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帰る前にひと仕事ってな

あけましておめでとうございます٩( 'ω' )وことしもよろしくおねがいします


あけおめってコトで2話掲載です(1/2)


 カロマは持って行った荷物運び用のソリに大量の肉塊を乗せて戻ってくる。ザハルも一緒に戻ってきたのだが、ボンボはいなかった。


「これが全てではないですからね」

「ボンボの旦那に残りを見張っててもらってるのよ」


 二人はそのソリの上の肉塊などをマスカフォネが持ち込んだ神具(アーティファクト)創空(そうくう)の収納庫》へと入れていく。


 ソリの上のすべての肉塊を入れ終わると、カロマとツォーリオが交代する。


 カロマが馬車の見張りとなり、ザハルとツォーリオが再びソリを伴って林の中へと戻っていく。


 そうして何度目かの収納の時に、マスカフォネがふと気が付いた。


「変異ダームを刻んだにしても些か量が多くはありませんか?」

「ん? ああ。ふつうのロムラーダームも襲いかかってきたんで返り討ちにしといた」


 なんてことなくザハルが答えて林の中へと戻っていく。


「お母様、一緒に入れてしまって取り出す時は大丈夫なのですか?」

「そこは問題ありません。なにを取り出したいのか念じながら手を入れれば、望み通りのモノが取り出せますから」


 こうして無事に変異ロムラーダーム+αを全て収納し終えて、一行は第一休憩点へと向かう。

 ちなみに+αの内訳としては、雪紅ウサギや枯れ角のオオジカなどだ。ちゃっかりと結構な数のウサギやシカをしとめたようでる。



 帰る前にまずは休憩点で一泊だ。


 ヤンキーインストールのせいで全身が筋肉痛のようになってはいるが、だからといって何もしないのは心苦しいということで、ショークリアが夕餉を作った。


 その味もまた評判のうちに夜の帳が落ち、就寝となる。



 翌朝。

 ショークリアは身体はすっかり回復していた。


 だが――


「うーん……魔力(カラー)の制御に違和感というか、上手くできないというか……」

「それもまた後遺症なのでしょう。

 その違和感がなくなるまでは、彩技(アーツ)は使わないように」


 無理して使えば二度と魔力の制御が行えないかもしれないとマスカフォネに脅されれば、さすがのショークリアも無理はしない。


 朝食後は褐色地に向かって、可食魔獣の調達だ。

 褐色ウサギに褐色シカ、褐色クマ、褐色ボアなどを狩っていく。

 ショークリアは戦闘には参加せずに観戦である。魔力をうまく制御できないのだから仕方がない。


 その傍らで、ショークリアはターメリックと、ショウガをゲット。


 ちなみにショウガに関してはレグニーグという似た食材が存在している。

 だが、レグニーグは地球のショウガと似た植物ながら、根を食すのではなく、茎によく似た実を付けるものであり、その実を食すのだ。

 その為、根から掘り出す必要のある褐色地のものは地球のショウガに近いようだ。


 なので、ショークリアは、これを褐色ショウガと呼ぶコトにした。

 ターメリックはターメリックのままである。


 ただターメリックと褐色ショウガはよく似ている。

 花の形を見れば判断できるのだが、採取してしまうと可食部が似すぎてて見分けをつけるのが難しい。なので、収穫しながら袋分けした。


 続けて、褐色地の奥にあるエニプス・イティマレクの実――あの栗にそっくりのものだ――も収穫に向かう。


「食べれるって分かったのだから、いつまでも災いの(エニプス・)棘塊(イティマレク)って呼び方、可哀想じゃない?」


 実を拾いながら、ふとショークリアがそんなことを口にすると、カロマが笑う。


「それなら、以前口にされていましたクリと呼ぶのはいかがでしょう?」

「おう。いいんじゃないのか。

 エニプス・イティマレクの樹から採れる木の実――クリってな」

「なら、褐色地のクリだから、『褐色グリ』でいいかな?」


 そんなワケで名称決定である。



 午前中をダイリ褐色地での狩猟・採取に使った一行は、再び休憩点へと戻ってくる。

 採ってきたものを神具(アーティファクト)に収納。


 そして、この休憩点にて今日のお昼だ。

 当然のようにショークリアは包丁を手に取る。


(さて、何を作るかね。

 ジビエ料理とかやったコトはねぇけど、知識がないワケじゃねぇ……)


 かつて前世の母が買っていた料理マンガやレシピ本なども、暇な時に目は通している。


(肉に栗のソースを合わせるフレンチってのを作らされた覚えもあるしな)


 前世では母親にせがまれてマンガレシピの再現料理とかも作ったことがある。

 その時のことを思い出しつつ、今ある素材で作れそうなものを考えてみることにした。


 男性陣が白ワインに似た酒を持ってきていたはずだ。

 褐色グリとそれを合わせてソースにするのは良いのではないだろうか。


(となると……だ)


 頭の中である程度の組み立てが終わると、ショークリアは動き出す。

 まずは、小屋の中で使えそうなものを探す。


 小屋の中には何に使うのかよく分からない鉄の板があったので、ザハルの許可を貰ってそれを手にする。

 真ん中に向かって僅かに傾斜しており、中央が凹んでいるのも都合がいい。


 ……が、重たいのでカロマに手伝ってもらうことにした。


 その板を綺麗に洗い、簡易コンロの上に乗せて鉄板にする。

 鉄板に問題がなさそうなのを確認したショークリアは、次に皆からの許可を取り、褐色シカの肉を収納庫から取り出した。それを厚めにスライスし、軽く切り込みを入れておく。


 次に褐色グリを取り出し、厚皮を剥く。

 渋皮はそのままにした状態でいくつも串で刺して、火で炙る。


 渋皮が焦げたくらいで、渋皮を剥けば甘いクリの芳香が広がっていく。


「クリという木の実の、なんと甘やかな香りでしょう……」


 横でショークリアの調理を見ていたマスカフォネがうっとりと呟き、その横にいたカロマが全力で首を縦に振っている。


「生の香りとはまた違った良さがあります」


 その時、ふとカロマはショークリアを見やった。


「そういえばお嬢様、彩技(アーツ)を使わずに料理できるのですね」

「使えた方が便利に動けるってだけだよ。重たいモノを持ち上げたり、みじん切りとかするのに身体能力を高めるとラクだから――今はそれができないから、カロマに手伝ってもらってるでしょ?」


 ショークリアの答えにカロマは納得する。

 まだまだ小さい身体を補う手段が、彩技(アーツ)というわけだ。


 クリを必要数だけ火を通したあとは、褐色シカの肉に塩で下味をつけ、塩を振った面を下にして、薄く油を塗った鉄板に置いた。

 熱された鉄板に置かれたシカ肉がジュージューと主張の激しい音をあげる。


 その間に小さな鍋を鉄板に乗せて暖める。

 暖まってきたその鍋の中に、ボンボからもらったエパルグという果実で作った白ワインに似た味の果実酒を注いだ。


 記憶にあるレシピだと赤ワインだが、まぁ問題はないだろう。

 肉ではなくパスタと合わせる白ワインを使った栗ソースというのも記憶にある。上手いことやれば大丈夫なはずだ。


 ちなみに、隠し持ってるお酒が欲しいとお願いしたら、安酒がごちそうに変わるなら是非とボンボが快く提供してくれたのだ。その期待くらいには答えられる料理にしたいと、ショークリアは思っている。


 エパルグの果実酒を熱している間に、焼いたクリの半分を細かく刻む。残りの半分は一口大だ。


 褐色グリの粒が非常に大きい。

 その為、そのままのサイズで使うには大きすぎるのだ。

 なのでだいたい三等分に切り、一口大にする。


 細かく刻んだクリはそのまま果実酒の中へ投入。さらに褐色地で取ってきた少量のショウガも入れた。

 刻んだクリをすりつぶすように鍋をかき混ぜながら、肉の様子を常に伺う。


 本来であればソースは一度漉した方が良いのだが、ここでやるのは難しそうなので、そのままにすることにした。


 片面が焼けて来たようなので、まだ生の面に軽く塩を振ってからひっくり返す。


 そのタイミングで、一口大に切ったクリも鍋へと投入。

 こちらは形を崩さないように煮込んでいく。


 糖分と澱粉の塊であるクリを煮詰めるので、ソースはトロトロになっていく。


 肉の表面が焼けたところで、鉄板からおろす。


 平らな岩の上に、大きな葉っぱで作った皿を置き、その中に綺麗に洗った太さの近い枝を数本並べる。ようするにバットの代わりだ。

 それからは枝の上に肉を置いた上でクロッシュを被せた。


 こうやって肉自身が持った余熱でもって、中に火を通すのだ。


 そして鉄板の凹み部分にたまったシカ肉から出た油をすくい取り、鍋へと移す。しっかりと混ぜ合わせてから、塩で味を調えればソースは完成だ。


 ソースができる頃には肉も丁度良い頃合いになっている。


 肉を適当なサイズに切り分けながら、それぞれの皿に盛り、褐色グリのソースをかければ完成だ。

 

 ショークリアは完成だと皆を呼ぶ前に、鉄板に残った小さな肉片を手で摘み、鍋に残ったソースに軽く潜らせて口に放り込む。


 ソースは肉の味を引き立てる甘酸っぱい味に仕上がっていた。


  エパルグの持つやや強めの酸味は、熱されたことでカドが取れソースの爽やかさを演出している。

 一方で、元々あまり高くはなかったエパルグの甘みとは別に、まろやかでこっくりとしたクリの甘みが声を上げ、エパルグの風味と絶妙にまざり合う。

 完全に取り除き切れていない焼けた渋皮の仄かな苦みと渋みと、隠し味程度に入れたショウガも良い仕事をしている。

 そこに、シカ肉からこぼれ落ちた脂を加えたことで、爽やかな酸味と、コク深い甘み、そして脂による旨みとインパクトが付加された。


 シカ肉のそのものの旨みもすごい。

 赤身の強い鮮やかな肉は、やや硬めの肉質なれど、決して食べづらい硬さではなく絶妙だ。

 熱され、余分な脂を落としながらも、まだなおしっかりと残る風味豊かな脂の旨み。


 焼いて塩を振っただけででもごちそうになりそうなソレの味を、ソースがワンランク以上に、味を高めてくれていた。


 ショークリア個人としてはソースに少しばかり物足りなさはあるが、手元にある材料で作ったとすれば十分だろう。

 贅沢を言えばソースにはブイヨンやコンソメを少し加えたかったが、無い物ねだりをしても仕方がない。


「よし。こんなものかな」


 小さな呟き。

 誰に言ったわけでもないはずなのに、離れた場所でそれぞれに作業していたはずのザハルとツォーリオとボンボが、一瞬にしてこの場へと現れた。


「……呼んでないのに、すごい勢いで集まってきた……」


 思わずショークリアが苦笑すると、ショークリアの料理は熱々のうちに食べるのが美味いのだから当然だと男性陣が口にする。

 それに対して、とても真面目な顔でうなずくのが女性陣だ。


「みんなの期待に応えられる味だといいんだけど……。

 ともあれ、『褐色シカのステーキ~褐色グリのエパルグソース掛け~』完成!」


 食べやすく一口大にカットしたステーキをそれぞれの皿に盛り、上からソースを掛けて、みんなへと手渡していくのだった。



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