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相当やべぇ野郎みてぇだ

日間だけでなく週間にも入っているようです٩( 'ω' )وみなさまありがとうございますッ!


「んで? オマエら、どうするの?」


 完全に顔面を蒼白させはじめた傭兵たちに、背が小さくて太った男は、その糸目を開き、ショークリアよりも鋭い眼光を向けながら、そう告げる。


 その言葉に、傭兵たちは答えない。

 どちらかというと、答えようがないのだろう。


「これだから貴族からの直接依頼(ライブクエスト)なんて受けるモンじゃないのですよね」

「だよなー。おれもそう思うぜぇ。

 何せ大半の中央貴族は、傭兵や何でも屋(ショルディナー)なんて使い捨て。クズへの報酬なんて踏み倒して問題ないって考えてるからなぁ」


 固まってしまった傭兵たちへ、カロマが呆れたように口にすれば、背が小さくて太った男も、鋭い眼差しを愛嬌ある糸目に戻して同意する。


「あ。名乗り忘れてた。

 おれ、ドン・スピルノーヌ。よろしく~」


 瞬間、カロマが驚愕に目を見開いた。


「ドン……スピルノーヌッ!? 騙りじゃなくて?」

「えっと、カロマ?」


 あまりの驚きように、ショークリアが不思議そうに声をかけると、カロマは小さく頭を振って、彼を――ドン・スピルノーヌと名乗る男をまじまじと見つめた。


「もしかして、裏貴族のドン?」

「ああ、そう呼ぶ連中もいるよなぁ。

 まぁ裏貴族なんて言われてるが、ただ悪党どもの元締めだぞぉ」


 あっはっは――とあっけらかんとした笑いとともに、ドンはカロマの問いを肯定する。


「有名な人なの?」

「はい。中央王都の影の部分、日の光の当たらない社会を牛耳っているとまで言われている男です」

「ま、影を全部ってワケじゃねーよ? さすがにそれはおれにも無理だからさぁ」


 のんきな調子で返してくるが、ショークリアは胸中で顔をひきつらせていた。


(思ってた以上にやべぇ大物だった……)


 よもやマフィアのボスのような輩がこんな場所で乱入してくるとは、予想はできない事態だ。


「そのような方がどうして、この場に?」


 同じように疑問に思ったらしいミローナが踏み込んでいく。

 それに、ドンは気楽な調子のまま返事をした。


「ん~……なりゆき?

 散歩してたら、嬢ちゃんたちを見かけてさぁ……こっそり覗いてみたら、コイツらのどうしようもなさ? みたいなの感じ取ったからなぁ。

 何せほら、嬢ちゃんたちに多少理解あっても、庶民に伝わるストレートな物言いってのは、苦手でしょ貴族って。そう思ってさぁ」

「貴族にかかわり合いになりたくないのでは?」

「そこはそれだな。嬢ちゃんたちはマシな貴族だと判断しただけだよぉ」


 その様子に嘘はなさそうだ。

 だが、本当のことだけ――というわけでもなさそうだが。


「とまぁ雑談は置いておいて、そろそろ正気に戻ったか?」


 こちらとのやりとりを楽しむような先までの明るく高めの声とは打って変わって、鋭く低い声で、傭兵たちに問う。


「んで、どーするか決まったか、オマエら?」


 ドンとて彼らが答えを出せないことなど分かっているはずだ。

 それでも、敢えて叱責するように声を掛けるのは、彼らに自身のやらかしを理解させる為、なのだろう。


(まぁ――好意的に解釈すれば、だけどな)


 実際、ドンに何か思惑があったとしても、それを読み切れてない時点で、こちらとしては手を打てない。


「オレたちは、どうすればいい?」

「ンなモンおれが知るか。テメェのケツくれぇテメェで拭けよぉ。

 おれも嬢ちゃんたちも、テメェらのケツ拭いてやる義理も義務も皆無だろうがぁ」


 にべもない。

 だが、それも当たり前だ。

 ドンの言うとおり、彼らの完全な自業自得である。


(んー……とはいえ、とはいえなぁ……。

 こいつらが無知だったってのもあるけど、だからって死んで良いのかって言われるとなぁ……)


 こういう部分だけは、前世の日本人の感性が抜けないようだ――と、ショークリアは胸中で苦笑した。

 しかし彼らに救いの手を差し伸べるにしても、この場にいるカロマ、ミローナ、そしてドンが納得しなければ、却下されることだろう。


「ショコラ。ドンさんの言うとおり自業自得。そんな顔する必要はないからね」


 ミローナがこちらを見ながら、従者ではなく友人の顔で告げる。

 どうやら考えていることが顔に出ているらしい。


「ふむふむ、お嬢ちゃんはショコラちゃんって言うのか。

 ショコラちゃんってさぁ、貴族には勿体ない甘ちゃん系? おれはそういう甘ちゃんって嫌いじゃないけどさぁ、コイツらを生かしたいなら、そこの従者の二人や家の人たちを納得させる説得力ないと難しいんじゃないのぉ?」


 諭すような口調の中に、明らかにこちらを試すような色が混ざっている。

 甘ちゃんでいたいなら、甘ちゃんであり続ける為の芯を見せてみろ――と、そう問われている気がした。


 裏社会の人間としても、将来は人を動かす貴族になりうる少女の在り方というのは気になっているのだろう。

 その甘ちゃんのせいで自分たちが迷惑を被る可能性というのは、大いにありえるのだから。


(言い方は悪ぃが、コイツらを生かしておく為の利用価値を見いだせればいいワケだよな)


 ただ死んでほしくないという感情だけで、両親も従者のみんなも納得はしないだろう。

 何せ彼らは知らなかったとはいえショークリアの将来を奪おうとしたのだから。


(利用価値、利用価値か……。

 コイツらを生かした上で、何か利用する方法は……)


 そこで、ショークリアの脳裏にふと閃くものがあった。


「ねぇ貴方たち、依頼の報酬はいくらだったの?」

「お嬢様?」


 訝しむカロマを手で制して、ショークリアは彼らを真っ直ぐに見る。


「答えておいた方が無難だぜ?

 答えなければ嬢ちゃんの思いつきは無かったコトになるだけだぁ。

 答えれば嬢ちゃんの思いつきがオマエらを救うかもしれないワケだからさぁ」


 迷う傭兵たちに、ドンは投げやりに告げる。

 むしろ、ここで迷う理由なんてないだろ――と言いたげにすら見える。


「オマエらの依頼人への義理立て精神は買うけどさぁ……義理立てする価値がある依頼人なワケ?」


 実際のところ、それである。


 誘拐された貴族の婦女子がどういう扱いをされるかというのを分かっていて、誘拐を依頼するような貴族が真っ当なわけがないのだと、彼らが気づけるかどうかが問題だ。


 五人は少し話し合いのようなことをしたあとで、リーダーらしき赤髪の男が一歩前に出てきた。


「前金で10万トゥード。成功報酬で追加10万だ」


 その金額に、ドンを含むショークリアたち四人は思わず呆れた顔を浮かべる。

 背後に控える仲間たちが破格だろう――とドヤ顔で言っているが、確かに破格である。破格の安さ……ではあるが。


「ドン様。参考としてお聞きしたいのですが、貴方でしたらいかほどでお引き受けされますか?」


 ミローナの問いにドンは少し逡巡してから、答えを返す。


「そうだなぁ……前で100。成功で50?

 まぁおれ単独ならソレだけど……部下や仲間にやらせるコト前提になると、それぞれ倍額ぐらいかなぁ」

「やっすッ!? たった150トゥードで引き受けるのッ!?」

「単位は万に決まってんでしょうが」

「えええええええええッ!?」


 阿呆な言葉を挟んできた緑髪の傭兵に、カロマが即座にツッコミを入れると、彼らは驚愕の声をあげた。


「むしろ150でも安くない?」


 そこへ思わずショークリアが漏らすと、ドンも横でうなずいた。


「まぁなぁ……。

 そもそも貴族の誘拐なんていくら積まれても割に合わないしなぁ……。

 どうしてもやらなきゃならないコト前提ならって場合の最低が150ってだけだよぉ。

 ショコラ嬢ちゃんの誘拐ってんなら、その倍でも足りないくらいだ。

 ゼロを一つ増やしてくれるなら……まぁ、失敗前提の興味本位で依頼を受けてもいいかなぁって感じぃ?」


 細い双眸の片方だけをわずかに開き、ショークリアを見ながらドンが答える。

 どうやらこちらのことを高めに評価してくれているようである。


「ドンさん、それはどういう……」

「オマエら……まさか、ショコラ嬢ちゃんのヤバさに気づいてないのぉ?」


 そもそも腕前の差を感じ取れるのであれば、ショークリアに仕掛けてくるようなことはしないだろう。

 もっとも、仕掛けずに依頼を断ろうとすれば処断されただろうから、生き延びるという点だけを見れば、彼らは実力差を計れなかったからこそ、今生き延びているとも言えるのだが。


「時々いるんだよなぁ……やばい仕事に手を出す前まで、どういう生計の立て方してたのか分からない何でも屋(ショルディナー)や傭兵がさぁ……」


 額に指を当てて嘆息するドン。

 その様子に、ますます傭兵たちの顔が青くなっていく。


「何はともあれ、よ」


 話が脱線していきそうなので、ショークリアは軽く手を叩いて意識を自分に向けさせる。


「一人辺り15万。前金で10。依頼完了で5。

 この金額で貴方たちを雇うわ。仕事の内容次第では、月に7万を月末払いで、長期的に雇うコトも視野にいれてあげる。

 私からの直接依頼よ。受けるかどうかの判断はお任せするわ」

「……依頼内容は?」

「お? ちゃんと聞き返したなぁ……偉い偉い」


 茶化すようなドンはおいておいて、ショークリアはニヤリと笑い、その答えを口にする。


「――私の子飼いの私兵よ」


 その言葉に、ミローナとカロマが思い切り半眼になったことをショークリアは心の中で盛大に冷や汗をかくのだった。


 

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