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どうやら覗かれてたみてぇだな


 神具(アーティファクト)


 現在の技術力では再現することが不可能な、神が作ったであろうと思われる道具の数々。

 基本的には遺跡などから発掘されるものが多く、一般的な流通に出回ることはなく、オークションなどによる競りが行われることが多い。


 あるいは、その神具が持つチカラの内容によっては、王侯貴族などによる管理がなされることもある。

 そういう意味では、王宮がそれらを多数所有しているというのも不思議ではないだろう。


 神具『遠視(とおみ)仮面(かめん)』。

 ショークリアがそれを見たのであれば、アイマスクのような形状のサングラスだと言うだろう形状をしている。

 遠視(とおみ)水晶眼(すいしょうがん)と呼ばれる道具と、二つで一組の道具であり、その名前の通り、遠くの様子を見る為のものである。


 水晶眼はその名前の通り、水晶で出来た眼球だ。大きさも人間の眼球と同じ程度。

 仮面を付けていると、その水晶眼が見ているモノが視えるという道具である。

 また、仮面を付けている者の耳には、水晶眼の周囲の音も一緒に聞こえてくる仕様だ。


 そんな神具の仮面をつけているのは、トレイシア。この国の王女だ。

 デビュタントが開催される催事用ホール近くにある、王族の控え室で、トレイシアはその仮面を付けて、口元を綻ばせていた。


 ホールで催しがある場合、この部屋には王族と王族から指名された者しか入れない為、トレイシアも普段より伸び伸びとした様子を見せている。


「楽しそうだな」


 そんなトレイシアの姿を見ながら声をかけるのは、キズィニー・クォコ・ニーダング。またの名をキズィニー十二世。彼女の父親であり、つまりはこの国の王その人だ。


 息子と同じ鮮やかな金の髪を持つキズィニーは、娘よりも深いアメジストの瞳を興味深げに細めている。


 仮面を付け、遠視(とおみ)遠聴(とおちょう)をしながらでも、受け答えする余裕があるトレイシアは、父からの言葉にうなずいた。


「ええ、楽しいですよ。

 前哨戦のような舌戦を視ているのですけれど、まるで大人のような戦いをされていまして、とても嬉しいですわ」


 言い換えれば、自分と同世代に自分と肩を並べてくれそうな女性がいるというのは心強いし嬉しいのだ。

 ましてや片方は、元より期待をしていたメイジャン家の令嬢なのだから、尚更である。


「それに、一応の決着がついた時の、片側の対応が素晴らしかったのですよ」

「ほう」


 基本、表面上だけの感情を見せることが多いトレイシアが、心から嬉しそうに告げる言葉に、キズィニー十二世も興味が沸いた。


「明らかに負けた側を侮蔑する眼差しが増えた中で、勝った側が、舌戦の中心の話題となった実は美味しいらしい魔獣を、機会があれば共に食べようとお誘いしたのです」


 トレイシアの解説に、キズィニー十二世は一度は納得したものの、僅かな後で首を傾げた。


「美味なる魔獣?」


 そのやりとりを遠視しているトレイシアにとっては納得の出来事なんだろうが、直接視ていないキズィニー十二世からしてみると、意味が分からない内容ではある。


「ええ。ロームングノスという魔獣だそうです。

 そのお肉は、一部の土地では重用されているそうです」

「ロームングノス……グノス種の魔獣だろうが……旨い、のか……?」


 キズィニー十二世の記憶の中にあるグノス種と、食肉が結びつかず、やはり首を傾げた。


「どうやら、ビルカーラ家が、メイジャン家への嫌がらせでけしかけたようですね。

 本来は湿地帯に生息する群れない魔獣が群れて襲ってきた、と。

 それら全てをスーンプル領内で斬り伏せたコトに対する苦情を言おうとして、反撃を貰ったビルカーラ家という構図ですよ」

「メイジャン家が魔獣に対する知識が薄ければ効果的だったかもしれぬ話だが――自ら進んで魔獣を狩り、その血を啜るとまで噂される鮮血令嬢にするには、些か幼稚な手だな」


 キズィニー十二世はその噂の真相を知っている。

 緑の神の加護が少ない土地での食料確保の為の研究の一環である。


 その真相を知っているのであれば、いくら珍しい魔獣であろうとも、けしかけた場合の反撃は想定してしかるべきであろう。

 実際、近隣に生息しない魔獣をメイジャン家の令嬢は知っていたのだ。

 それが食肉として重用される土地が存在していることを含めて。


「戦闘に対して迅速に駆けつけたスーンプルの騎士たちに対しても、美食家のビルカーラ卿が食べたくてすぐ血抜きできるように寄越したのだろうと、ショークリア様は言われました。

 道を急いでいたのは事実ながら、魔獣の死骸を片づけなかったのは、気を利かせてのコトである――と」


 痛快であったとトレイシアが笑えば、キズィニー十二世も同じように笑う。


「ですが、ハリーサ様も中々なのですよ。

 反撃する言葉を思いつかなかった為に、潔く退きましたもの。

 その上で、ショークリア様に対して、爵位でもって抑えつけるような発言はしませんでした」

「なるほど、それは確かに優秀だ。

 ここ最近の権力以外に誇れない連中は、『騎士爵の分際で』などと言いかねない」


 本来、メイジャン家の持つ中級騎士爵という身分は、準中級貴爵と同等のはずである。

 ところが、準中級貴爵たちだけでなく、下級貴爵たちすら、その身分を嘲笑する。


 それが上級騎士爵や上級魔術爵であっても関係ない。

 ただ、功績によって爵位を得たものたちに対して、貴族と認めていないのだろう。


「俺が敢えて功績爵を与える頻度を増やしている理由を、正しく理解している貴族は少ないだろうな」


 遠回しに権力と身分に溺れて貴族の仕事をロクにしないのであれば、爵位を取り上げるぞという脅しなのだが――


「ショークリア様やハリーサ様ほどの舌戦が出来る方々も減っておりますからね。正しく伝わっていないのでは?」

「言うな。頭が痛くなる」


 トレイシアは正しく理解してくれているようだが、伝わっていないのだから本当に頭の痛い問題だ。


「まぁ、宝冠剣(ほうかん)たる神剣(ディバインウェポン)ステロマーヤが不在ですから。

 ステロマーヤを持たぬ王は王に非ず――それを理由に、王家を蔑んでいらっしゃる方々も多いからというのもあるのでしょうけれど」

「知ってるか、トレイシア。

 そいつらの中にはステロマーヤを手に入れれば自分が王になれると信じている輩もいるらしいぞ?」


 キズィニー十二世の言葉に、トレイシアは遠視の仮面を外し、思わず父の顔を見た。

 それから一度だけ目を瞬かせてから、こてりと首を傾げて告げる。


「なれると良いですね」

「なれると良いよな」


 娘の愛らしい仕草に、キズィニー十二世はうなずくと、今度は親子揃って、そっくりな皮肉顔で笑いあった。


 神剣(ディバインウェポン)とは、神具(アーティファクト)の中でも武器の形をしたものの総称だ。

 武器の形をしていれば神剣と呼ばれるので、斧でも槍でも弓でも神剣である。


 宝冠剣ステロマーヤは、そんな神剣の中でも素直に剣の形をしているものの一つ。


 剣としての単純な質の高さは元より、持ち主が魔力を流せば、創造神の色たる銀色に輝き、装飾として施された赤と緑の宝石が光を放つ。

 父性の赤と母性の緑の魔力によって、信頼おける仲間や部下の心に火を灯し戦意と勇気を高め潜在能力を引き出すとされる。

 さらに、この効果が発動中に、もっとも信頼できる者へと剣を託すことで、剣を受け取った者の能力を大きく高める効果もあるという。


 この国においては、王冠以上に王冠の役割を果たしている剣であり、剣に認めてもらえてこそ、王であるとされる。


 それもそのはずで、ステロマーヤは選定の剣とも言われており、持ち手を選ぶ剣とされている。例え王族であろうとも、剣に認めてもらえなければ、王位を継承できないとされていた――王位継承者が一人しかいない場合などはその限りではないが――。


 だが、フォガードが騎士爵を賜るきっかけとなった戦の折り、剣を携え前線へと赴いた先王が戦死した際に、いずこかへと消えてしまった剣でもあった。


「剣を手にすれば王になれる程度の考えしかないやつが、剣に認めて貰えるはずがあるまい」

「ええ、同感です、お父様」


 リュフレ卿やメイジャン卿のような人物であればあるいは――と、親娘は思うものの、それは敢えて口に出さない。


「さて、だいたいの方が会場に集まったようですので、私もそろそろ会場に向かいます。

 お父様も、皆様への言祝ぎをよろしくお願いします」

「無論だ。そして、当然、お前のコトだって祝福する。いや、お前を一番に祝福するつもりだ」

「それは構いませんが、それを分かりやすく表に出すような不出来は許しませんよ?」

「全く、我が息子も、我が娘も、厳しく育ちおって」

「お父様の奮闘むなしく、そうならざるを得ない鳥籠で囲われてしまったものでして」


 わざとらしく嘆く父に、割と本気で皮肉を口にする娘。

 やがてどちらともなく微笑んだところで、トレイシアは優雅に一礼をした。


「それでは行って参ります」

「うむ。励めよ」


 そうして娘が出て行くのを見送ってから、娘が使っていた遠視の仮面を手に取った。


「さて、今年の子供たちはどんなものであろうかな」


 自分の出番が来るのをただ待つのは暇である。

 だからこそ、この部屋には遠視の仮面が置かれている。


 だれが置いたのかまでは不明ながら、少なくともそういうことが好きな王が歴代の中にいたのだろう。

 そして、以後の王族たちも、この神具を楽しく使いこなしていることからして、間違いなくその王の血を引いているのは間違いなかった。





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