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上生菓子の初お披露目だぜ!

ここ最近、転移転生ファンタジーの日間ランキングにいるだけでなく、同ジャンルの週間、月間にまで顔を出させて頂いているようで、皆様、ありがとうございます!

今後とも٩( 'ω' )وよろしく!


「本日の食後の甘味……ネリキリというお菓子です」


 ショークリアは運ばれてきたお菓子の名を紹介する。


 四角い小皿の上に鎮座しているのは、夏の定番ともいえるナーサの花を模した食べ物だ。


「見事なナーサの花ね……。

 上等な細工みたいだわ」

「ああ。食べるのが勿体ないな」


 それを見て、両親は驚いた顔をしている。


(うし。お袋たちの反応は上々だな)


 この驚きようであれば、王女殿下への手土産として持って行くのも悪くなさそうである。


「ショコラ。これはどういうお菓子なんだ?」

「イェンディック豆から作った、白餡というクリームに、泥小麦(ダモ・ミルツ)こと丸米(エドルグ・エシル)の粉を混ぜ、練り上げたものです」


 イェンディック豆というのは、地球でいうインゲン豆に似た食材だ。

 地球で白餡を作ろうとすると白インゲンを使うのだが、そもそもイェンディック豆は白いものなので、これを用いて白餡を作った。


 そこに、泥小麦(ダモ・ミルツ)こと丸米(エドルグ・エシル)を挽いて作った米粉を混ぜ込んで、煉切餡(ねりきりあん)を作りあげたのである。


「話だけ聞くとずいぶんと単純なようだけど」

「そうですね。ただネリキリというお菓子を作るだけなら単純だと思います。

 このお菓子の一番の特徴は、色を付け、形を整え、こうした細工を施し目を楽しませるコトですから」


 ショークリアが解説すると、両親はなるほど――と納得してみせた。

 実際、煉切餡だけを作るのであればそう難しいものでもない。


 だが、ネリキリは非常に難しい。

 ショークリアの持論に近いものだが、ネリキリをネリキリたらしめているのは、やはり季節や提供する場に合わせた繊細な細工だろう。

 これがあってこそのネリキリだと、ショークリアは思っていた。


「それにしても丸米(エドルグ・エシル)か。

 ダイドー領の北部で、あれを見つけた時のショコラの暴走っぷりったらなかったな」

「あ、あははは……あの時は本当にごめんなさい」


 そのあまりのテンションの高さに周囲をドン引きさせてしまった自覚は一応あるので、素直に謝る。


(でもよー……日本人の心が残っている以上、米を見つけりゃテンションあがっちまうってもんだろ)


 泥小麦(ダモ・ミルツ)

 数年前――そう呼ばれる野草をダイドー領北部、ダイドー領とその北にある領地の南部に跨がって広がる湿地帯で見つけた時、ショークリアはテンションがあがりすぎて、実際に踊り出してしまったのである。


 だがそれも仕方のないことだ。

 泥小麦(ダモ・ミルツ)の正体は、米に似た植物だったのだから。


 日本人の魂を持つショークリアとしては小躍りせずにはいられない。


 とはいえ泥小麦(ダモ・ミルツ)は、餅米に近い品種だったようで、炊いてもショークリアが求めていたような味にはならなかった。それでも餅にすれば美味しく食べられたのは嬉しかった。


 だが、泥小麦(ダモ・ミルツ)の真骨頂は、米粉にした時にあった。

 この米――ただ挽いて粉にしただけなのに、白玉粉のような性質を持っていたのである。


 想定とは違ったものの、団子のような日本の味を再現するにはちょうどよく、我ながら良い発見をしたものだと、ショークリアは満足している。


 その後調べているうちに、(エシル)という植物が存在しているのだと知ったショークリアは、泥小麦(ダモ・ミルツ)は、小麦(ミルツ)ではなく、(エシル)という植物であると説明。


 キーチン領、ダイドー領、そしてダイドー領の北側に隣接し、ダイドー領と共に湿地帯の一部を管理するライフカシエ領とで、泥小麦の情報と食べ方を共有してある。

 ショークリア的には単に、雑草に近い扱いだったとはいえ貰っていることには代わりないので、お礼を兼ねての気軽なものだったのだが、ライフカシエ領領主は割と重要な情報をタダで貰ってしまったと重く受け止めている。


 以降、ライフカシエ領との仲が良くなったのだと、父から教えられて褒められたのだが、ショークリア的には褒められた理由がよくわからなかった。


 閑話休題(それはさておき)


「とにかく、二人とも食べるのが勿体ないっていうのは分かるけど、箱にも入れずに長時間空気にさらしていると、固くなって風味が落ちちゃうから、早く食べて欲しいかな」


 ショークリアに促され、フォガードとマスカフォネは顔を見合わせる。


「勿体ないが、食べ物である以上は仕方がないな」

「そうですね。見事な細工ですが、食べ物ですしね」


 まるで覚悟を決めるようにうなずき合う姿に、ショークリアは思わずふふっと笑ってしまう。


 二人が意を決して小さなフォークを手にしたのを確認したところで、ショークリアは一足先に、ネリキリにフォークを滑らせた。


 スッとフォークの側面がネリキリに埋まっていく。

 そのままフォークを通した部分を切り取るように手前へと動かす。

 そうして、小さく切り取られたネリキリに改めてフォークを刺し、片手を添えながら口へと運んだ。


 滑らかな口当たりとともに、ゆっくりととろけるように、上品な甘みと豆の風味が口に広がっていく。

 とろけながらも、つなぎに使われている丸米(エドルグ・エシル)の粉の効果で、不思議な歯ごたえのようなコシのようなものを感じる。

 やがてそのコシもとろけていき、上品な甘さと華やかにも感じる丸米(エドルグ・エシル)の仄かな香りが舌に残った。


 舌の上に残る香りを楽しみながらも、ショークリアは一緒に出された渋みと苦みをやや強くブレンドした花茶を飲む。


 緑茶とは異なる味だが、嫌みのない渋みと苦みが舌に残る風味を洗い流し、すっきりと芳しい余韻だけを残して消えていった。


(さすがシャッハ。

 ネリキリに合う、渋みと苦みが強めなお茶ってリクエストに、バッチシ答えたブレンドだぜ)


 王都に来る前からネリキリの試作はしていた。

 その際に、シャッハに頼んで、ネリキリに合うお茶の配合を頼んでいたのだ。


 彼女はショークリアの頼みに、完璧に応えてくれたと言えるだろう。


 この花茶のおかげで、上品ながらも味としては単調になりやすいネリキリを、飽きることなく最後まで食べられる。


(さて、お袋たちの反応は……っと)


 ネリキリとお茶の味は、自分としては満足いくものだったのだが、両親の反応は果たして――





 マスカフォネはショークリアが食べるのを確認してから、同じように切り分け口に運ぶ。


 白餡というクリームに丸米(エドルグ・エシル)の粉を混ぜたと言っていたが、確かにクリームにしてはやや堅く感じる不思議な手応えがある。


 切り分けた部分にフォークを刺して持ち上げられる程度には、クリームでありながらもしっかりしているようだ。


 手を添えながら、口に運ぶ。


 ねっとりとしていながら滑らかな口当たり。

 舌の上でその感触を楽しんでいると、優しく上品な甘みがじんわりと広がっていく。


(甘みに対して、上品と感じる風味があるなんて……!)


 今までもショークリアが様々な甘味を発明し、その都度驚かされてきたが、今回のが一番驚いたかもしれない。


 こんな上品な甘みを味わってしまったならば、この王都で流行っている砂糖菓子など、ゴテゴテに着飾っただけの趣味の悪い成金服にしか感じなくなってしまうではないか。


(いえ……実際、成金趣味と変わらないのかもしれませんね。

 砂糖は塩に比べれば稀少だからこそ、大量に使うコトが見栄に繋がっているのですから)


 だが、このネリキリという菓子はそんな見栄の張り方など時代遅れだと言うかのようだ。


 まるで細工のような美しい姿。

 美しい芸術を崩して口に運ぶという贅沢。


 食べれば滑らかな口当たりとともに品位あるとろけかたをしていき、そして広がっていく上品な甘み。

 

 最後に、渋みと苦みがやや強い茶を口にすれば、無自覚にほぅと息が漏れるほどに心が落ち着く。


 そうして一息つけば、舌の上の甘みは消えているので、もう一口食べたくなるのだ。


(上品な味だけれど、これだけ食べ続けるのはやや単調に感じそうね。

 でも、この花茶のおかげで最後まで心地よく食べられるなんて、よく考えられているわ)


 本当に、ショークリアは、何をするにもそれを享受する側のことを考えているようだ。

 横を見ればフォガードもまた同じように至福に満ちた顔で、ネリキリとお茶を交互に口にしている。


「これとは異なる細工の予定ですけれど……。

 王女殿下へとお渡しするものは、この菓子でも大丈夫でしょうか?」

「保存方法や、楽しみ方……そして毒味の仕方。それらの解決手段は用意してあるのですか?」

「もちろんです」


 力強くうなずくショークリアに、マスカフォネは大きくうなずき返した。


「ならば問題はないでしょう。

 この味でしたら、失礼はないはずです」

「王族以外の口に入った時が面倒そうだがなぁ」


 そのやりとりの横で、余計なことを口にするフォガードをマスカフォネは小さく睨みつける。

 だが、その懸念は理解できるので、マスカフォネは心の中で嘆息するのだった。



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