王都を歩いて回ろうぜッ!
昨日も書いた通り、余力があるので本日も更新です٩( 'ω' )و
お読み頂きありがとうございます。
読んだ上で評価・ブクマ等してくれた方、重ねてありがとうございます٩( 'ω' )و
今日のショークリアの格好は、富豪商人の娘といった出で立ちだ。
貴族のように華美すぎず、それでも質と仕立ての良い服を身に纏っている。
加えて、この世界では珍しいミニスカートをはいていた。
短いスカートなど、この世界でははしたないとされる。だが、ショークリアはスカートの下にズボンをはくことで、それを解消した。
まぁ考え方としては女性戦士団の制服と同じだ。
それをもっとお洒落に、それでいて動きやすいように仕立てたものである。
「確かに、一般的な視点で見るならば、ズボンは男の物であり女がはくなどあり得ないとされるでしょうね。
でもね。貴族や富豪の娘が、堂々と着こなしている場合は少しばかり意味が変わるんじゃないかな?」
ショークリアのその言葉に、ミローナとカロマも思わず唸った。
富豪や貴族が――『好んで着てます。お洒落でしょう?』と主張するかのように、着こなしながら街を歩けば、それは流行の最先端に他ならない。
例えそれが流行なんてしていなくとも、なにも知らない庶民から見れば、新しいお洒落の一つなのだと勘違いするのだ。
そして、このお洒落が庶民たちに流行ってくれると喜ぶ人がいる。
それが今回のお忍び服を提供してくれた商人である。
ショークリアの提案を聞いた時、面白そうだと飛びついてくれたので、今後とも贔屓したいくらいだ。
ちなみに、そんな服装の上から、剣を装備している。
剣だけでなく、最低限 何でも屋か傭兵に見えるような武装をしているのだ。
そんなショークリアの姿を見て、カロマは驚いたような感心したような声を上げる。
「動き易さとお洒落の両立――可能だったのですね」
それは、戦う仕事をしている女性たちの理想の一つでもある。
だからだろう。
カロマも食いついてきた。
「お嬢様。是非アタシにも、そういう格好をさせて頂けませんか?」
そうして、カロマ用の衣装も見繕う。
ショークリアと似たような格好でありながら、護衛らしさを強く出す為に、肘当てや膝当てなど武装的な面を強めにだしてみた。
「お二人がそういう格好をされるのであれば、私も似たような格好をした方が良いですよね」
こうなると、腹を括らざるえなかったのがミローナである。
彼女も従者服から、二人と同じような格好へと着替えた。
ただミローナの戦闘スタイルから、より動き易さを重視したものとなったのだった。
そうして、三人は中央王都の商業街を歩いている。
平民街へと近づけば近づくほど屋台などの出店が増えていく為、活気が増えて騒がしくなっていく。
「むぅ……」
そんな中で、屋台で串焼き肉をかってかじったショークリアが思わずうめく。
「塩は半分でって言ったのにこんな塩辛いなんて……」
「王都では減塩料理は流行ってませんからね」
半分でも多いくらいの塩気にうんざりしながらも、買ったものは責任をとらないと――と、かじり付く。
「でもやっぱり王都というべきかしら。屋台とはいえお肉の質は良いわ」
「国中の様々なものがここに集まってるしね」
「城下である以上は、質が良く、流行の先端も集まるワケですから」
表向きは――とカロマが付け加えたことに、ショークリアは苦笑する。
カロマからしてみれば、キーチン領とダイドー領の方が、世間より進んだ動きを見せているのだ。
もっとも、それを認めたくない者たちや、そもそも理解できない者たちからは、バカな領地扱いされているのだが。
雑談をしながら周囲を見ていると、ショークリアはふと目に付いたそれに、目を眇めた。
「お嬢様?」
「どうしたの、ショコラ?」
目を眇めて何かを見たあと、続けて他のお店を見てはまた目を眇め、思案顔になる。
ややして、ショークリアは声を抑えながら、二人に告げた。
「やっぱり以前来た時よりお塩の値段が上がってるわね」
すぐにどうこうなるようなものではなさそうだが、数年前から噂されていた塩の値段が日に日に上がっていくというのは本当のようだ。
「これは帰ったらお父様に報告ね」
うむうむ――と一人うなずいていると、カロマが近づいてきて耳打ちをする。
「お嬢様、ガラの悪そうな男たちがこちらを見ています」
「か弱そうな女性三人組を襲おうってところかしら?」
ショークリアがカロマに訊ねると、ミローナが違うようですと返答をしてきた。
「そういう風を装っているようですが、明確な目的のある動きをしています」
ふむ――と、小さくうなずき、ショークリアはカロマに訊いた。
「この辺りで、人気が少なくそれでいて大立ち回りしやすい場所ってある?」
「そうですね……」
カロマは少し思案し、視線を巡らせる。
「少し先にあります緑色の看板を出している食事処……わかりますか?」
「ええ」
「あのお店より先にある最初の横道から裏通りへと入ってください」
「りょーかい。こういう時、土地勘のある人と一緒だと助かるわ」
ミローナと視線を交わしてうなずき会うと、ショークリアは歩き出す。
それに一歩下がって、ミローナとカロマも歩き出した。
それからショークリアの案内に従って路地裏を歩いていくと、お世辞にも綺麗とは言えない、いかがわしい雰囲気の店が建ち並ぶ場所にでた。
だが、そのいかがわしい雰囲気の店の半数以上はやっているように見えない。
「幻夢街?」
思わずショークリアが訊ねると、カロマは軽く首を横に振る。
「――だった場所、ですかね。
王都清浄の一環として、国が主導で叩き潰した場所です。
噂では気に入ってた幻娼の娘に手を噛まれた上級貴族の腹いせだったって話ですが」
貴族の腹いせで一区画が潰されたのかと思うと、なんとも言えない気分になる。
「その割には看板が出てる場所がいくつかあるように見受けられますけど?」
「誰もが近づかなくなった場所というのは、かえって使いやすいものですからね」
誰が――とは、カロマも言わない。
だが、ショークリアもミローナも、その含みを持った言葉の意味を理解できないほどバカではない。
(この世界にも裏社会なんてもんはあるワケだ)
いわゆるマフィア。あるいはヤクザ。
そういう存在が、この場所を利用し始めたのだろう。
そうなれば、そういう客相手の飲食店や幻夢館などが開店するのも不思議ではない。
どれもこれも、真っ当な人間が経営しているとは思えないが。
それに幻夢館以外にも治療院らしきものもあるようだ。もっとも、経営者は闇医者の類だろう。
そんな表の華やかさからかけ離れた裏の街をカロマの案内で歩いていくと、かつては憩いの場所だっただろう公園にでる。
もっとも、今は荒れ果てた空き地のようなものになっているようだ。
「さて、わざわざ誘ってあげたんだから、顔を出して欲しいのだけど」
公園の中央付近でくるりと向き直り、仁王立ちするようにショークリアは告げる。
すると、人相の悪い男たちが五人ほど姿を見せた。
赤い髪の男を先頭に、それぞれ髪の色が青、緑、黒、黄とカラフルだ。
それを見て、ショークリアは胸中で思わず噴き出した。
(チンピラ戦隊ヨウヘイジャー)
そんなフレーズが脳裏に過ぎったものの、誰にも共有できなさそうな笑いなのが、残念だった。