプラネタリウムの

星座の動きの様に、

左から右へと天井が流れていた。


近頃、目が回ることが多くて、

Fは夕べ、早めに床についた。

眠りの中、夢の世界に入っても、

少女が花を摘む草原の風景が、

流れていたのだった。

いつからだろうか。わからない。

子供の頃には、あまり、

なかった気もするけど。


目が回る。ぐるぐると。

かと言って休むわけにはいかない。

起き上がって、

仕事に行かなければならない。

効率を求める世なのだ。

人手不足だとはいえ、

会社はいつもリストラの

チャンスを狙っている。


もしかしたら、そのストレスか。

それにしては、就職する前から、

目は回り始めていたが。


何度か医者にも行った。

時々、精密検査もした。

しかし、原因はわからなかった。

そんな時、医者は大抵、

軽い貧血のせいにして、

しばらく様子を見ましょうと言った。


Fはぐるぐる目が回る辛さが、

伝わらないことでいらいらし、

医者に、この藪医者と、

罵ったりした。

Fは元来、短気だった。


とにかく、目が回るのだ。

Fは藪医者からもらった、

薬を飲み、会社に向かった。

薬は、精神安定剤みたいな

ものらしく、

一応、歩けるぐらいにはなる。


まだ肌寒い春先の通りには、

いつもと変わらない街並みが

あった。

Fの、少しましになった目には、

それがどこか、よそよそしく映る。


駅前のショッピングセンターを

通り抜けた。それが近道だった。

出口近くの一角、

陽向に易者が座っている。


Fは、どうせ遅刻なのだと思い、

ぐるぐる目が回る理由を

聞けないものかと、

易者の前の椅子に座った。


「いらっしゃい。お悩みは?」


「目が回るんです。ぐるぐると。

年がら年中。

近頃、ますます酷くなる」


「だったら、

お医者さんに診てもらった方が……」


「だめです。藪医者ばかりで。

薬はまともみたいですけど」


「そうですか。

まあ、とりあえず拝見しましょう。

ではまず、手の平を……」


易者はそれから、

何通りかの方法でFの事態を

占った。


「……まだわかりませんか」


Fは、いらいらしていた。


「うーん、これは……」

易者は眉をひそめ目を凝らした。


「何か、わかりましたか」


「あなたの目が回る理由は……

私は、以前、似たような人物を

占ったことがありましたが。

あなたはそれ以上かもしれません」


「えっ?」


「申し上げにくいことですが、

あなたの運命線、ほら、

渦が見えてます。

この線、こんなにくっきりと」


「ほんとだ……」


「あなたは、自分中心に

世の中が回ると、

そうお思いではありませんか。

もしそうなら、

やはり、目が回るでしょう」


「自分中心……

それでこんな運命線に?」


Fは自分の手のひらを見つめた。


「……あの人もそうでしたよ。

今は、政治の世界におられますが」


易者もFの手のひらを見つめて言った。


それから、薬が切れたのか、

Fはまた目が回り始めた。


易者が左から右に流れては、

また左から現れる。

次第にスピードが早くなり、

縞模様にしか見えなくなった。


Fは、自分が死ぬんだと思った。

すると、縞模様の中に、

少女と大人の女が現れた。


夢の中の草原で、

花を摘んでいた少女と、

どこか懐かしい面影の、

知らない女だった。


Fは、その二人に、

何故か流れないでと願い、

易者の前の椅子から、

ゆっくりと、転げ落ちていった。

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