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ある意味一つの集大成 2

今宵は3話分更新です。


2/3


「〆のデザートとドリンクになります。

 デザートはサヴァランの(アルカス)ジャム添え。

 ドリンクは複数の花をブレンドした花茶です」


 デザートとドリンクはセットで提供だ。


 肉の余韻に浸る面々の前に出されるデザートはサヴァランだ。

 ドリンクは、この世界でもよく飲まれているポピュラーな飲み物である花茶(はなちゃ)である。


 花茶はその名の通り、スカイトピーというこの世界特有の花の花びらを煮出して作るお茶だ。だが当然、これも単純な花茶ではない。


 今回のコースの〆に飲むお茶として相応しくなるように、シャッハが組み上げた特製ブレンドだ。

 この世界ではあまりブレンドで楽しむということはないようだったが、マスカフォネに頼まれたシュガールとシャッハが、色々と試してくれたようである。


 サヴァランの方は甘さを控えて作ったもので、褐色(アルカス)の花びらを使ったアルカスジャムが添えられていた。

 褐色色の花弁なのに、煮出すと桜色になるから、不思議である。

 だが、そのおかげで愛らしいピンク色のジャムが、黄金に輝くサヴァランに乗ることとなった。

 黄金に添えられた桜色は、何とも華やかだ。


「なんと心地よい甘さと香りの菓子だ。

 これを食べると中央の菓子を食べれなくなるではないか」


 リュフレが感動するように漏らす言葉に、中央の菓子ってどれだけ甘いのだろうか――と、ショークリアは胸中で首を傾げるが、敢えて口に出すのは控えた。


「花茶も何と複雑で深い香りと味なのでしょう。

 ブレンドとは、どのような花なのでしょうか?」


 ドラップスの問いに、それを説明して良いかどうか――ショークリアが逡巡しながら、マスカフォネに視線を向ける。


 母はショークリアの視線の意味に気づいたのか、微かな動作でうなずくと、娘の代わりに口を開いた。


「ブレンドとは複数の花を組み合わせるコトなのですよ」

「組み合わせる……ですか?」


 ドラップスが首を傾げると、マスカフォネはうなずく。


「本来、花茶に必要な花の数を十とした時、赤色の花を六。黒い花を四。というふうに、複数種類を組み合わせてから煮出すのです」


 なるほど――と、納得するドラップスの横で、主であるリュフレは思わず唸った。


「……だとしたら、この味にする為に、途方もない試作をされたのでは?」

「ええ。少々、当家の料理人に無茶を言ってしまった自覚はありますわ。

 ですが、なかなか良い仕事をしてくれたと、私は思っております」

「まったくです。複雑かつ芳醇なこの味のお茶は、なかなか味わえるものではありませんな」


 そうして、デザートとドリンクが下げられたところで、ショークリアが頭を下げる。


「これにて、本日のコースは終了となります。ご賞味いただき、ありがとうございました」

「堪能させてもらったよ、ショークリア嬢……ショコラ嬢と呼んでも?」

「ええ。構いませんわ、リュフレ卿」

「では改めて、ショコラ嬢。楽しませてもらった。

 食事がこんなに楽しいものだと感じたのは初めてだ。

 ご一緒の許可を頂いた、従者たちも、存分に堪能したようなのは、顔を見ればわかっていただけると思う」

「ありがとう存じます。楽しんで頂けたようで何よりですわ」


 ショークリアが視線を巡らせると、ゴディヴァーム家の従者たちも一斉に頭を下げてくる。

 それにメイジャン家が応えたところで、本日のショークリアの出番は終了だ。


「リュフレ卿、そしてゴディヴァーム家の従者の皆さん。本日の来訪ありがとうございました。

 妻と子供たちは、ここで席を外させていただきますが、よろしいですかな?

 ここから先は、お酒でも飲みながら、領主同士で少々のお話をしたいと思いまして」

「ええ、もちろん」


 リュフレがうなずくのを確認してから、フォガードはショークリアへと向き直った。


「ショコラ。すまないが、良さげな肴を見繕って貰えるかな?

 あまり腹に溜まらず、それでいて酒に合うものが欲しいのだが」

「わかりました」




 退室していくショークリアたちを見送ったあと、リュフレは実に興味深そうな視線で、フォガードを見やった。


「いやはや、先ほども言いましたが驚きに満ちた昼餐(ちゅうさん)でした」

「そう言って頂けて何よりです」


 そう言葉を交わしあってから、どちらともなく小さく吹き出す。


「見せかけだけとはいえ、我々はギスギスしたやりとりが多いですからね。こうやってフォガード卿とゆっくり話ができるのは、大変ありがたい」

「こちらもです。棘のある言葉の影に重要な言葉を紛れさせ、色々と支援して頂き、いつもありがとうございます」


 やっと正面からお礼を言えた――と、フォガードが笑えば、リュフレも本当にその通りだと笑い返した。


「フォガード卿、いくつか伺いたいコトがあるのですが、よろしいですか?」

「ええ。答えられる範囲で――というコトにはなりますが」

「それで充分です」


 家のことをする侍従以外の戦士や文官に女性が多い気がするとリュフレが問えば、女性雇用を増やしただけだとフォガードは事も無げに返事をする。


「どれだけ優秀でも女性というだけで切り捨てられやすい世の中です。優秀な人材が欲しいのであれば、女性の中から探すのは悪くないですよ。

 もちろん、優秀であるのならば相応の給与や待遇で迎えております。また女性特有の問題なども色々あるようですので、女性たちから話を聞きながら手探りで制度を整えているところです」


 フォガードの言葉に軽い驚きを覚えつつ、例えばどのような整備をしたのかと、リュフレが問う。


「リュフレ卿にだからこそ明かしますが、ほかの領地では恐らくはうまく行かないでしょう」

「でしょうな。そもそも女性に対する考え方そのものを変える必要があるでしょうからな」


 リュフレの父である先代ゴディヴァーム当主は、早世であった。

 当時、リュフレは、中央の騎士学校にいた為、彼が領地に戻るまではゴディヴァーム夫人が領主代行を努めていたという経緯がある。


 もちろん、代行とはいえ女性領主であったゴディヴァーム夫人。相当周囲からの当たりが強かったことを、フォガードは覚えていた。

 リュフレがゴディヴァーム家に戻った後も、すぐには引き継がなかったという話も聞いている。

 そもそも、リュフレは騎士学校を卒業してから父の横で本格的な領主業を学んでいく予定でいたそうだ。


 だからこそ、しばらくはゴディヴァーム夫人が、リュフレの教育をしながらの領地経営をしていたのである。

 そして、そんな母を身近で見ていたリュフレだからこそ、女性雇用の拡大というフォガードのやり方に、反感を覚えず受け入れてくれるだろうという予感もあったのだ。


 フォガードは、女性雇用の話をしながら、リュフレの様子を伺う。

 真剣な顔をしていることから、かなり前向きに検討しているようだった。


 いくつかの質問を答えられる範囲で答えたところで、この話題は終わりを迎える。


「続けて聞いても良いだろうか?」

「もちろん……ですがその前に、新しい酒と肴が来たようです」


 運ばれて来たのは、ショークリアがフライドポテトと呼んでいる料理だ。

 細切りしたイエラブ芋を高温の油で揚げて塩を振ったものである。


 一緒に水の入った指洗い器(フィンガーボール)が添えられていることから、リュフレとともに手で食べて欲しいのだろう。


「これは?」

「ショークリアがフライドポテトと呼んでいる料理です。

 味付けは塩だけと非常に簡素ですが、なかなかどうして病みつきになる味なんですよ」


 そう告げ、フォガードは一本摘んで口に運ぶ。

 油に汚れた指を指洗い器(フィンガーボール)で洗って、一緒に置かれているフキンで指を拭った。


 フォガードが食べるのを真似てリュフレがフライドポテトを口に運ぶ。


「熱っ……ですが、これは良いですね」


 程良い塩味が、イエラブ芋の風味を引き立てる。

 サクサクとした表面と、ホクホクとした内側の食感の差も良い。


 リュフレは嬉しそうにエパルグの果実酒(白ワイン)を傾けてから、フォガードに問いかける。


「次の質問というのは、まさにこれです。

 減塩料理について……この料理、領地に流行らせていますね?」

「もちろん。理由は――リュフレ卿もおわかりでしょう?」


 こうして二人は、フライドポテトに舌鼓を打ち、お酒を傾けながら、話を弾ませていく。


 憧れの騎士とこうして言葉を交わせることを楽しむリュフレ。

 迂遠な方法ながら、これまで色々と支援をしてくれていたお礼とばかりに、話せる範囲で手札を明かしていくフォガード。


 二人のささやかな酒宴は、このままお茶会(おやつ)の時間になるまで続くのだった。


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