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無事に中央王都に到着だ

連日日間に入り٩( 'ω' )وありがとうございます

せっかくなので、余力がある時は、可能な限り更新していこうかなと


 中央王都には一応名前がある。その名はイテス・ラーテンセ。中央王都の名の方が通りが良いので、あまり口にされることのない名前ではあるのだが。


 そんな中央王都イテス・ラーテンセは、王城を中心に、円形に広がる都市だ。


 城の周囲を貴族街がぐるりと囲む。

 貴族街の外側には上層壁(じょうそうへき)と呼ばれる壁がぐるりと張られており、貴族街へ入るには要所要所に備え付けられた出入り口を通る必要がある。


 その外側は平民の街だ。

 平民の貧富の差も地区に表されており、貴族街に近いほど裕福な者――商人などの富豪が住んでいる。

 そして富民街と一般街の隙間のような部分には数多くの職人たちがアトリエを構えていた。

 職人街の外側となると、あとは庶民街だ。

 もっとも、その庶民街も外側に近いほどに貧しい家になっていくのだが。


 それから、庶民街の外を取り囲む大きな外壁。

 これによって、魔獣を筆頭とした外敵から街を守っている。


 最後に、外壁の外側。

 東西南北に存在する外壁門の死角になる位置に、見窄らしい建物がいくつも建ち並んでいる。

 ここは、外壁の内側に住む者たち誰もが見て見ぬフリをしている棄民街(きみんがい)と呼ばれている集落だ。


 最近、この棄民街が大きくなってきているのか、ショークリアたちが街へ入る為の北門へと向かう途中、チラチラと視界に入るようになってきていた。


 ショークリアとしては、気にならないといえば嘘になるのだが、だからといって今の自分に何か出来るわけでもないので、見て見ぬフリしかできない。


(どいつもこいつも見て見ぬフリしちまってる理由なんて、そんなモンなんだろうな……)


 自分もまた、その『どいつもこいつも』に含まれてしまうことに罪悪感のようなものを覚えつつも、今は目を逸らした。




 馬車は北門を抜けて街の中へと入っていく。


 ニーダング王国の貴族は基本的に中央王都に家を持つ。

 それは各地の領主や王都街での仕事がメインとなっている貴族も例外ではなく、彼らは各地の本宅とは別に王都滞在用の別邸を持っているのだ。


 それはキーチン領領主のメイジャン家も同じである。


 もっとも、上層門の内側はかなりキツキツの状態となっていた。

 罪を犯し取り潰された家、跡継ぎがないまま当主が逝去し維持できなくなった家などの土地を国が回収、再配布したりしてはいるものの、減るよりも増える方が早いのが現状だ。


 特に、今代の王は、武功や成果による爵位授与を積極的にやっている為――そのおかげで優秀な人材も多いのだが――土地が足りない。


 もっと言えば、そういう爵位を与えられた者というのは、庶民上がりか、本家から見捨てられた継承権を持たない木っ端貴族。

 故にこそ、土地の配布に対しても、担当する者と、その者に意見を出せる者たちからの嫌がらせが多数盛り込まれる。


 メイジャン家の別邸の住所もまた、そんな嫌がらせの一つだ。


 キーチン領から王都へと来る場合は、どのルートを辿ろうとも一番近い門は北門だ。

 本来であれば、そういう貴族には北門に近い土地を可能な限り与えられることになる。

 だが、フォガードに与えられたのは南側の土地だ。


 それだけならまだいい。

 もっとも問題なのは、上層壁南門の近くなのだ。しかも、上層壁の外側である。


 フォガードとしてもマスカフォネとしても完全なる嫌がらせと理解している。

 だが、別にそれを問題視はしていなかった。


「改めて考えてみても、嫌がらせとしては最上の類よねぇ……」


 別邸の門をくぐり、庭を進む馬車の中で、ショークリアは苦笑する。

 それに対して、フォガードは気になどしていない顔で笑った。


「一般的にはそうだろうがな――堅苦しい貴族街より、よっぽど快適に過ごせると思わないか?」

「そこは否定しないわ。庶民街へ気軽に遊びに行けるのってラクだもの」


 元より貴族でありながらも、庶民の生活に順応できる一家だ。

 貴族としての屈辱程度などは気にもしておらず、むしろ上層門の外側にある家の利点を見いだして、利用する程度のことは当然していた。


「周囲の商人や富豪の皆さんは、良くしてくださるしね」


 平民とともに領地を盛り立てる――いや頭を下げてでも平民たちとの協力を取り付けなければ開拓できなかった土地の領主一族だ。

 その力を理解しているからこそ、別邸の周囲に住む者たちとは可能な限り友好的に接している。


 その甲斐あってか、貴族たちの多くから嫌われていても、平民たちの多くからはむしろ好かれているという立ち位置を確立していた。


 玄関の前に馬車が着き、ショークリアら三人とその護衛戦士、そして従者たちがそこへと降りる。


 別邸で仕事をしている従者たちに出迎えてもらいながら、ショークリアは母とともに別邸の自室へと向かっていった。


 その途中――


「お母様。

 デビュタントは三日後ですから、明日は観光を。明後日は準備を――という予定で構いませんか?」


 元より可能な準備は全てキーチン領にいる間にしてきた。

 マナーの勉強なども抜かりなく、鉄板と刃を仕込んだブーツも用意できている。


 デビュタントは年に四回。

 王族主催で行われる十二歳を迎えた貴族への社交界デビューを祝福し、後押しするための催しだ。

 お茶や菓子などの準備は全て、王族側がやってくれる。


「基本的にはそれで構いませんが……」


 マスカフォネはうなずいてから、少し思案した。


「今回の夏のデビュタントはトレイシア姫が主催として行われますからね……」


 今回はショークリアと同じ年頃のお姫様も参加する為、彼女がホストという形のお茶会になるはずなのだ。

 その為、お姫様ががんばってその用意をしているそうである。


「何か贈り物を持参した方がよいのでしょう?

 それも考えております。シュガールを連れてきているのですから、協力してもらうつもりです」


 そう言って笑うショークリアに、何か考えがあるのだろうと、マスカフォネがうなずく。


「わかりました。ですが実行に移す前に、説明をするのですよ」

「もちろんです」



     ○ ○ ○ ○ ○



「――以上が、此度のデビュタントの参加予定者でございます。

 トレイシア様は、どなたか気になる方はいらっしゃいますか?」


 参加者一覧を見終わった直後にしてくるその質問の意図としては、殿方についてだろう――とトレイシアは看破した上で、敢えての回答をすることにした。


 彼女はさらりと揺れる色素の薄い金の髪を手で払いながら、告げる。


「そうですね。個人的にはショークリア様かしら」

「え?」


 思わず目を丸くする従者に、トレイシアは表面上はそのままに、胸中では心底つまらなそうに嘆息する。


「あらご存じないかしら? かの英雄騎士、炎熱の貴公子にしてキーチン領を賜り見事開拓の第一歩を完遂させてみせたフォガード卿のご息女よ」


 トレイシアはフォガード卿が、多くの貴族から嫌われているのを理解した上で、目の前の従者にそれを告げて見せた。


 この従者が、こちらのご機嫌取りでしかないことを知っている。

 ご機嫌取りをして、トレイシアの意志を自分たちの都合の良い方に向けてもらいたいと思っているのも知っている。


 だからこそ、フォガード卿の話をして見せた。

 ご機嫌を取りたいのであれば彼を肯定するべきだし、自身の派閥に迎合したいのであれば、否定しなければならない。


 任務を全うするにしろ、派閥に筋を通すにしろ、自分の意志でしっかり言葉を選べるならまだマシだろう。


 美しいアメジスト色の双眸が、強い意志と知性を湛えて従者を射抜く。


「か、かの娘は――自ら剣を握り魔獣を殺すような野蛮な者だと聞き及んでおります。それどころか、魔獣の血肉を啜るような蛮人だとか」

「そう。貴方は彼女をそのように理解されているのね」


 残念だわ――と胸中で付け加える。


「事実は違うのよ。

 かの地は資源が乏しく、大地には神の加護が薄い。

 それ故に食料が乏しい以上は、食べられるものを探すしかない。

 それを領主の娘が率先して行っているだけでしょう?

 血肉を啜っているという噂も、狩った魔獣を食べる方法を模索している行いが、噂になってしまっただけ。

 領民を守る為に率先して仕事をしているだけでしょうに、お気の毒な話よね」


 わざとらしく不機嫌さを表に出しながらそう口にすれば、わかりやすいくらい目の前の従者の顔色が青くなる。


 監視の目でもあるのだろう。

 きっと、彼女は明日、病に倒れることだろう。そうしてそれを理由に別の新しい従者がくるはずだ。


 そこにトレイシアの意志など関係ない。

 ただトレイシアを都合良く利用したい者たちの手によって実行に移されることだろう。


 愚かしいと思う。

 どれだけ慣れ親しんだ従者であっても、どれだけトレイシアを理解している従者であっても、トレイシアを不機嫌にせずに立ち回るなど不可能だ。


 トレイシアも人間であり、意志がある。

 王族だからこそ感情を押し込めて立ち回れているだけであり、腹の中がどうなっているかなど、誰かが理解できるはずもない。

 ましてや、頻繁に従者が取り替えられている状況で、トレイシアを理解して従ずる者など生まれるはずがない。


(そんなコトすら分からないのね。みんな――)


 こんな時に思い出すのは、かつて母に仕えていた女性騎士だ。

 トレイシアに対しても優しくて気の利く素敵な女性だった。


 彼女の貴族としての振るまい、騎士としての立ち回りや信念に憧れているとまで言ってもいい。

 トレイシアが心を許した数少ない他人でもあった。


 そんなトレイシアが心を許した女性騎士は、女性だからという理由だけで不当に扱われ、その扱いに壊れそうなほど追いつめられていた。

 それでも母と自分の為に尽くそうとしてくれる姿は、他の騎士には感じられない『騎士らしさ』あるいは『高潔さ』のようなものを感じたほどだ。


(優秀であるコトよりも、今の在り方に迎合できる者を優遇する――そんな在り方に未来(さき)なんてないでしょうに……)


 素敵な騎士様を自分たちから奪った今の貴族たちを許さない。

 トレイシアの根底にあるのは、幼い頃に芽生えたそんな感情だった。


(キーチン領とダイドー領。

 主にこの二つの領地からは、変化を恐れず、新しい風を用いて未来(さき)に進もうとする意志を感じます)


 すでにトレイシアの兄は、学園にてキーチン領領主の長兄と友誼(ゆうぎ)を結んだと言っていた。

 その人物は噂などアテにならないほどに、良き人物であったと。


(それを聞いたらなおさらですよね。

 ショークリア様……貴女との出会い、それがとても有意義であることを是非にと、神に祈っております)


 そして願わくば――

 この鳥かごの鳥よりも自由の無い生活を一変させてくれるような人でありますように……


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