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下拵えってのは大事だしな

日間連続ランクイン&週間ランクイン継続中٩( 'ω' )وありがとうございます!

でも、そろそろストック的にも時間的にも余力がなくなってまいりました。


「私兵ッ!? お嬢様、何を考えているのですか……ッ!?」


 ミローナが慌ててショークリアに訊ねる。

 それはもう胸ぐらでも掴むんじゃないかという勢いで。もちろん、興奮してても分別のあるミローナだ。勢いがあるだけで、実際にするわけではないのだが。


「戦士団はどうしても領地の所有だから。あまり個人的な用事に使うワケにはいかないでしょう?

 今回みたいな状況の時に、密偵とか欲しいじゃない」

「密偵のマネゴトなら私でも……」

「それが出来る腕前を持っているのは知ってるけど、ミローナは本職は従者でしょ? 欲しい人材とはちょっと違うの」


 ショークリアの考えにおいて、欲しいのは(しがらみ)の少ない存在だ。

 そして、貴族ではない方が理想である。


「案としては悪くありませんが、彼らでそれが勤まるのですか?」

「彼らに関してはただの方便かなぁ……もちろん、最低限の仕事をしてもらうけどね。

 欲しいのはどちらかというと、私の私兵であるという事実の方だし」


 だからこその、仕事次第では長期雇用するという話だ。

 彼らが無事に生き延びれた上で、それなりに役に立ったと胸を張って両親や従者たちへ説明が可能ならば、私兵として長期雇用しても良いというだけのこと。


「あっはっはっはっはっは!

 面白ぇ嬢ちゃんだぁ。ようはアレだろ? 元々欲しかった私兵団設立の足がかりと、誘拐なんて方法でケンカ売ってきた奴へ反撃する為の下準備も兼ねてるワケだぁ!」

「ええ、ドンさん。正解です」


 ショークリアは腕を組み、不敵に笑いながらうなずく。


「ドンさんの言うところの甘ちゃんとしての本音は、無知をつけ込まれ利用された挙げ句に黒の神の元へ送られるようなコトを見て見ぬフリしたくない。

 貴族としての本音は、やられっぱなしも(シャク)なんで向こうの思惑を全部蹴っ飛ばす一環として、彼らを雇おうかな、と。

 痛くなくとも反撃しないと調子づく貴族が多いから、ここらで少し見せしめが必要かなって」


 極端な話をしてしまえば、彼らが生きてさえいれば、逆襲のネタに使える。なので、逆襲完了まで生きていてくれればいい。


 本心としては『赤の他人であっても死んで欲しいなどとは思わない』なのだが、そうも言ってられないのがこの世界であることを、ショークリアは理解しているのだ。


「いいじゃねぇのぉ。気に入ったぜぇ、ショコラ嬢ちゃん。

 自身の甘ちゃん部分をちゃんと理解してて、甘ちゃんとしての目的を果たす為に、貴族としての理屈を通す。やっぱ貴族はこうじゃねぇとな」


 心底楽しそうにドンは笑う。

 人より前に出たお腹を何度も叩きながら大笑いしている。


「おい、オマエら。

 依頼を果たしたところで良くて報酬踏み倒し、悪くて殺されるだけの依頼人なんかより、依頼の成功失敗問わずちゃんと最低限の金を払ってくれる嬢ちゃんについた方が絶対良いと思うぞぉ」


 ひとしきり笑い終えたあと、細目を緩くし、口を横に伸ばすような、愛嬌ある笑顔でそう告げた。

 直後、目を開きその眼光で傭兵たちを射抜きながら、鋭く低い声で付け加えた。


「依頼人の貴族に潰されるか、嬢ちゃんに飼われるか二つに一つだ。とっとと選べよぉ。

 それ以外の選択肢を選べるほど、オマエらの人生に余裕はねぇぞぉ」


 こうして、傭兵くずれの五人組は、ショークリアと契約を結ぶことを選んだ。

 ……ちゃんと理解して契約を結んでくれたかどうかがイマイチ判断付かないのだが。


「さて、さっそくお仕事を――と言いたいところだけど、しばらくは待機でお願い。

 とはいえ、お屋敷には連れていけないし、その辺りをほっつき歩かれても困るから……」


 ショークリアは少し考えて、ドンを見た。


(よし、ドンさんに匿ってもらうか。

 多少の金を出せば、ヘタな奴より信用できそうだし)


 内心で一つうなずき、ショークリアはドンへと訊ねる。


「ドンさん、お金払いますのでこの人たちの面倒を数日ほど見てくれませんか?」

「そりゃまぁ構わねぇけどぉ……どういう扱いをすればいい?」

「後日の仕事に支障がでない程度になら、好きに扱っていいです」


(こういう言い方しとけば、使っちゃいけないとは言われてねぇ――みたいな理由で、ひどいボロボロの状態にされたりするってのはなくなるはずだよな)


 そんなショークリアの胸中とは裏腹に――


「ほう」


 ――ドンの糸目の片側が軽く開いた。


 ただそれだけで、ドンの迫力が増す。


(やべぇ、何か疑われてんのか……?

 品定めされている気分だが、まぁ押し切ってみるか)


 その眼差しに飲まれないように、ショークリアは優雅に微笑んだまま告げる。


「デビュタントが終わってから迎えに来ますのでよろしくお願いします」

「おれに金以外の利点は何かないかぁ?」

「うーん……そうですねぇ……」


 お金以外の利点――それがパッと出てこない。

 なので、逆に問いかけてみることにした。


「思いつかないので逆に問わせて欲しいんですが……。

 ドンさんにとって、お金以外の利って何が欲しいんですか?」

「ん、そうだなぁ……」


 ショークリアの言葉に、ドンは少し悩んでから、答えた。


「土地」


 ドン本人としても半分冗談のつもりだった。

 だが、ショークリアは真面目に受け止めて考え始める。


(土地、土地かぁ……いや待てよ。案外これはチャンスじゃねぇか?)


 中央王都を牛耳る裏社会の有名人を、味方に引き込めるかもしれない。

 いや、味方でなくても構わない。ある程度、互いに融通しあえる関係を構築できるのは美味しいはずだ。


 それに――前々から領内に幻夢館の設置を考えていたものの、設置できずにいるのが現状だ。

 男性戦士などは数日の休みを取って、隣のダイドー領にある幻夢館へと遊びにいっているらしいので、それの解消を出来る可能性がある。


(ドンがいりゃ、長年頭を抱えていた領地への幻夢館の誘致も上手くいく気がしてくるぜ)


 ついでに必要とあれば私兵の求人募集の窓口になっても欲しい。


(いやまぁ相当わがままなコト考えてんな、オレ)


 ともあれ、ここは交渉の仕方次第だろう。


「さすがに土地は私の一存でどうにかできるものではありません。

 ですが――父に掛け合ってみるくらいのコトは出来ますね」

「え? マジ? 割と冗談だったんだけどぉ」

「うちの領地、幻夢街がないんですよ。

 なのでいずれは――と思ってはいますが、色々な問題があるでしょう?」

「まぁそうだよなぁ……ただでさえ問題の多い業種だしなぁ」

「ドンさんに一区画与えると、うまく行きそうだな、と」

「こっちの要望を叶えつつ、自身の目的の為に使うかぁ……いやぁやっぱ面白いねぇショコラちゃんってば」


 またしても楽しそうに笑うドン。

 何が彼のツボに入ったのかは分からないが、ショークリアは相当気に入られたのだろうか。


「いいぜぇ……預かってやる。

 報酬は前金で頼むよぉ。ここで50万出せるかぁ?」


 ドンの要求する金額に、傭兵たちは顎が外れるんじゃないかと心配になるくらいに大きな口を開ける。


 だが、ショークリアは大して気にせず、ミローナとカロマも気にした様子はない。


「お嬢様、旦那様へのご説明はご自身でお願いします」

「もちろん」

「お嬢様は本当に突拍子もない行動を取るから困ります」

「カロマたちにはいつも迷惑かけちゃってゴメンね」


 申し訳ないのは本当だし、謝罪も本心ながら、どうせすぐにまたやらかすことは二人も覚悟していることだ。


「ミローナ」

「はい」


 名を呼ばれて、ミローナはペンと二枚の紙を取り出した。

 ショークリアはそれぞれに金額と署名を記して、ドンへと手渡す。


「現金の手持ちがないので、こちらで失礼しますね……って、これで大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。

 こう見えて表の顔はよろず屋さんだから、商業ギルドの書面契約は理解してるよぉ」


 ショークリアから書面を受け取ったドンは、それぞれに自分の署名を印した。

 それを横で見ていたショークリアは、その名前に首を傾げる。


「ピカオ・タール?」

「そ。おれの表の名前。表で会う時はこの呼び方でよろしく~」


 言いながら渡された一枚を受け取った。


「帰り道に商業ギルドに提出してきますので、明日には受け取れるかと」

「りょーかいりょーかい。即断即決。気持ちいいお嬢ちゃんだぁ」


 あれよあれよと進んでいく状況に戸惑っている傭兵たち。

 そんな傭兵たちの様子に構わず、ショークリアは訊ねる。


「貴方たち。リーダーは誰?」

「お、オレだ」


 そう言って名乗りを上げたのは、これまでも何度か前に出て喋っていた赤髪の男だった。


「名前は?」

「レドだ」

「覚えたわ。レド。

 四日後のお昼。ここへ迎えに来るから」 


 五人全員の名前を覚えきれる気がしないので、ショークリアはとりあえずリーダーの顔と名前だけは覚えることにする。


「それじゃあドンさん、よろしくお願いしますね」

「おう。四日後も良い話が出来るコトを期待しているよぉ」

「では四日後に」


 丁寧に一礼して、ショークリアは(きびす)を返す。


(いやぁ……ドンさんが、マフィアなのに良い人で助かった。

 これなら五人が不必要なケガとかなしに、四日後を迎えられるだろ)


 一拍置いて、ミローナとカロマも一礼して、ショークリアの後ろについていく。




 三人の背中を見送ってから、ドンは傭兵たちを見た。


「さて、どーするかねぇ……。

 四日後に使える状態を保ってなきゃならないなら、使い潰すワケにもいかねぇしなぁ……」


 そこで、ハタリとドンは動きを止めた。

 その様子に、傭兵たちは訝しむ。


「あ~~~~~~ッ!? やられたッ! こりゃ土地のおまけが付かないんなら、50万じゃ割に合わねぇぞぉッ!!」


 突如叫ぶドンに引き気味の傭兵たち。

 その姿を見て、ドンは脅かしたことを詫びた。


「悪い悪い。一杯食わされたもんだからなぁ……いやぁ(したた)かな嬢ちゃんだ」


 忌々しげな口調ながら、その表情は楽しそうだ。


 次の仕事に支障がなければどう扱っても良い――そうショークリアは言っていた。


 だが、この傭兵たち。

 そもそも、基礎能力が嬢ちゃんの求める数値に達していないのだ。


 つまり、元々彼らを雇った貴族の目から彼らを隠すだけでなく、ショークリアが迎えに来る四日後までに、使えるようにしておかなければならないと言うことだ。


 使えるようにならなかった場合、仕事に支障が出る扱いだったと、ショークリアはドンにイチャモンを付けることができてしまう条件が整っていた。


「おれが迂闊だったとは言え、引き受けちまった以上はちゃんとやりますかねぇ……。

 ショコラちゃんは信用できる。なら、こっちも信用できるって思って貰えりゃ、今後も良きおつきあいができそうだしなぁ」


 そうして、ドンは一人反省会を終えると、改めて傭兵たちに向き直る。


「さて。オマエら。死にたくなけりゃ必死で勉強する以外に道のない地獄のはじまりだぁ。

 ショコラちゃん的には、無償でオマエらを助けたかったみたいだが、それはショコラちゃんの立場上、その周囲が許さない。だからこそ、周囲を説得する為の材料を即興で揃えてみせたワケだぁ。

 それは理解してるか? オマエらのような馬の骨の為に、おれみたいなヤバい奴に即決で50万支払ってまで見せたんだぞぉ。

 オマエらは、二束三文以下の馬の骨から、その50万を支払っただけの価値がある存在にならなきゃいけねぇワケだぁ」


 ショークリアたちには見せなかった――控えめに言えば人の悪い……直球で言えば大層な悪人顔の――笑顔でそう告げて見せるドンに、傭兵たちの反応は悪い。


 その反応の悪さに、ドンは小さく舌打ちをしてから歩き出す。


「ついて来いッ! 死にたくなければチンタラしてんなッ! いい加減、オマエらは自分らに選択肢も後もないんだって自覚しろぉッ!

 別にオマエらがおれの言うコト聞かずに好き勝手動いて勝手におっ()んじまいました――って嬢ちゃんに報告してやってもいいんだぞぉッ!」


 声と眼光に魔力(カラー)を乗せて、威圧感たっぷりに言い放つと、彼らはようやく動き出す。


(ったく、大丈夫かぁ……コイツら、まじで……。

 50万で体よく押しつけられた気がしてきたぞぉ……)


 ビビってはいるが、相変わらずよく分かってなさそうな顔でついてくる五人組に、ドンは小さく嘆息するのだった。



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