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お披露目の日って奴が来るッ!


 新大陸歴598年。

 銀月の第二週。青の曜日。


 新年を迎えてまだ二週目のこの日に、お世辞にも整備されているとは言い難い道――ダイキーチ街道を、豪奢(ごうしゃ)な馬車を中心とした一団が進んでいく。


 その豪奢な馬車に乗っている金色の髪をした男性の名をリュフレ・トリム・ゴディヴァーム。

 このダイキーチ街道が結ぶ西側の領地、ダイドー領を納める若き領主だ。

 サラサラと揺れる前髪の下にある暗い茶色の瞳を、近くに座る者へと向けた。


「ドラップス」

「はい」


 馬車の中で、リュフレは古くよりゴディヴァーム家に仕える初老の男、ドラップス・ユセフ・ラティエに声を掛けると、彼は恭しく返事をした。


 後へ撫でつけている髪は、かつては深い茶色をしていたが、今は白いものが混じり、遠目からみると乳白色にも見える。

 だが、背筋は常に伸び、衰えなど一切感じさせない老練の従者だ。


 主であるリュフレと似たような色の瞳を、返事とともに主に向ける。


「フォガード卿のところの二人目の子供のお披露目……俺以外に出席する奴がいると思うか?」

「率直に申し上げるのであれば、いないかと存じます」

「だよな」


 分かり切った答えではあったが、やはり自分以外のものの口から聞くと思わず嘆息が漏れてしまう。


「フォガード卿はメイジャン本家からも、疎まれ出してるそうだ」

「夫人であるマスカフォネ様も、ご実家との仲に冷えが見えていると聞いたコトがございます」


 キーチン領と隣接している領地は、リュフレの領地であるダイドー領と、もう一つコーロン領がある。

 だがコーロン領の領主は、キーチン領を目の敵にするような動きをとっている。招待状が来たところで、来たりはしないだろう。


 そもそもキーチン領の領主は、その爵位と土地を得た時から歓迎はされていなかったのだが。


 キーチン領の領主フォガード・アルダ・メイジャンは、武勲によって中級騎士爵と領地を得た男だ。

 彼をポッと出の領主と称しバカにするものが多いが、リュフレはそう思っていなかった。


 フォガード卿は自分が与えられた領地の重要性を良く理解している。

 上級貴族の多くは、管理の面倒な土地を褒美と称して押しつけたと思っているようだが、リフュレとフォガードはそう思ってはいなかった。


 何よりフォガードは優秀だ。

 騎士からの成り上がり領主とはいえ、開拓の難しい土地をうまく発展させている。

 

 寒村を多少見栄えある町にした程度――とバカにする者も多いが、そういう話は聞く度に苛立ってしまう。

 それがどれだけ難しいことかを理解できない者が口にするなと思うのだ。


 王都を含めた大きな街が今の形になったのは、先人たちのどれほどの努力の成果なのか。

 それを分からないという者が貴族の中に増えてしまっているのは嘆かわしいことである。


「領民から搾取するだけが領主の仕事ではないのだがな」


 独りごちた言葉に、ドラップスは敢えて反応を見せない。


「個人的にはもう少し擁護と援助をしてやりたいが、表立ってやりすぎると、今度はうちの領地にちょっかいかけてくるバカが出てくるだろうからな……」


 故に、領主としてのご近所付き合いの範疇から逸脱したようなことは中々できないでいた。


 リュフレも――いやゴディヴァーム家もまた、中央でイス取りゲームに興じてる貴族たちからは、あまり好かれていない故に、迂闊な行動は領民を危険に晒しかねないのだ。


「炎剣の貴公子フォガード――俺の憧れの騎士の一人だ」


 リュフレは幼い頃から騎士物語が好きで、騎士への憧れを拗らせた結果、一時期は騎士団に在籍していたこともある。

 今もなお自領の騎士たちに負けぬようにと鍛錬を欠かしていない。


「そんな憧れの騎士に、嫌な言葉を吐き続けねばならんというのは、何とも損な役回りだよな」


 その嫌味に、可能な限り情報を混ぜ込んではいるのだ。

 それらに気づいて、うまく情報を使ってくれていれば良いのだが――



   ○ ○ ○ ○ ○



 銀月の第二週、青の曜日。

 今までで一番豪奢でお洒落なドレスに、アクセサリでおめかしさせられたショークリアが鏡の前で、固まっていた。


 姿見に映る自分の姿はガチガチに強ばっている。


「ううっ……緊張する……」

「大丈夫よショコラ。どうせリュフレ卿しか来ないのだから」

「でも、うちより偉い貴族の人に会うのは初めてだし……」


 準備の手伝いに自室にやってきてくれた母が、こちらの緊張を(ほぐ)そうと笑いかけてくれるが、気持ちは全然落ち着かなかった。


 この国――ニーダング王国の貴族階級は、ある意味でわかりやすくはある。

 王族をトップに準王族、上級貴族、準上級貴族、中級貴族……と続いていき、準下級貴族まであるのだ。


 騎士や魔術士は、その功績によって実家ではなく個人に対して爵位を与えられる。

 この場合、中級魔術爵、下級騎士爵といった功績爵と呼ばれる爵位を与えられるのだ。

 この功績爵の地位は、同準級爵に準ずる――というのが表向きではあるが、基本的に純粋な貴族爵の持ち主たちからは、下に見られるのが常だ。


 ショークリアの父フォガードはそんな功績爵であり、中級騎士爵を得ている。


 ちなみに、これからやってくるというリュフレは上級貴族である。

 王族関係者の次に高い爵位の持ち主だ。もっとも、王都で暮らす中央貴族たちは、自分たちは地方領主よりも偉いと思っている為、リュフレを見下しているそうだが。


(偉いやつ相手に、粗相がないようにするって、マジ怖ぇんだよな……。

 あー……度胸や気合いだけでどうにか出来る気がしねぇ……ッ!)


 なまじ前世ではそういう相手には反発し続けてきたのだ。

 下手をすれば家族に迷惑が掛かってしまう――そう思うと、どうしても肩に力が入ってしまう。


「大丈夫。少し失敗してもフォガードがリュフレ卿から嫌味を言われるだけなのだから。

 がんばった子供に直接嫌味をぶつけるほど、程度の低い方ではないわ」


 マスカフォネの言葉は暗に、リュフレ以外の貴族は程度が低いと言っているようにも聞こえる。

 それを不思議に思って母の顔を見ると、母は意味ありげに微笑んでみせた。


「リュフレ卿は、若くして領主となって様々な人に揉まれて来た方だから。嫌味は一種の防衛手段になってしまっているのでしょう。

 でも、悪い人ではないわ。周囲から揚げ足を取られないように我が家へと嫌味をこぼすけれども、その嫌味の中には貴重な情報が込められているコトが多いもの」


 フォガードもリュフレを立てるために、嫌な顔をしながら嫌味を返すように頭を下げる。

 そうして、お互いに情報交換をしているのだという。


「今日に関して言えば、あなたが上手くやれば、いつもよりも柔らかい言葉で情報交換ができる。

 あなたが失敗しても、いつも通りの嫌味の応酬で情報交換ができる。

 気にしすぎず、気負いすぎず、これまで習ってきたコトを家族に見せて頂戴」


 失敗しても大丈夫――そう言って抱きしめてくれるマスカフォネ。


(男――じゃなかった……女ショークリアッ、こうなりゃ度胸見せてやるぜッ!)


 その優しい包容に、ショークリアは肩の力を抜きつつ、気合いを入れるのだった。


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