クラウディア、誕生。ワレ、主(あるじ)を得る
「まあ、とても・・」取り上げた助産婦は言い淀んだ。助産婦は赤子の赤髪をさわり、赤子の黒目を隠すと赤く光る。「この子、魔力暴走を起こしているわ」と、助産婦は叫ぶ。聖王歴342年、8月12日の夜、赤子の父親赤ひげのジャリルは娘として生まれた赤子を抱きかかえて南に5キロ離れた街シャトルに向かった。ジャリルは山道を下り、途中足が絡まり、転倒しながらも赤子である娘だけは守りながらシャトルの門をくぐり抜けて、額から血を流しながらも走り続ける。息を切らして、街の中央にある”建物”を見上げた。
聖王を神と崇める”聖王教会”には黒き狼と太陽のシンボルが掲げられている。そのシンボルの下で、ジャリルは叫ぶ。「お開けください、お開けください。娘が、娘が大変なんです」
「扉は開いておるぞ」と、中から声が聞こえる。ジャリルは慌てていたのか、体当たりをして扉を開けた。
「どうか、うちの子を、うちの子を」
赤い絨毯の上を青と白が入り混じった大神官の帽子と法衣を着た白ひげの男が歩いて来る。
「ジャリルではないか。今日は赤子の生まれる日と聞いていたが、どうしたのかね」
「大神官レヴァ様、娘が魔力暴走を起こしているんです。助けてください、助けてぐださい」と、ジャリルは最後は泣きながら頼んでいる。ワレはそれをただ眺めている。赤子の身体から。
大神官の帽子と法衣を着た白ひげのレヴァはジャリルから赤子を受け取り、「そうか、そうか。運の強い子だ。赤子の時の方が助かる確率は高いからな・・・よしよし早速儀式を開始するぞ。ジャリル、手伝ってくれるか」と、大神官レヴァはジャリルの手を取って起こす。
「もちろんです。大神官レヴァ様。何でもします、何でも」と、ジャリルは言う。
赤子の目が、赤く光る。父親、ジャリルの左腕が消えた。赤子の身体から伸びた黒い狼の口が左腕を食べている。そう、それがワレだ。魔力の根源と呼ばれ、魔王と呼ばれ、常夜の闇と呼ばれる存在。
それがワレだ。
「くっ。急がなくては・・・」と、大神官レヴァは火の上位精霊、水の上位精霊を順に呼び出して赤子と契約させていく。その間にワレは父親をほとんど食べてしまった。もうよほどの事でもない限り復活は望めない。
リ・フェニックス。炎と水を使用した反魂の術式が展開される。
もちろん、リ・フェニックスと誰かが唱えたわけでは無い。
炎の術式により、父親の身体が燃やされ、炎へと昇華していく。その炎の中から不死鳥が飛び出して、水の術式の発動により、不死鳥は心臓へ変化していく。
炎と水を交互に発動させる事で身体を再生させる反魂の術式だ。ワレはその術式に見とれてしまう。
心臓は炎の術式によって、動き出す。血の廻る場所に血管が水の術式によって再生され、かつ、骨と肉が再生されていく。父親ジャリルは復活した。
「おお、ジャリル。復活しましたか・・・しかし、一体誰が反魂の術式など」と、大神官レヴァはあたりをキョロキョロと見る。ワレは建物に意識を合わせて探る。
視ようとする。ワレは魔力の根源。ワレは常夜の闇。視れるはずだ。そう、視れる・・・。
<わたしを探しているの?>
『だ、だれだ・・・ワレを魔王と知ってのことか!』
<うふふ。わたしを探しているのね。うふふ。視れるといいわねぇ。あなたの目、とてもいいのね。どこまでも見れる。この街も。わたしの生まれた村も。お母様も。お父様も。>
『だ、だれだ?どこにいる?ワレをワレを圧倒するなどありえぬ。ありえぬ、ありえぬわぁああああ』
「誰が反魂の術式など高等魔術を・・・いや、魔導か。分からん。上位精霊を契約させた事で暴走が止まるという理論は間違ってなかった。だが、このままではまたこの子は」と、大神官レヴァは抱きかかえている赤子を見る。
黒目に手をかざす。赤く光らない。
「魔力暴走は治療法の無い病気・・・王族でさえ、助かる道も無く、命を落としている。助かる道は・・・」と、大神官レヴァは目をつぶる。
¥心配しないで、大神官様¥
「!!誰だ?どこにいる?」と、大神官レヴァは赤子を抱きかかえたまま、あたりをキョロキョロと見回す。
『貴様ごときに見つける事などできるものか、ワレはシャトルの街と同化し、街全体を探しているのだぞ。分からぬ、一体どこなのだ』
大神官レヴァは不思議なモノを見た。人間の匂いが嫌いな土の上位精霊がどういうわけか目の前にいる。さらに人間の前にはごくごくまれにしか姿を現す事が無いという光の上位精霊と闇の上位精霊という希少種までも目の前にいる。さらにこんな場所にはまずやって来るはず無い風の上位精霊と、樹木の上位精霊たちが来ている。彼彼女たちは上位精霊だ。そんな彼彼女たちが大神官レヴァの目の前で頭を下げて、跪いている。
「・・・いや、あの」と、大神官レヴァは間抜けな声を出す。
ワレにとっても何が起きているのか分からぬ。そう、ありえぬ事だ。仮にも上位精霊だぞ。
<循環させると喜んでくれたのよ。うふふ、まだわたしを探しているの。うふふ。近づきすぎて視れないのね、きっと。あなたとても目がいいのに。残念だわぁ。もっと大きくすれば視えるかもねぇ>
『またか、またなのか。どこだ、どこに・・・そうか、国か。この聖王国アザラクにまで範囲を広げてやろうではないか。単純な事だ。ワレさえも圧倒する魔力の持ち主。そして全属性の精霊と契約したという事は虹色のオーラが溢れ出しているはずだ』と、ワレは聖王国アザラク全土が視えるように広げた。
虹色のオーラはたしかに溢れ出していた。
その場所はシャトルの街の中央にある教会から。
ワレは教会に圧倒されたのか。教会ごときに怯えていたのか。ならば壊してくれよう。
『くははは、正体さえわかればこっちのモノだ。壊れるがいい』と、ワレは黒き狼として具現化し、教会を丸飲みできるほど巨大化して教会を飲み込んだ。
<あはは、すごーい>
『くはははは、喰って???・・・・・・どういうことだ???ワレはまだ見つけていないのか』
<うふふ。まだわたしを探しているの?>
また反魂の術式が展開されている。それも2人分。それにワレが食べたはずの教会は無傷で存在している。
反魂の術式により復活した大神官レヴァは赤子を抱きかかえたまま聖王の銅像の前へ歩き出した。
『分からぬ、分からぬ、わからぬぅぅうううううううう』
ワレはもう一度聖王国アザラクにまで範囲を広げて視る。
やはり教会だ。シャトルの街中央にある聖王教会だ。
ワレは教会に範囲を狭めてみる。大神官レヴァが赤子を自分よりも高い場所、銅像の台座に置いて、跪いて頭を下げている。気でも狂ったのか、この大神官は???それと赤子の父親も跪いて頭を下げている。
いや・・・・・・よく視るんだ。まさか、そんなバカな。
ワレはワレの依代である赤子を視た。
虹色のオーラが溢れ出している。ワレの半身である”太陽”を背後に纏っている。
ふっ、ワレを圧倒するわけだ。ワレの半身とワレの魔力をそのまま使っているのだから。
<やっと見つけたね。嬉しいなぁ>
『ワレとワレの半身を纏うか・・・主。そう呼ばせてもらおう』
それがワレと主との出会いだった。
主は3日後に”クラウディア・イルハ”という名を授かる。ワレは”フェンリル”と名付けられ、ワレの半身は”クシュル”と名付けられた。