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よく運んだモンだよな

先週、更新した翌日に日間にランクインしており

昨晩更新した翌日(つまり今日)も日間にランクインしていた為、

なんか嬉しくなってしまったので更新です٩( 'ω' )و


お読み頂いた上に、ブクマ、評価をしていただきありがとう٩( 'ω' )وございます!



 ショークリアが右手で逆手持ちしている剣は、前世ではシミターやシャムシールと呼ばれていたものに似た肉厚の曲剣だ。

 彼女の戦闘スタイルを考慮した結果、ふつうの直剣よりもこちらの方が向いているとフォガードが提案した剣である。


「目視できるロームングノスは十匹だ。

 手早く片づけて先に進むぞッ!」


 フォガードが叫びながら、切り込んでいく。

 それに併せて、ショークリアも別方向のロームングノスへと駆けていく。


 走りながら剣の切っ先を地面に当て、魔力(カラー)を乗せながら勢いよく振り上げる。


虹破刃(コウハジン)ッ!」


 本来は剣を振るった時の剣圧に魔力を乗せて放つ彩技(アーツ)だ。

 その剣圧は空中を駆けていく為、剣の間合いの外の相手も攻撃できる。


 ショークリアはそれを自分に使いやすいようにアレンジしており、彼女の放つそれは、地面を這うよう駆けていく。


 だが、ロームングノスに対する効果はイマイチだ。

 もとよりグノス種の鱗は、魔力(カラー)による攻撃への抵抗力が高い。

 ショークリアはそれを理解している上で、牽制として技を放った。


 グノス種は、対魔力が高いだけでなく、そもそも鱗やトゲも堅い。その為、堅牢な防御力を持った魔獣だ。

 それを突破しうる武器や技を持たない場合、あるいは持っていたとしてもそれなりに手強い魔獣だと言えるだろう。



 もっとも、それは一般的な騎士や傭兵が戦った場合の話――




 フォガードが踏み込みながら、剣を上段に構えて振り下ろす。


紅王(コウオウ)煉獄破(レンゴクハ)ッ!」


 膨大な熱量を持った赤の魔力を、剣に乗るサイズまで圧縮。

 魔力によって灼光色に輝く刃を振り下ろせば、ロームングノスの鱗をやすやすと切り裂き、肉を焼く。


 だが、その技は振り下ろすだけでは終わらない。

 圧縮されていた赤の魔力を炎へと変えながら、流れるような横薙ぎを繰り出す。


 剣の軌跡をなぞるように炎が放たれ、切り裂かれたグノスを吹き飛ばした。

 それはまるで指向性を持った爆発だ。炸裂した爆炎は近くにいた別のグノスも巻き込んでひっくり返す。


 鱗を切り裂かれ肉を露出していたグノスは、その傷口から内部を焼かれて息絶える。

 炎に巻き込まれたグノスは、鱗は持ち前の抵抗力で軽い火傷ですんだようだが、目や口の中までは防げなかったのだろう。


 元々黒かった両目は、炭となりより黒く、口の中も焼けただれ、口から煙を漏らしながらピクピクと痙攣している。もはや生きているのが奇跡に近い姿だ。やがて、動かなくなるだろう。


「さぁ、次だッ!」


 そんな二匹のロームングノスを一瞥してから、フォガードは別の個体へと視線を向けた。





 虹破刃で、自分へと意識を向けさせたショークリアは、前足を振り上げながら飛びかかってくるロームングノスを真っ直ぐに見据えていた。


 この手の魔獣の下腹は、鱗の密度が薄く、脆い傾向にある。

 だからこそ、ショークリアは飛びかかってくるロームングノスに対して、大きく腰を捻りつつ、身体を縮めた。


 そして……


穹爪(キュウソウ)――」


 そこから勢いよく剣を振り上げつつ、跳び上がった。


(何となく対空技っぽいんだよな、これ)


 技を繰り出しながら、場違いにも前世の格闘ゲームのことを思い浮かべる。

 ロームングノスの腹部を切り上げながら、打ち上げた。


 そして空中でひっくり返ったロームングノスの腹部に向け、落下する勢いを利用しながらショークリアは牙を突き立てるように剣を振り下ろす。


「――襲牙(シュウガ)ッ!」


 腹部に剣を突き立て、そのまま地面へと叩きつける。

 それでも――かろうじてとはいえ――まだ生きている生命力は大したものだ。

 だが、ショークリアは素早く剣を引き抜くと、容赦なくその首もとを切り裂いた。


「ロームングノス……知識はあったけど、出会うのは初めてだものね。美味しく食べれればいいのだけど」


 首から流れ出る血を見ながら、ショークリアは思わずそんなことを口にするのだった。




 グノス種の中でも一般的にはマイナーな部類に入るはずのロームングノスの群は、キーチン領の戦士たちによって容易に(ほふ)られた。


 恐らくそれは、この領地の領主が想定していた時間よりも圧倒的に短かったのだろう。


 領地騎士がやってきた時には、すでに戦闘は終了し、後片付けがされた形跡だけが残っている。

 だが、そこにはキーチン領の馬車の姿などどこにもないのだった。




「正直、わたしたちのコトを舐めすぎよね」


 血の臭いに釣られて他の魔獣が集まってくる前に、その場から移動したショークリアたちは、街道から大きく外れた場所で一息ついていた。


「まったくです」


 うなずくのは、今回のショークリアの護衛戦士である女性戦士団(ファム・ファタール)の副長カロマだ。

 ちなみに団長であるサヴァーラはマスカフォネの護衛を担当している。


 団長と副長が同時に外出する状況ではあるが、それはファム・ファタールとしては想定済みだ。

 ちゃんとナンバー3を決めており、その人がファム・ファタールの留守番組をまとめている。


 ともあれ――

 マイナーな種であろうとも所詮はグノス種。

 歴戦の騎士や戦士たちからしてみれば、グノス種との戦闘の心得はあるのだ。そこにショークリアの知識があれば、そう簡単に苦戦はしない。


「ところで、お嬢様は何をなさっているんです?」

「ん? 食べれるかなぁって」


 倒したその場で処理するのは難しかったので、ロームングノスの肉の一部をささっと切り出して、持ってきたのだ。


「食べれるのですか?」

「読んだ本には、生息域近隣の集落では食べるって書いてあったのよね。

 毒沼に潜っても平気だったり、爪に毒があったりと、ちょっと危なそうな魔獣だけど、意外にも肉に毒は含まれないみたい。

 爪の毒も、高温で焼けば消えてなくなるから、指のお肉を食べたりするみたいよ」


 そう告げながら、ショークリアは切り出した肉を一口サイズに切って、木の枝に刺していく。


 それを焚き火で炙る。

 ちなみに、カロマも怖じ気付いてはいないようで、物欲しそうな顔をしていたので彼女の分も一緒に焼いた。


「それじゃあ実食」

「いただきます」


 充分に火が通ったと判断したところで、二人はそれにかぶりつく。

 周囲から好奇の視線が向けられているが――それは二人の奇行に対してというよりも、その味に対してだ。


 ここ数年で、戦士団は男女問わず随分とショークリアに染まってしまったようである。


「……美味しいッ!」

「これは、すごい!」


 味は白身魚のそれだ。

 白身魚の淡泊な旨味。けれどもその歯ごたえは鶏肉のようなのだ。

 魚の味のする鶏肉というべきか――それは初めて食べる味だった。


 だが、美味しい。

 軽く塩をふってあげれば、食事にもお酒のアテにも充分なシロモノだろう。


「放置してきてしまったのが勿体ないなぁ」

「でも、今から取りにも戻れません。

 味が知れただけでも(よし)としましょう」


 しみじみとうめくショークリアに、後ろ髪を引かれまくってる顔でカロマが告げる。


 そんな風に、休憩がてらに新しい味を楽しんでいると、そこへマスカフォネがやってきた。


「ショコラ」

「お母様? どうなさいました?」

「少々、聞きたいコトが」


 そう答えるマスカフォネに、ショークリアは小さくうなずいて先を促す。


「戦闘前――グノスに関して説明した後で、何か思案していたでしょう?

 何を気にしていたのかと思いまして」


 マスカフォネの言葉に、ショークリアは一つうなずくと、焼き上がったロームングノスの串焼きを一つ手渡した。


 母がそれを受け取るのを確認してから、ショークリアは告げる。


「それ――主な生息地が湿地帯のハズなの」


 ショークリアの言葉に、マスカフォネは目を瞬いてから、一口かじった。

 その味に驚き、改めてもう一口食べてから、マスカフォネは苦笑する。


「わざわざ美味しい食材を湿地帯から届けてくださったのですね」

「そうなります。そもそも、あまり群れる魔獣ではないですし。

 そりゃあ生息地とかでなら、群れてない個体に囲まれるコトはあるでしょうけれど」


 母娘の話を横で聞いていたカロマの顔にも苦い笑みが浮かぶ。

 前足の爪に毒を持ち、魔力に対する抵抗力の高い魔獣をわざわざ湿地帯から運んできたことになるのだ。


「デビュタントで嫌味のネタにされてしまうのでは?」

「してくれればいいわ。いくらでも返しようはあるから」


 実はペットだったのに、キーチン領の者に狩られてしまったとか言われたとしても、そんな危険生物を野放しにしておくなんて、飼い主としての責任はないのか――などと返せるのだ。


「今頃は、ここの領地の騎士たちがイチャモン付ける為に、こちらを追うように街道沿いに進んでいるでしょうね」

「よもや、領主も領主夫人も領主の子も、野宿するコトを苦とも思わないとは、想像してないのでしょう」


 わざわざ街道から外れたのは、グノスの群れを倒したことを理由にイチャモンを付けられるのを避ける為である。


 本来、一泊する予定だった街へは行かず、そこからほど近い外れの森で野宿をするのだ。


 問題があった場合、野宿できるだろう場所――というのは、出発前に事前の話し合いがされている為、野宿への移行もスムーズである。


「アタシ個人としましては、野宿ならお嬢様の料理が味わえますので、下手な宿で宿泊するよりも嬉しいのですけれど」

「カロマの気持ち、良く分かるわ」


 本当に嬉しそうに告げるカロマに、同意する母。

 そんな二人の言葉に、喜んでいいのか困ればいいのか、何とも言えない顔をしながら、ショークリアは手元の串の最後の一口を頬張るのだった。


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